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第4章 12 ギプスの外れる日
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ヒルダとルドルフが一緒に馬車に乗って登下校するようになって早いもので1カ月半がたとうとしていた。
初めは白い目でヒルダを見ていた貴族令嬢達も今ではヒルダの足のギプスや車椅子に対して偏見が無くなり、ヒルダの暮らしは以前の様に元通りになりつつあった。
一方、ヒルダとルドルフは婚約した仲とは言え、登下校位しか時間を共有する事は無く、2人の関係は何も進展する事は無かった。ヒルダとしては登下校以外にもルドルフとの時間を共有したかったのだが、父のハリスによって止められていた。
父曰く、幾ら婚約したとは言え2人はまだ15歳なので節度ある付き合い方をするように言われていたからだ。最もヒルダはその言葉の裏にある意味など知る由も無かった。父はヒルダが怪我をした為に傷がついた名誉が仮に回復すればルドルフとの婚約をいつでも破棄させるつもりでいたからである。
そして土曜日―
今日はヒルダが足の手術を受けた病院の診察日である。もし予定通りなら本日ヒルダは足のギプスが外れる事になっていた。
ヒルダは父のハリスと、母マーガレットと馬車に乗り込んだ。
「ヒルダ様。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
ルドルフが見送りに来ていた。
「ええ、ありがとう。」
ヒルダは頬を染めながらルドルフを見つめた。
「旦那様、奥様、ヒルダお嬢様。お早いお帰りをお待ちしております。」
すっかり執事としての貫禄が身について来たマルコが恭しく頭を下げる。
「ハリス。今夜は屋敷には戻らないので留守を頼んだぞ。」
馬車の窓から顔を覗かせてハリスが言う。
「はい、かしこまりした。旦那様。」
そして3人はマルコとルドルフに見送られ、駅へと向かった―。
電車を何度か乗り継ぎ、4時間かけてヒルダたちは病院へ到着した。入口から中へ入ると既にヒルダの手術を担当した男性医師が待っていてくれた。
「やあ、ヒルダ。待っていたよ?」
男性医師はヒルダに笑顔で話しかけてきた。
「先生、お久しぶりです。」
ヒルダは車いすに乗ったまま、丁寧にお辞儀をした。
「よし、それじゃ早速ギプスを外して骨がちゃんとくっついているか確認してみようか?」
「はい。」
するとハリスが言った。
「先生、どうぞヒルダをよろしくお願い致します。」
「私からもお願いします。」
マーガレットは頭を下げてきた。
「ええ、お任せください。よし。それじゃヒルダさん、診察室へ行こうか?」
男性医師は車椅子を押すと、ヒルダを診察室へと連れて行った。
1時間後―
診察室のドアが開かれ、男性医師が現れた。
「先生っ!ヒルダはどうですかっ?!」
診察室の前の長椅子に座っていたハリスが立ち上った。
「どうぞ中へお入り下さい。ヒルダさんがお待ちですよ。」
男性医師に促され、ハリスとマーガレットは診察室の中へ入ると、そこには包帯で左足を巻かれたヒルダが椅子に座っていた。
「ああ、ヒルダ。足のギプスが取れたのね?!」
マーガレットが嬉しそうにヒルダに抱き付いた。
「はい、お母さん。」
ヒルダは母の背中に腕を回すと言った。
その様子を見ていた男性医師は口を開いた。
「ヒルダさんの足の複雑骨折した骨は綺麗にくっついていました。手術の傷跡はまだ残っていますが、半年から1年くらいで消えるはずです。女の子ですからね・・・傷跡が消えるまでの間は包帯で隠しておけばいいでしょう。」
「先生、それで・・・・ヒルダの足はどうなのですか?やはり元通りには・・?」
ハリスの質問に、男性医師は目を伏せながら言った。
「残念ながら・・・やはり元通りには戻ません。若干麻痺は残りますが、しかし杖を突けば1人でも歩けますよ。」
「そ、そうですか・・・。」
ハリスは落胆するし、マーガレットに関しては涙ぐんでいるが、当のヒルダは気丈に振舞っていた。
本当は一番ショックを受けているのはヒルダだったのだが、悲しむ両親の前で、自分迄悲しみを露わにする事は出来ないと悟ったからである。
そして思った。
早く帰ってルドルフに慰めて貰いたい―と。
初めは白い目でヒルダを見ていた貴族令嬢達も今ではヒルダの足のギプスや車椅子に対して偏見が無くなり、ヒルダの暮らしは以前の様に元通りになりつつあった。
一方、ヒルダとルドルフは婚約した仲とは言え、登下校位しか時間を共有する事は無く、2人の関係は何も進展する事は無かった。ヒルダとしては登下校以外にもルドルフとの時間を共有したかったのだが、父のハリスによって止められていた。
父曰く、幾ら婚約したとは言え2人はまだ15歳なので節度ある付き合い方をするように言われていたからだ。最もヒルダはその言葉の裏にある意味など知る由も無かった。父はヒルダが怪我をした為に傷がついた名誉が仮に回復すればルドルフとの婚約をいつでも破棄させるつもりでいたからである。
そして土曜日―
今日はヒルダが足の手術を受けた病院の診察日である。もし予定通りなら本日ヒルダは足のギプスが外れる事になっていた。
ヒルダは父のハリスと、母マーガレットと馬車に乗り込んだ。
「ヒルダ様。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
ルドルフが見送りに来ていた。
「ええ、ありがとう。」
ヒルダは頬を染めながらルドルフを見つめた。
「旦那様、奥様、ヒルダお嬢様。お早いお帰りをお待ちしております。」
すっかり執事としての貫禄が身について来たマルコが恭しく頭を下げる。
「ハリス。今夜は屋敷には戻らないので留守を頼んだぞ。」
馬車の窓から顔を覗かせてハリスが言う。
「はい、かしこまりした。旦那様。」
そして3人はマルコとルドルフに見送られ、駅へと向かった―。
電車を何度か乗り継ぎ、4時間かけてヒルダたちは病院へ到着した。入口から中へ入ると既にヒルダの手術を担当した男性医師が待っていてくれた。
「やあ、ヒルダ。待っていたよ?」
男性医師はヒルダに笑顔で話しかけてきた。
「先生、お久しぶりです。」
ヒルダは車いすに乗ったまま、丁寧にお辞儀をした。
「よし、それじゃ早速ギプスを外して骨がちゃんとくっついているか確認してみようか?」
「はい。」
するとハリスが言った。
「先生、どうぞヒルダをよろしくお願い致します。」
「私からもお願いします。」
マーガレットは頭を下げてきた。
「ええ、お任せください。よし。それじゃヒルダさん、診察室へ行こうか?」
男性医師は車椅子を押すと、ヒルダを診察室へと連れて行った。
1時間後―
診察室のドアが開かれ、男性医師が現れた。
「先生っ!ヒルダはどうですかっ?!」
診察室の前の長椅子に座っていたハリスが立ち上った。
「どうぞ中へお入り下さい。ヒルダさんがお待ちですよ。」
男性医師に促され、ハリスとマーガレットは診察室の中へ入ると、そこには包帯で左足を巻かれたヒルダが椅子に座っていた。
「ああ、ヒルダ。足のギプスが取れたのね?!」
マーガレットが嬉しそうにヒルダに抱き付いた。
「はい、お母さん。」
ヒルダは母の背中に腕を回すと言った。
その様子を見ていた男性医師は口を開いた。
「ヒルダさんの足の複雑骨折した骨は綺麗にくっついていました。手術の傷跡はまだ残っていますが、半年から1年くらいで消えるはずです。女の子ですからね・・・傷跡が消えるまでの間は包帯で隠しておけばいいでしょう。」
「先生、それで・・・・ヒルダの足はどうなのですか?やはり元通りには・・?」
ハリスの質問に、男性医師は目を伏せながら言った。
「残念ながら・・・やはり元通りには戻ません。若干麻痺は残りますが、しかし杖を突けば1人でも歩けますよ。」
「そ、そうですか・・・。」
ハリスは落胆するし、マーガレットに関しては涙ぐんでいるが、当のヒルダは気丈に振舞っていた。
本当は一番ショックを受けているのはヒルダだったのだが、悲しむ両親の前で、自分迄悲しみを露わにする事は出来ないと悟ったからである。
そして思った。
早く帰ってルドルフに慰めて貰いたい―と。
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