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第4章 9 2人の幸せな時間

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 月曜日―

ヒルダの落馬事故から1カ月半が経過した。足のギプスはまだ1カ月は外せないが、流石にいつまでも学校を休むわけにはいかない。それに今日からはルドルフと一緒に登校するのだ。
馬車にはヒルダの車いすが畳まれて乗せられている。今ヒルダは馬車に揺られて、新しく引っ越しをしたルドルフの家に向っていた。

(今日からこの馬車にルドルフと一緒に乗って登校出来るなんて夢みたい・・。)

ヒルダは馬車の窓から外を眺めていると、やがてルドルフの屋敷が見えてきた。そして門の前には既に新しい中等学校の制服を着たルドルフの姿があった。
ルドルフは笑顔でヒルダに向って手を振っている。

(ルドルフッ!)

ヒルダも窓から顔を覗かせて手を振ると、ルドルフが馬車に向って駆け寄ってきた。
すると馬車は停車し、ルドルフはドアを開けると乗り込んできた。

「おはようございます、ヒルダ様。」

そしてニコリと微笑む。

「お、お早う。ルドルフ。そ、その制服・・・すごく良く・・似合ってるわ・・・。」

ヒルダは真っ赤になりながらルドルフに言った。

「ありがとうございます、ヒルダ様も制服すごく良く似合ってますよ?」

優しい笑顔で見つめられてヒルダの胸は高鳴った。

「あ、ありがとう・・・ルドルフ。」

モジモジしながら頬を染めてお礼を言うヒルダは本当に可愛らしかった。だから尚更ヒルダの左足のギプスが痛々しくて、ルドルフは胸が痛んだ。

(これからは僕がヒルダ様の足となって・・・ずっとお守りしていくんだ・・。)

ルドルフはヒルダの向かい側に座っていたが、立ち上がると突然ヒルダの隣に座って来た。

「ル・ルドルフッ?!」

ヒルダは突然ルドルフが隣に座って来たので驚いた。するとルドルフははにかんだような笑顔を見せると言った。

「・・ご無礼をお許しください。ヒルダ様。」

そしてヒルダの手にそっと触れると言った。

「ヒルダ様・・・僕はヒルダ様が許す限り、ずっと貴女の御側にいます。そして貴女の足となって貴女をお守りしていく事を誓います。」

言いながら繋いだ手の甲にルドルフは口付けた。

「ル・・・ルドルフ・・・。」

ヒルダはルドルフの言葉に感動して思わず涙ぐんだ。それを見たルドルフはすっかり慌ててしまった。

「す、すみません!ヒルダ様!僕・・何かヒルダ様を困らせるような事・・・言ってしまいましたか?!」

するとヒルダは目を擦りながら言った。

「うううん・・・そうじゃないの・・・う、嬉しくて・・。だって、私はこんな足になってしまって・・それなのに・・ルドルフは私を受け入れてくれたことが・・とても幸せで・・。」

「ヒルダ様・・・。」

ルドルフはヒルダの手をしっかり握りしめると言った。

「僕こそありがとうございます・・・僕は只の平民だったのに・・そんな僕を受け入れてくれて・・・。」

じっと見つめてくるルドルフの視線が恥ずかしくてたまらず、ヒルダは話題を変える事にした。

「ね、ねえ。ルドルフ・・・新しい学校・・緊張してる?」

ヒルダは尋ねた。

「ええ、少しは緊張してますけど・・・大丈夫です。新しい学校が今から楽しみです。」

ルドルフは既に先週、既に父と学校見学に来ており、新しく編入するクラスにも顔を出していたのである。そこで気の合いそうなクラスメイトにも出会えていた。その事をヒルダに話すと、ヒルダは自分の事の様に喜んでくれた。

「ほんとう?それなら良かったわ。ルドルフが楽しく学校生活を過ごせるのが私の一番の願いだから。」

ヒルダの言葉にルドルフは胸が熱くなった。

(ヒルダ様・・・自分の足の事よりも僕の事を心配してくれるなんて・・。やっぱり己惚れなんかじゃないですよね・・・?ヒルダ様も・・僕を好いてくれているんですよね・・?)

しかし、その言葉はルドルフは口に出さない。何故なら自分とヒルダは同等の立場では無い。ヒルダの両親との約束で、もし仮にヒルダがルドルフと別れたいと望めばルドルフはそれに応じなければならないという条件も含まれているからだ。

(ヒルダ様・・・どうかずっと僕を御側に置いて下さいね・・・。)

ルドルフは願いを込めてヒルダの手を強く握りしめるのだった—。
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