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第4章 2 小さな恋
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気付けばルドルフは自分の家には戻らず、ヒルダの屋敷に来ていた。
(ヒルダ様・・・。)
中庭からはヒルダの部屋が見えるが、肝心の彼女の姿は見当たらない。
(そうだよね・・・。そんな都合よくヒルダ様に会えるはずが・・・。)
幾ら婚約者と言っても、ルドルフはヒルダの両親の命令で婚約を交わした仲である。それに平民から貴族になれたのも、全てはフィールズ家のお陰だ。そして2人の婚約は結局は世間のヒルダに対する好奇心を避ける為に結ばれたようなもの。おいそれと会えるような間柄では無かった。
「帰ろう・・・。」
踵を返し、トボトボと歩き始め時・・・。
「ルドルフ?」
突然背後から声をかけられた。慌ててルドルフは振り向くとそこには車椅子に乗って中庭を散策していたヒルダの姿があった。
金の髪に長くウェーブのかかった髪・・・青い瞳の美しい少女ヒルダ。
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフは美しいヒルダに見惚れながら名前を呼んだ。
「どうしたの?家に来てくれたなら・・・あ、会いに来てくれれば良かったのに・・・。」
白い頬を薔薇色に染めてヒルダは言った。その愛しい姿を見ているだけでルドルフは学校での嫌な出来事も忘れる事が出来た。
(ああ・・・僕はこんなにもヒルダ様の事を・・愛しいと思っていたんだ・・。)
するとヒルダの方から車椅子で近付いてきて、ルドルフの顔を見るとハッとなった。
「ル、ルドルフ。どうしたの?その顔・・・腫れているわ。それに・・血が出ている。」
(まずいっ!ヒルダ様に・・・見られてしまった・・。)
慌ててヒルダから視線を逸らすとルドルフは言った。
「い、いえ。ちょっとこれは転んで怪我をしただけですから。」
そしてヒルダから距離を取ろうとして、袖を捕まえられた。
「ヒルダ様・・・?」
「ルドルフ・・・見せて。その傷。」
ヒルダの顔は真剣だった。
「はい・・分かりました。」
ルドルフはヒルダの目線の高さに合わせてしゃがむと、ヒルダはルドルフの傷のある頬にそっと小さな手で触れた。
「腫れているわ・・・それに熱を持っている・・。!血もでているじゃない!」
ヒルダは慌てて自分のポケットからハンカチを取り出すと、サッとルドルフの口から滲む血を拭きとった。
「ヒ、ヒルダ様・・・いけません!綺麗なハンカチが汚れてしまいます・・!」
「いいのよ、ハンカチ位・・。」
「そんな・・・駄目ですよ。僕なんかの為にこんなに綺麗なハンカチを汚すなんて・・・・。」
気付けばルドルフはヒルダの右手首を掴んでいた。
「あ・・・。」
睫毛が触れ合う程の至近距離にヒルダの顔があり、2人の視線がぶつかった。
途端に真っ赤になる2人は慌てて距離を置いた。
「ヒルダ様・・・その汚れたハンカチ・・・僕に貸して下さい。」
ルドルフはヒルダから視線を逸らすように右手を差し出した。
「え?な、何故?」
ヒルダはドキドキする胸の鼓動を押さえながら尋ねた。
「洗ってお返ししたいからです。」
「い、いいのよ。こんなハンカチの1枚や2枚・・・。」
するとルドルフが言った。
「な、なら・・・そのハンカチ・・僕に頂けませんか?」
「え・・?」
「き、記念に・・・貰っておきたいのです・・。」
ルドルフは頬を薄っすら赤く染めながらヒルダを見た。
「ルドルフ・・・。」
ヒルダは握りしめていたハンカチをルドルフに手渡すと言った。
「ルドルフ・・・こ、今度私が刺繍したハンカチ・・・受け取ってくれる・・?」
「はい!よ、喜んでっ!」
ルドルフは真っ赤な顔をしながら返事をした。
そんな2人の様子をマーガレットは部屋の中から黙って見つめていた—。
(ヒルダ様・・・。)
中庭からはヒルダの部屋が見えるが、肝心の彼女の姿は見当たらない。
(そうだよね・・・。そんな都合よくヒルダ様に会えるはずが・・・。)
幾ら婚約者と言っても、ルドルフはヒルダの両親の命令で婚約を交わした仲である。それに平民から貴族になれたのも、全てはフィールズ家のお陰だ。そして2人の婚約は結局は世間のヒルダに対する好奇心を避ける為に結ばれたようなもの。おいそれと会えるような間柄では無かった。
「帰ろう・・・。」
踵を返し、トボトボと歩き始め時・・・。
「ルドルフ?」
突然背後から声をかけられた。慌ててルドルフは振り向くとそこには車椅子に乗って中庭を散策していたヒルダの姿があった。
金の髪に長くウェーブのかかった髪・・・青い瞳の美しい少女ヒルダ。
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフは美しいヒルダに見惚れながら名前を呼んだ。
「どうしたの?家に来てくれたなら・・・あ、会いに来てくれれば良かったのに・・・。」
白い頬を薔薇色に染めてヒルダは言った。その愛しい姿を見ているだけでルドルフは学校での嫌な出来事も忘れる事が出来た。
(ああ・・・僕はこんなにもヒルダ様の事を・・愛しいと思っていたんだ・・。)
するとヒルダの方から車椅子で近付いてきて、ルドルフの顔を見るとハッとなった。
「ル、ルドルフ。どうしたの?その顔・・・腫れているわ。それに・・血が出ている。」
(まずいっ!ヒルダ様に・・・見られてしまった・・。)
慌ててヒルダから視線を逸らすとルドルフは言った。
「い、いえ。ちょっとこれは転んで怪我をしただけですから。」
そしてヒルダから距離を取ろうとして、袖を捕まえられた。
「ヒルダ様・・・?」
「ルドルフ・・・見せて。その傷。」
ヒルダの顔は真剣だった。
「はい・・分かりました。」
ルドルフはヒルダの目線の高さに合わせてしゃがむと、ヒルダはルドルフの傷のある頬にそっと小さな手で触れた。
「腫れているわ・・・それに熱を持っている・・。!血もでているじゃない!」
ヒルダは慌てて自分のポケットからハンカチを取り出すと、サッとルドルフの口から滲む血を拭きとった。
「ヒ、ヒルダ様・・・いけません!綺麗なハンカチが汚れてしまいます・・!」
「いいのよ、ハンカチ位・・。」
「そんな・・・駄目ですよ。僕なんかの為にこんなに綺麗なハンカチを汚すなんて・・・・。」
気付けばルドルフはヒルダの右手首を掴んでいた。
「あ・・・。」
睫毛が触れ合う程の至近距離にヒルダの顔があり、2人の視線がぶつかった。
途端に真っ赤になる2人は慌てて距離を置いた。
「ヒルダ様・・・その汚れたハンカチ・・・僕に貸して下さい。」
ルドルフはヒルダから視線を逸らすように右手を差し出した。
「え?な、何故?」
ヒルダはドキドキする胸の鼓動を押さえながら尋ねた。
「洗ってお返ししたいからです。」
「い、いいのよ。こんなハンカチの1枚や2枚・・・。」
するとルドルフが言った。
「な、なら・・・そのハンカチ・・僕に頂けませんか?」
「え・・?」
「き、記念に・・・貰っておきたいのです・・。」
ルドルフは頬を薄っすら赤く染めながらヒルダを見た。
「ルドルフ・・・。」
ヒルダは握りしめていたハンカチをルドルフに手渡すと言った。
「ルドルフ・・・こ、今度私が刺繍したハンカチ・・・受け取ってくれる・・?」
「はい!よ、喜んでっ!」
ルドルフは真っ赤な顔をしながら返事をした。
そんな2人の様子をマーガレットは部屋の中から黙って見つめていた—。
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