嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第4章 1 誤解と喧嘩

　ルドルフ一家がフィールズ家から爵位を貰い受け、新しい屋敷に引っ越してから早いもので1週間が経過していた。
そしてルドルフがヒルダと婚約したという話は瞬く間に領地中に広がり、今では知らぬ人はいないほどの噂の的になっていた。それは何故かと言うと、ルドルフの両親が自慢げに自分の息子は伯爵家の令嬢と婚約したと吹聴してまわったからである。
マルコと妻は孝行息子のお陰で幸せになれたと大喜びしているが、ルドルフは辛い立場に追いやられていた。
仲間内から裏切り者呼ばわりされ、学校では居心地の悪い立場に追いやられてしまっていたのであった。
　
　今日もルドルフはイワン達から放課後呼び出されていた。

「ルドルフ、お前いったいどういうつもりなんだよ？何であの貴族の女と婚約したんだよ。」

コリンがルドルフの襟首を掴みながら言う。

「それは・・・両家の親同士が決めた事だから・・・。僕はヒルダ様とも仲が良かったから・・それで・・。」

ルドルフは視線を逸らせながら言った。

「何だよ！その訳の分からない理由は・・・っ！」

イワンはイライラしながらルドルフを見た。

「そうよ、ルドルフ！グレースの気持ちはどうなるのよっ！あの子・・・ルドルフがヒルダさんと婚約した事を知ってから、もうずっと学校にも来ていないのよっ！」

「う、うん・・・。」

「お前・・・グレースの恋人なんだろっ？！」

コリンの言葉にルドルフは驚いた。

「え・・？僕とグレースが・・・？」

「そうよ！今更しらばっくれる事は無いでしょう？私達だけじゃなく、クラス中の生徒全員が知ってるわよっ！」

「え・・？だ、誰がそんな事を言っていたの・・？」

ルドルフは目を見開いてノラに尋ねた。

「何言ってるの？！グレース本人がそう言ってたのよ？！私とルドルフは恋人同士なのよって・・・。ルドルフ・・貴方からグレースに告白したんでしょう？！」

「グ・・・グレースが・・・そう話していたの・・？」

「何よ？私が嘘をついているとでも言いたいの？」

ルドルフはノラの話が信じられなかった。確かにグレースには何度も告白はされてきたが、いつも断って来ていた。
それなのにグレースはクラスメイト達全員がグレースとルドルフは恋人同士だと思っていた事に衝撃を受けた。しかも告白をしてきたのはルドルフからだと言う話も全く初耳だった。

（そうか・・・だから、教室で僕に対する当たりが強かったんだ・・。）

ヒルダと婚約してから、クラス中から嫌がらせをされるようになったのは、てっきり今まで平民だった自分が突然、爵位を与えられ、さらに領地迄与えられたやっかみから嫌がらせを受けていると思っていた。しかし本当の理由はグレースと言う恋人がいながら、彼女を捨てて貴族であるヒルダを選んだ最低人間として皆から見られ、嫌がらせを受けていたのだという事実を初めて知ったのである。

（だけど・・・僕とグレースは恋人同士だった事なんて一度もない。確かに彼女と2人で勉強をした事は沢山あったし、具合が悪い時はお見舞いにも来てくれた。）

　しかし、ルドルフには皆に真実を告げる事が出来なかった。何故ならグレースの気持ちを知っていながら、彼女を受け入れずにヒルダと婚約をしてしまったからだ。

（僕は・・・もうこれ以上グレースを傷つける事は出来ない・・・。）

「可哀そうなグレース。昨日・・グレースの家に行ったら・・もうげっそり痩せてしまって、泣いていたわよ。ルドルフに会いたいって・・・。」

そして憎悪のこもった目でルドルフをノラは睨み付けた。

「・・・。」

しかし、ルドルフは何も答える事が出来ない。

「おい、ルドルフッ！お前いつになったらあのヒルダって女と婚約取り消すんだよっ！」

突如コリンがルドルフの胸倉を掴むと言った。

「そんな事・・・出来る訳無いよ。だって僕はもう正式にヒルダ様と婚約をしてしまったし・・・ヒルダ様の方が身分が上なんだから・・・。」

本当はヒルダを放っておけない。彼女が愛しいからとは言えなかった。
何故ならそんな事を言おうものなら、彼等の怒りはルドルフだけではなくヒルダにも矛先がいってしまうように感じたからだ。

「くっ！お、お前・・ふざけるなよっ！」

突如コリンがルドルフの顔を殴りつけた。

「！」

思わず勢いで地面に倒れた。口の中が切れて血の味がした。

地面に倒れたままのルドルフを見下ろしながらコリンは言った。

「お前とはもう絶交だっ！行こうぜ！」

そしてコリンはイワンとノラを連れて、ルドルフの元を去って行った。

「ヒルダ様・・・。」

ヒルダに会いたい・・・。

ルドルフは思った―。