上 下
37 / 566

第3章 9 嘘の告白

しおりを挟む
 コンコン

ヒルダの部屋のドアがノックされた。丁度その時ヒルダは学校に行けない為、自主的に自宅学習をしていた。

(誰かしら・・?)

ヒルダは訝しみながらも返事をした。

「どうぞー。」

「失礼します・・・。」

するとドアをガチャリと開けて中へ入って来たのはルドルフであった。

「ル・・ルドルフッ?!」

ヒルダはまさかルドルフが訪ねて来るとは思いもしなかったので驚いて目を見開いた。

「お久しぶりです・・・。ヒルダ様。」

ルドルフは、はにかみながらヒルダを見て・・・左足にまかれた痛々しいギプスを目にして悲し気な顔をした。

(ヒルダ様・・・僕のせいであのような大怪我を・・・。)

「ど、どうしたの?ルドルフ・・・こんな突然に・・そう言えば今迄ルドルフはどうしていたの?実は最近マルコさんの姿もルドルフの姿を見る事も無くて心配していたのよ・・・。」

ヒルダは両手を前に組んでルドルフを見つめた。

「ヒルダ様・・・。」

一月ぶりに見るヒルダは以前に比べ、痩せてしまってはいたが・・・やはり美しかった。夕焼けの太陽の光を浴びて長く伸びた金の髪はきらきらと輝き、光の粒が溢れているようにも見えた。思わずルドルフはヒルダの姿に見惚れかけ・・・我に返った。

(駄目だ・・・僕はヒルダ様の婚約者になるけれど・・・対等の関係になってはいけないんだ。ヒルダ様の下僕として・・一生お仕えするのだから・・。)

「ヒルダ様、聞いて下さい。実は僕の父がお金を貯めて爵位を買ったんです。僕達親子は男爵家になったんですよ?」

ルドルフはニコニコしながら言った。

「え?!そ、その話は・・・本当なの?ルドルフ。」

ヒルダはあまりにも突然の話で驚いた。

「ええ、そうなんです。今日から僕の名前はルドルフ・テイラーになりました。」

「そうなの・・・ルドルフ・テイラー・・・うん、すごく素敵な名前ね・・・。」

しかし、言葉とは裏腹にヒルダは今にも泣きたい気持ちになってしまった。

(ルドルフは貴族になってしまった・・・。彼は素敵な男の子だから、これから社交界デビューをしたら・・きっと色々な貴族令嬢に想いを寄せられるに決まってるわ。私が二度と参加する事の出来ないパーティーにも出席して・・そこで素敵な令嬢と知り合って・・2人は・・。)

ヒルダの妄想は悪い方へとばかり向かってしまう。

一方のルドルフは不思議でならなかった。てっきりヒルダは自分と同じ貴族になった事を喜んでくれるとばかり思っていたのに、俯いて悲し気な表情を見せているからだ。

「あの・・・ヒルダ様・・どうされたのですか?」

ルドルフはヒルダに声を掛けた。

「い、いえ・・何でも無いの・・・。」

ヒルダは視線を逸らすように言う。するとルドルフは無言でヒルダのすぐ傍まで近付くと、車椅子の前で跪いた。

「お願いです、ヒルダ様。何故そのように悲し気な顔を見せるのか・・教えて下さい。」

「そ、それは・・ルドルフが遠い存在になってしまったから・・。」

「え・・?何故僕が遠い存在に・・・?」

ルドルフには訳が分からなかった。

「だって、貴方は貴族になったのだから・・これからきっと社交会デビューを果たすでしょう?ダンスパーティーに参加したり・・・貴族同士の会合に参加したり・・私にはもう二度とそのお誘いは来ないの・・・。だから・・。」

ヒルダは胸を詰まらせながら言う。ルドルフは何故ヒルダが悲し気な顔を見せるのか、ようやく理解した。

(ヒルダ様・・・っ!)

ルドルフはヒルダの両手をそっと包み込むと言った。

「ヒルダ様・・・・僕の父が爵位を買ったのは・・僕の為なのです。僕がヒルダ様とつり合いが取れる人間になる為に・・・。」

「え・・?」

ヒルダはルドルフの目を見た。

「ヒルダ様・・・好きです。どうか僕と婚約して下さい・・・。」

そしてルドルフはヒルダの右手の甲にキスをした―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

処理中です...