嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第2章 10 約束

「ヒルダ様・・・。」

ルドルフは未だにヒルダの両手を握りしめながら、じっとヒルダを見つめている。

「な、何・・？ルドルフ・・・。」

もうヒルダの心臓はドキドキして口から今にも飛び出しそうだった。そんなヒルダの心の内を知ってか知らずか、ルドルフはヒルダから片時も目を離さずに言った。

「ヒルダ様・・・今日一緒に乗馬の練習をしていた方は・・どなたでしょうか？」

「え・・？」

「本当は・・・本日僕がヒルダ様に乗馬の練習をお付き合いさせて頂こうかと思っていたのですが・・・・。」

ルドルフは躊躇いがちに言った。

「あ・・・あの方はヨハネ・ブルックスというお名前の方です。本日付けで私の乗馬の先生になって下さったそうで・・とても教え方が上手な先生でした。たった1日だけで自分でも見違えるほど上達したのよ？」

ヒルダが嬉しそうに笑みを浮かべると、何故かルドルフは悲しげな顔を見せた。

「どうしたの・・？ルドルフ・・・。」

するとルドルフは一瞬ヒルダから視線を逸らせ・・・意を決したかのように口を開いた。

「ヒルダ様・・・僕は・・・。」

その時―

「クシュンッ！」

ヒルダが小さなくしゃみをした。

「す、すみません！ヒルダ様っ！いつまでも僕に付き合わせてしまって・・・！」

ルドルフは慌てて頭を下げて来た。

「い、いいのよ。ルドルフ。私・・・貴方とお話が出来て・・とても嬉しかったから・・。」

頬を赤らめながらヒルダは言った。

「ヒルダ様・・・。僕も・・・ヒルダ様と久しぶりにお話が出来て良かったです。」

ルドルフは愛おしそうにヒルダを見つめると言った。

「ヒルダ様・・・お願いがあります。」

「お願い・・？」

「はい、どうか・・乗馬大会の時は僕にヒルダ様をエスコートさせて頂けますか？」

「え・・・？」

ヒルダは長い髪をたなびかせながら、ルドルフを見つめた。

「ヒルダ様・・・・。貴女は本当に美しい方ですね・・・。」

ルドルフはヒルダの髪にそっと触れ・・・髪を一房すくい、キスをした。

「ル、ルドルフ・・・ッ！」

ヒルダは真っ赤になって後ずさるとルドルフは言った。

「あ！す、すみません・・・！ヒルダ様の髪の香りが・・・あまりにも良い香りがしたのでつい・・・！」

ルドルフも慌てて身を引くと言った。

「ヒルダ様。どうか・・先程の僕の話・・・よく考えて頂けますか？旦那様に反対されてしまえば・・・仕方がありませんが・・・。」

「い・・いいえっ！わ、私もルドルフにエスコートしてもらいたい！」

ヒルダは自分でも驚くほどに大きな声を上げていた。

「本当ですか・・・？ヒルダ様・・・。そう言って貰えるなんて・・・すごく嬉しです。」

ルドルフは満面の笑みを浮かべると、立ち上がった。

「ヒルダ様、お引止めしてしまい申し訳ございませんでした。・・・とても楽しい時間でした・・・。」

「わ、私も・・・久しぶりにルドルフに会えて・・お話が出来て・・・そ、その凄く・・嬉しかった・・わ・・。」

ヒルダも立ち上がると、顔を真っ赤にさせながらルドルフを見上げた。

「戻りましょう、ヒルダ様。庭の出口までは見送りをさせて下さい。」

ルドルフは笑顔で右手を差し出してきた。


「は、はい・・・。」

ヒルダが遠慮がち左手を差し出すと、ルドルフはその手をしっかり握りしめ・・・2人は手を繋いで庭園の中を歩き始めた。

「ヒルダ様・・・今夜はとても美しい満月ですね。」

ルドルフは夜空を見上げながら言う。

「ええ・・・本当に・・・。」

ヒルダも月を見上げた。

月明かりは優しくルドルフとヒルダを照らしていた—。