嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第1章 15 食卓での会話

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 翌朝―

 自室に軟禁状態にもかかわらず、ヒルダは幸せな気分で目覚めた。
何故なら昨日ルドルフから貰ったメモに『お会い出来れば幸いです』と書かれていたからだ。

(ルドルフ・・・お会い出来れば幸いって・・・その言葉は貴方の本心なの?それとも社交辞令で言ったの?でも・・・わざわざ私の部屋の外まで会いに来てくれたって事は・・本心だと思っていいわよね・・?)

自惚れでも構わない。ルドルフが少しは自分の事を気に掛けてくれているのだと思うと自然と心がはずんだ。
ヒルダはベッドから起き上がり、クローゼットを開けた。父からは今日謹慎処分を解いて貰えるのか何の保証も無かったが、ひょっとするとルドルフがまた窓の下まで会いに来てくれるのでは無いかと淡い期待を抱き、一番お気に入りのワンピースを取り出した。

袖がふんわりと膨らみ袖口が引き絞られた膝下のアーモンドグリーンのワンピースの裾は白いレースのフリルがふんだんにあしらわれている。胸もと部分にピンタックが入った白地の布の襟元にはワンピースと同色系のリボンが付いている。
ワンピースを着たヒルダは鏡の前に立って自分の姿を映した。

(ルドルフ・・・この服を見たら何て言うかな・・?ううん、口に出して貰えなくても構わない・・・似合ってるって思ってくれるかしら・・。)


 朝日が当たったヒルダの髪は金色に光り輝き、傍から見れば天使の様にも見えた。実はヒルダはこの界隈では有名な美少女で通っていたのだが、世間に疎いヒルダ自身は自分がそのように世間で噂されている事は全く気が付いていなかったのだ。
現に一目ヒルダを見ようと屋敷に忍び寄ろうとした不審者を使用人達が追い払った事があるのは一度や二度では無い。
その為、ヒルダの父は悪い虫が付く前にさっさとヒルダをそれなりの爵位がある家に嫁がせようと考えていた事などヒルダは知る由も無かった。



朝食の席―

ヒルダの父と母は2人きりの食卓を囲んでいた。

「ハア~・・・・・・。」

父、ハリスは今朝から7度目の溜息をついた。

「あなた・・いい加減にして下さい。先程から食事の席で何度溜息を付くおつもりですか?」

母、マーガレットは優雅な手つきでフレンチトーストを切り分けながら言った。

「お前は何故そう冷静でいられるのだ?昨日ラッセル家がどれだけ怒り心頭で我が家に電話を掛けて来たのかお前は知っているのか?」

「ええ。存じておりますよ。貴方が受話器を持ちながら何度も頭を下げている姿を見ましたから。」

「見・・見ていたのか?!」

「ええ、見ていましたよ。大体・・・貴方はあの苦情の電話をどう受け止めたのですか?ヒルダが見合いをした相手は私達夫人の間では色恋沙汰が絶えない有名な少年なのですよ?色々な少女に手を出してはとっかえひっかえしているような少年なのです。まだ15歳なのに女癖が悪い事で有名なのですからね。」

「何?!それは本当の事かっ?!」

「ええ、本当です。それなのに貴方は相手の事を良く調べもせずにヒルダに会わせて・・大体、いやな事をされたからと言って、ありのまま全てを親に話すような少年です。本来大人びた少年ならそのような真似はせずに、もっとやんわりとした理由で断りを入れて来るべきだと思いませんか?例えば趣味が合わなかったからだとか・・。それなのに・・あの少年は・・10分待たされたとか、手の甲にキスしようとしたら拒否されたとか・・挙句に姫と呼ぶように言われた等々・・それら全てを親に報告するような度量の小さい男は将来的に見ても私は頂けません。」

ハリスは呆然とした目でマーガレットを見た。

「マ・マーガレット・・・お、お前って・・・そんなに口が回る女だったのだな・・?」

「あら?今頃お気づきになられたのですか?」

「い、いや!それだけではないぞ?何故私とラッセル家が電話で交わした話の内容を知っているのだ?!」

「そんな事は簡単です。盗み聞きしたからに決まっているでは無いですか?」

「ぬ・・・盗み聞きだとっ?な、何故そのような真似を?!」

「決まっているでは無いですか?私はあの子の母です。娘に何があったのか知る権利は私にもあります。兎に角貴方は横暴すぎます。良いですか?必ず本日ヒルダの謹慎処分を解いて下さいね?」

マーガレットは口元をナフキンで拭くと席を立って部屋を出て行ってしまった。

「ま、まさか・・我妻があれほど気の強い女性だったとは・・。」

1人残されたハリスはフォークとナイフを手にしたまま呟くのだった。



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