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第1章 2 貴族と平民

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 ある日の週末―

ヒルダは友人の様に仲が良いメイドのカミラと一緒に、サンドイッチにスコーン、紅茶のセットを持って自宅近くにある小さな湖のほとりに遊びに来ていた。
カミラはヒルダよりも3歳年上のメイドで、ヒルダが10歳の時からずっと専属メイドとして仕えていた。

「カミラ、今日は清々しい程のお天気ね。」

ブロンドの長い髪を1本におさげにまとめ、大きなボンネットを被ったヒルダがシートに座りながら笑顔でカミラに言う。

「ええ、本当にその通りですね、お嬢様。」

するとその時、賑やかな声が聞こえて来た。その声はこちらへ向かって近付いてきている。

「ヒルダ様・・・どなたでしょう?どうやらこちらへ近付いてきているようですが・・・?」

カミラは警戒するように立ち上がった。

「落ち着いて、カミラ。あの声は・・子供じゃないかしら?」

ヒルダが言ってる側から、やがて彼等が姿を木々の間から姿を現した。

「あ・・・あれは・・・。

ヒルダは頬を染めた。姿を現したのはルドルフ達であった。ルドルフがいつもの登校するメンバーと一緒にやって来たのだ。

「あれ・・・ヒルダ様?」

ルドルフは真っ先に気付いて、駆け寄って来た。

「こ、今日は。ルドルフ。」

ヒルダは立ち上がると必死で赤くなりそうな顔を胡麻化すように挨拶した。

「それに、メイドのカミラさんじゃないですか。お2人はこちらで何をしていたのですか?」

「あ、あの。私達はここでピクニックをしていたの。」

ヒルダはシートの上に広げられたサンドイッチやスコーンを指さしながら言った。すると丁度そこへルドルフに追いて来られた少年と少女が追い付いてきた。

大柄で赤毛の少年がルドルフに尋ねた。

「ルドルフ、誰だ?こいつら。」

するとカミラは抗議した。

「ま・・まあ!何て生意気な口を利くのですか?平民のくせにヒルダ様に対して・・・。」

「何だ?平民の癖にって・・お前ら・・ひょっとして貴族か?」

すると長く伸びた髪を結わえた少年が言う。


「うん?ヒルダ・・何処かで聞いた名前だな?あ!そうか、思い出したぞ?ルドルフ、お前が良く話しているヒルダお嬢様って・・この女の事か?」

「ま・・まあ!ヒルダ様をこの女って・・・!」

カミラはますます怒るが、ヒルダはそれどころでは無かった。

(え・・?よく話しているって・・・ひょっとしてルドルフはこの人達に私の事をよく話していたの?)

思わずヒルダはルドルフを見ると、彼はばつが悪そうに頭を掻いている。

その時、黒髪のセミロングの少女が言った。

「ねえ、ルドルフ。グレースがお腹が空いたから早く帰ろうって言ってるけど?!」

「ええ?!ちょと待ってノラッ!私そんな事一言も・・・。」

グレースと呼ばれた亜麻色の髪の大人しそうな少女が顔を真っ赤にして黒髪の少女に言う。

「え?そうなの?グレース。それじゃ早く戻ろうか。」

ルドルフが心配そうにグレースを見つめる。その様子を見ていたヒルダがある事を思いついた。

「あ、あの・・・良ければ皆さんでこのサンドイッチとスコーン食べて下さい。」

「え?ヒルダ様。でもそれは・・・。」

ルドルフがい淀むとカミラも言った。

「何を言っておられるのですか?ヒルダ様。これはヒルダ様のお食事ではありませんか!」

「そうだ!貴族の施しなんかいらないんだよっ!」

大柄赤毛の少年が言う。

「いいえ。施しではありません。実はあまりお腹が空いていなかったのです。だからこちらの食べ物をどうしたらいいものかと思案していた最中なんです。貰って頂けると助かります。私達がいて食事しにくいと言うのでしたら、帰りますので。さ、行きましょう。カミラ。」

「え?ヒルダ様っ?!」

戸惑うカミラの背中を押して帰りかけた時、ルドルフが追って来た。

「ヒルダ様っ!」


「何?ルドルフ。」


「い、いえ・・・有難うございます。後・・・すみませんでした。余計な気を遣わせてしまって・・・。

ルドルフは頷いている。

「い、いえ。気にしないでルドルフ。あの・・・バスケットは・・。」


「はい、父にお願いして返却させて頂きます。」

じっと優しい眼で見つめるルドルフを見て、ヒルダは頬を赤く染めると言った。

「そ、それではそうして下さい。」

「はい、分かりました。」

ルドルフは頭を下げると仲間たちの元へと去って行った。

(夢みたい・・・今迄で一番ルドルフとお話しできたわ・・。)

そしてヒルダはカミラに声を掛けた。

「帰りましょう、カミラ。」


 
 その時、ヒルダがカミラと一緒に帰って行く後ろ姿を複雑な表情で見つめていたグレースの姿にヒルダは気付きもしなかった・・・・。
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