12 / 17
第12話
しおりを挟む
「うわぁああっ!?」
背後から声をかけられ、驚いて振り向く。
「うわぁっ!!」
さらに驚きの声を上げてしまった。だが、こればかりは仕方ない。何しろ、振り向いた先に立っていたのは……。
「全く、君と言う男は……成人男性のくせに、大きな声で喚きおって」
「確かに、少し叫びすぎですわね」
「お、お義父さん? それにお義母さんまで!! いつからいらしていたのですか!?」
腰が抜けそうに驚いた。けれどもテーブルを支えに、何とか耐え忍ぶ。
「いつから? そうだな、君がエリザベスに謝罪したときからかな」
義父が腕組みする。その顔には眉間にシワが寄っていた。
「そ、そんな……」
謝罪のときからいた? ということは最初から全て話を聞かれていたということじゃないか!
そのとき、ふと義母と目があった。
「お、お義母さん……足の怪我はもう治ったのですか?」
「ええ、おかげさまですっかり良くなったわ」
ニコリと笑みを浮かべる義母。
「そうでしたか……完治なさったのですね? おめでとうございます……」
「そんなことより、まずは席に座ろう」
「ええ、そうね。あなた」
義父は義母に声をかけ、2人は俺の傍を通り過ぎて席に着席する。
……俺も座るべきなのだろうか?
椅子を引いて、着席しようとした時。
「エリザベス、可哀想に……泣いているのか?」
突然義父の言葉に驚いて、エリザベスを見上げると彼女はハンカチを顔に押し当てていた。
「な、泣いていたのか!?」
義父母に気を取られて、エリザベスの様子に気づかなかった。
「可愛そうなエリザベス……結婚記念日を忘れられていたどころか、浮気までされていたのね?」
「お母様……」
義母がハンカチで目を押さえた彼女の頭を撫でる。
「それどころか浮気相手と遊ぶ金欲しさに、金までちょろまかしていたとは……」
義父が鋭い目で俺を睨みつけてきた。
「う!」
痛いところをつかれ言葉が出てこない。座ることも出来ず立ったまま3人の様子を眺めるしか無かった。
駄目だ。このままで黙っていては、増々フリな立場に立たされてしまう。
何か、何か言わなくては……。
「あ、あの……ところで、何故今日お二人はこちらに……?」
引きつった笑みを浮かべながら勇気を振り絞って義父に恐る恐る尋た。
「何故こちらに? そんなことは決まっている。今日は2人の初めての結婚記念日だ。だから全員で祝おうとここへ来たのではないか」
「本当なら、てっきりお見舞いに来てくれるかと思っていたのよ。だからそのときに、結婚記念日のお祝いの話をしようかと思っていたのだけど、随分忙しかったようね? だから屋敷に顔を見せに来なかったのでしょう?」
「……」
鋭い指摘に、何も言えない。
「それにしても結婚記念日を忘れるどころか、金をちょろまかして愛人と楽しんでいたとは……嘆かわしい。君は私達の娘よりも愛人の方が余程大切なようだな」
愛人だって? メリンダが?
俺は一度だって、彼女を自分の愛人だと思ったことすら無いのに?
「ちょっと待ってください! 彼女は愛人などでは……」
「なら、恋人と呼べば良いのかしら?」
エリザベスを抱き寄せていた義母が冷たい声で尋ねてくる。
「こ、恋人……?」
「そうなのですか? カール様」
泣いていたエリザベスが顔を上げて、訴えてきた。
「ご、誤解だ! 彼女は……」
「全く、往生際の悪い男だ!! いい加減に自分の罪を認めろ!! 大体、何故結婚記念日という大事な日に自分の浮気を告げるのだ!? 少しくらい、配慮するべきではないのかね!?」
義父がついに怒鳴りつけてきた。
「違います! それはエリザベスの引き出しに離婚届が入っていたからで……」
「離婚届なんて知りません。私、そのようなもの引き出しにしまったことすらありません」
エリザベスが首を振る。
「何だって!? 知らない!?」
その言葉に衝撃を受ける。
けれど、彼女は嘘を付くような女ではない事は俺がよく知っている。
「だったら、誰が……」
まさか、誰かにハメられたのか? 誰だ、執事か? それともあの無表情なメイドだろうか……? もしくは給仕のフットマン……。
駄目だ、疑うべき人間が多すぎる。
この屋敷は……俺の敵ばかりだ!
「……先程から、何を突っ立っているんだ?」
ジロリと義父が睨みつけてきた。
「あ、今座り……」
椅子を引いて着席しようとすると、さらに義父が言葉を続ける。
「何を座ろうとしている! これ以上、君の顔を見ているだけで腹立たしい。今すぐ出て行きたまえ!」
「出ていけですって!? い、一体何処に!?」
あまりの言葉に一瞬、頭の中が真っ白になる。
「成人男性なのだから、御自分で考えられたら良いでしょう? 何ならメリンダとかいう女性のところにでも行かれたら? そもそも、ここはエリザベスに与えた屋敷であって、あなたに与えたものではありません」
こんな場面で、義母はとんでもない言葉を口にする。
もはや、こうなってしまえばエリザベスが頼みの綱だ。
「エ、エリザベス……?」
震えながら声をかけるも、彼女は俯いて首を振るばかりだ。
「そんな……」
グラリと身体が大きく傾く。
「何をしている? さっさと出ていけ!!」
「ヒッ!」
トドメの義父の怒鳴り声に情けない悲鳴が上がる。
「も、申し訳ございませんでした!! 今すぐ、出ていきます!!」
彼らに背を向けると、俺は脱兎の如くダイニングルームを飛び出した。
周囲でこちらを冷たい目で見る使用人達に追い立てられるように。
そして、この夜。
行く宛も無いまま、俺は屋敷を追い出されてしまった――
背後から声をかけられ、驚いて振り向く。
「うわぁっ!!」
さらに驚きの声を上げてしまった。だが、こればかりは仕方ない。何しろ、振り向いた先に立っていたのは……。
「全く、君と言う男は……成人男性のくせに、大きな声で喚きおって」
「確かに、少し叫びすぎですわね」
「お、お義父さん? それにお義母さんまで!! いつからいらしていたのですか!?」
腰が抜けそうに驚いた。けれどもテーブルを支えに、何とか耐え忍ぶ。
「いつから? そうだな、君がエリザベスに謝罪したときからかな」
義父が腕組みする。その顔には眉間にシワが寄っていた。
「そ、そんな……」
謝罪のときからいた? ということは最初から全て話を聞かれていたということじゃないか!
そのとき、ふと義母と目があった。
「お、お義母さん……足の怪我はもう治ったのですか?」
「ええ、おかげさまですっかり良くなったわ」
ニコリと笑みを浮かべる義母。
「そうでしたか……完治なさったのですね? おめでとうございます……」
「そんなことより、まずは席に座ろう」
「ええ、そうね。あなた」
義父は義母に声をかけ、2人は俺の傍を通り過ぎて席に着席する。
……俺も座るべきなのだろうか?
椅子を引いて、着席しようとした時。
「エリザベス、可哀想に……泣いているのか?」
突然義父の言葉に驚いて、エリザベスを見上げると彼女はハンカチを顔に押し当てていた。
「な、泣いていたのか!?」
義父母に気を取られて、エリザベスの様子に気づかなかった。
「可愛そうなエリザベス……結婚記念日を忘れられていたどころか、浮気までされていたのね?」
「お母様……」
義母がハンカチで目を押さえた彼女の頭を撫でる。
「それどころか浮気相手と遊ぶ金欲しさに、金までちょろまかしていたとは……」
義父が鋭い目で俺を睨みつけてきた。
「う!」
痛いところをつかれ言葉が出てこない。座ることも出来ず立ったまま3人の様子を眺めるしか無かった。
駄目だ。このままで黙っていては、増々フリな立場に立たされてしまう。
何か、何か言わなくては……。
「あ、あの……ところで、何故今日お二人はこちらに……?」
引きつった笑みを浮かべながら勇気を振り絞って義父に恐る恐る尋た。
「何故こちらに? そんなことは決まっている。今日は2人の初めての結婚記念日だ。だから全員で祝おうとここへ来たのではないか」
「本当なら、てっきりお見舞いに来てくれるかと思っていたのよ。だからそのときに、結婚記念日のお祝いの話をしようかと思っていたのだけど、随分忙しかったようね? だから屋敷に顔を見せに来なかったのでしょう?」
「……」
鋭い指摘に、何も言えない。
「それにしても結婚記念日を忘れるどころか、金をちょろまかして愛人と楽しんでいたとは……嘆かわしい。君は私達の娘よりも愛人の方が余程大切なようだな」
愛人だって? メリンダが?
俺は一度だって、彼女を自分の愛人だと思ったことすら無いのに?
「ちょっと待ってください! 彼女は愛人などでは……」
「なら、恋人と呼べば良いのかしら?」
エリザベスを抱き寄せていた義母が冷たい声で尋ねてくる。
「こ、恋人……?」
「そうなのですか? カール様」
泣いていたエリザベスが顔を上げて、訴えてきた。
「ご、誤解だ! 彼女は……」
「全く、往生際の悪い男だ!! いい加減に自分の罪を認めろ!! 大体、何故結婚記念日という大事な日に自分の浮気を告げるのだ!? 少しくらい、配慮するべきではないのかね!?」
義父がついに怒鳴りつけてきた。
「違います! それはエリザベスの引き出しに離婚届が入っていたからで……」
「離婚届なんて知りません。私、そのようなもの引き出しにしまったことすらありません」
エリザベスが首を振る。
「何だって!? 知らない!?」
その言葉に衝撃を受ける。
けれど、彼女は嘘を付くような女ではない事は俺がよく知っている。
「だったら、誰が……」
まさか、誰かにハメられたのか? 誰だ、執事か? それともあの無表情なメイドだろうか……? もしくは給仕のフットマン……。
駄目だ、疑うべき人間が多すぎる。
この屋敷は……俺の敵ばかりだ!
「……先程から、何を突っ立っているんだ?」
ジロリと義父が睨みつけてきた。
「あ、今座り……」
椅子を引いて着席しようとすると、さらに義父が言葉を続ける。
「何を座ろうとしている! これ以上、君の顔を見ているだけで腹立たしい。今すぐ出て行きたまえ!」
「出ていけですって!? い、一体何処に!?」
あまりの言葉に一瞬、頭の中が真っ白になる。
「成人男性なのだから、御自分で考えられたら良いでしょう? 何ならメリンダとかいう女性のところにでも行かれたら? そもそも、ここはエリザベスに与えた屋敷であって、あなたに与えたものではありません」
こんな場面で、義母はとんでもない言葉を口にする。
もはや、こうなってしまえばエリザベスが頼みの綱だ。
「エ、エリザベス……?」
震えながら声をかけるも、彼女は俯いて首を振るばかりだ。
「そんな……」
グラリと身体が大きく傾く。
「何をしている? さっさと出ていけ!!」
「ヒッ!」
トドメの義父の怒鳴り声に情けない悲鳴が上がる。
「も、申し訳ございませんでした!! 今すぐ、出ていきます!!」
彼らに背を向けると、俺は脱兎の如くダイニングルームを飛び出した。
周囲でこちらを冷たい目で見る使用人達に追い立てられるように。
そして、この夜。
行く宛も無いまま、俺は屋敷を追い出されてしまった――
937
お気に入りに追加
969
あなたにおすすめの小説
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
結婚式の日取りに変更はありません。
ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。
私の専属侍女、リース。
2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。
色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。
2023/03/13 番外編追加
子供なんていらないと言ったのは貴男だったのに
砂礫レキ
恋愛
男爵夫人のレティシアは突然夫のアルノーから離縁を言い渡される。
結婚してから十年間経つのに跡継ぎが出来ないことが理由だった。
アルノーは妊娠している愛人と共に妻に離婚を迫る。
そしてレティシアは微笑んで応じた。前後編で終わります。
浮気の代償~失った絆は戻らない~
矢野りと
恋愛
結婚十年目の愛妻家トーマスはほんの軽い気持ちで浮気をしてしまった。そして浮気が妻イザベラに知られてしまった時にトーマスはなんとか誤魔化そうとして謝る事もせず、逆に家族を味方に付け妻を悪者にしてしまった。何の落ち度もない妻に悪い事をしたとは思っていたが、これで浮気の事はあやふやになり、愛する家族との日常が戻ってくると信じていた。だがそうはならなかった…。
※設定はゆるいです。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる