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第3話
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――翌朝
今朝はいつも以上に豪華な朝食だった。
鍵や通帳のことは仕方ないが、エリザベスが屋敷に戻ってきたら金を引きだしてもらうことにしよう。
「カール様、今日のお迎えはどうされますか?」
馬車に乗り込む際、男性御者が尋ねてきた。
「あぁ、今日の迎えはいい。帰りが遅くなるからな。あ、夕食も用意しなくて良いと伝えておいてくれ」
「……承知いたしました。では、お乗り下さい」
微妙な間の後、御者が扉を開けたので俺は早速乗り込み……会社に到着するまでの間、目を閉じた――
「社長、おはようございます」
社長室の扉を開けると、秘書のメリンダが出迎えた。彼女は黒い髪を持つ妖艶な美女で年齢は俺と同じ24歳。
外見は派手でも、仕事の腕は確かだ。
「ああ、おはよう。メリンダ」
扉を閉めると、メリンダは嬉しそうに笑みを浮かべて近づいてくると耳もとで囁いてきた。
「社長、今夜は楽しみにしていますわ」
「俺もだよ、メリンダ」
彼女の細い腰を抱き寄せて軽くキスすると早速机に向かった。
「それじゃ、今日の予定を教えてくれ」
「はい、社長」
俺達は社長と秘書であり……親密な間柄でもあった。だが、お互いの関係は割り切っている。
いざ仕事に入ると、すぐに気持ちを切り替えることが出来るからだ。
社長と秘書は密接でなければならない。
互いのことを信頼しあわなければ、業務に差し支えが出てしまうかもしれない。
俺はそう割り切っているし、当のメリンダもそうだろう。
何しろ、彼女は一度たりとも妻と別れてくれと言ってきたことはないのだから。
そして今日も彼女の協力を得ながら仕事に励んだ。
そうだ、俺は毎日頑張って働いている。
この商会をもっともっと大きくするのだ。俺が平民出身の成金男だと、他の貴族たちから見られないために。
だから俺たちが離婚するなど、断じてあってはならない話なのだから――
****
――18時
1日の業務を終えて、俺とメリンダは社長室を一緒に出た。
「あ、社長。今日はもうお帰りですか?」
偶然廊下で出会った若手の男性社員が声をかけてきた。
どうやら、背後にいるメリンダが気になるようだ。
「いや、まだだ。これから商談相手との食事会があるからな。そのために秘書のメリンダを連れていくのだ」
「あ、なるほど。そういうことですか。それでは、どうぞ行ってらっしゃいませ」
疑うこと無く、恭しく頭を下げる男性社員。
「ああ、では行ってくる」
「行ってまいりますね」
2人で彼に声をかけると、2人で会社を出た。
「社長、今夜はどんな食事を御馳走して下さるのかしら?」
辻馬車に乗り込むと、早速メリンダが腕にしなだれかかってくる。
「最近出来たばかりのレストランだ。肉料理がメインでフルコースで出てくるらしい。君の好きなワインも飲めるぞ」
「まぁ、本当ですか? フフフ……嬉しいわ。私、今夜を楽しみにしていたの」
「俺もだよ」
俺とメリンダの少し怪しい関係は誰にも感づかれるわけにはいかない。だから、こうやって2人だけで外食をするのは、月に2回だけと決めてある。
今夜の出費は……まぁ少々痛いが、後でエリザベスに援助を申込めばすむことだ。
「ねぇ、本当に奥様には私達の関係はバレていないのかしら?」
メリンダが不意に尋ねてきた。
「当然だ、俺は妻を大切にしている。バレるようなヘマはしていないさ。第一彼女は世間知らずの箱入り娘だ、何もわかっていない。だから心配する必要は無いからな」
「それなら安心ね」
フフフとメリンダが嬉しそうに笑う。
そうだ。これでも俺はエリザベスを大切に思っている。
だからこうして、彼女にバレないように密会しているのだから――
今朝はいつも以上に豪華な朝食だった。
鍵や通帳のことは仕方ないが、エリザベスが屋敷に戻ってきたら金を引きだしてもらうことにしよう。
「カール様、今日のお迎えはどうされますか?」
馬車に乗り込む際、男性御者が尋ねてきた。
「あぁ、今日の迎えはいい。帰りが遅くなるからな。あ、夕食も用意しなくて良いと伝えておいてくれ」
「……承知いたしました。では、お乗り下さい」
微妙な間の後、御者が扉を開けたので俺は早速乗り込み……会社に到着するまでの間、目を閉じた――
「社長、おはようございます」
社長室の扉を開けると、秘書のメリンダが出迎えた。彼女は黒い髪を持つ妖艶な美女で年齢は俺と同じ24歳。
外見は派手でも、仕事の腕は確かだ。
「ああ、おはよう。メリンダ」
扉を閉めると、メリンダは嬉しそうに笑みを浮かべて近づいてくると耳もとで囁いてきた。
「社長、今夜は楽しみにしていますわ」
「俺もだよ、メリンダ」
彼女の細い腰を抱き寄せて軽くキスすると早速机に向かった。
「それじゃ、今日の予定を教えてくれ」
「はい、社長」
俺達は社長と秘書であり……親密な間柄でもあった。だが、お互いの関係は割り切っている。
いざ仕事に入ると、すぐに気持ちを切り替えることが出来るからだ。
社長と秘書は密接でなければならない。
互いのことを信頼しあわなければ、業務に差し支えが出てしまうかもしれない。
俺はそう割り切っているし、当のメリンダもそうだろう。
何しろ、彼女は一度たりとも妻と別れてくれと言ってきたことはないのだから。
そして今日も彼女の協力を得ながら仕事に励んだ。
そうだ、俺は毎日頑張って働いている。
この商会をもっともっと大きくするのだ。俺が平民出身の成金男だと、他の貴族たちから見られないために。
だから俺たちが離婚するなど、断じてあってはならない話なのだから――
****
――18時
1日の業務を終えて、俺とメリンダは社長室を一緒に出た。
「あ、社長。今日はもうお帰りですか?」
偶然廊下で出会った若手の男性社員が声をかけてきた。
どうやら、背後にいるメリンダが気になるようだ。
「いや、まだだ。これから商談相手との食事会があるからな。そのために秘書のメリンダを連れていくのだ」
「あ、なるほど。そういうことですか。それでは、どうぞ行ってらっしゃいませ」
疑うこと無く、恭しく頭を下げる男性社員。
「ああ、では行ってくる」
「行ってまいりますね」
2人で彼に声をかけると、2人で会社を出た。
「社長、今夜はどんな食事を御馳走して下さるのかしら?」
辻馬車に乗り込むと、早速メリンダが腕にしなだれかかってくる。
「最近出来たばかりのレストランだ。肉料理がメインでフルコースで出てくるらしい。君の好きなワインも飲めるぞ」
「まぁ、本当ですか? フフフ……嬉しいわ。私、今夜を楽しみにしていたの」
「俺もだよ」
俺とメリンダの少し怪しい関係は誰にも感づかれるわけにはいかない。だから、こうやって2人だけで外食をするのは、月に2回だけと決めてある。
今夜の出費は……まぁ少々痛いが、後でエリザベスに援助を申込めばすむことだ。
「ねぇ、本当に奥様には私達の関係はバレていないのかしら?」
メリンダが不意に尋ねてきた。
「当然だ、俺は妻を大切にしている。バレるようなヘマはしていないさ。第一彼女は世間知らずの箱入り娘だ、何もわかっていない。だから心配する必要は無いからな」
「それなら安心ね」
フフフとメリンダが嬉しそうに笑う。
そうだ。これでも俺はエリザベスを大切に思っている。
だからこうして、彼女にバレないように密会しているのだから――
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