記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第126話 大団円? <完>

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 呼び声に応えるかのように、突然何も無い空間からセラフィムが姿を現し、私の前に立つと、オルニアスと対峙した。

「オルニアス。もうノリーンとユリアは和解したんだ。ノリーンはユリアの命を奪う事を願ってはいない。おとなしく魔界に帰るんだな」

するとノリーン…いや、里美が声を上げた。

「はぁ?ちょっと何言ってるのよっ!確かに和解はしたけれど、命を奪う事は願っているわよ?だって、美咲の命を奪わなければ、私は一生彼から生活費と召喚代金としてお金を搾取され続けるのよ。冗談じゃないわ!破産しちゃうわよっ!」

「ああ、確かに生活費は必要だな。おまけに魔力の全く無い人間に呼び出された為に人間界に現れるまでにえらく苦労させられたからな」

オルニアスが頷く。

「ノリーンには支払能力があまり無いんだ。少し位まけてやれないのか?」

「ええ、そうよ。まけてちょうだいよ」

セラフィムの言葉にノリーンは頷く。

何ともスケールの小さい話を彼らは私抜きで始めた。

「ちょ、ちょっと!肝心の私の事を忘れないでよっ!」

ついに我慢出来ず、私は彼らの間に割って入って来た。

「どうした?ユリア」

何故かオルニアスが妙に優しげな声で私を見る。そんな彼に警戒しながら私は言った。

「お金が問題なら私が彼女の代わりにあなたに全額まとめて支払うから…お願いだから、そのお金を持って魔界へ帰って頂戴!そして二度と私の命を狙わないでよっ!」

「そうよ。それがいいわ」

「まぁ…ユリアは公爵令嬢だから、支払い能力はあるかもしれないが…」

ノリーンとセラフィムが頷く。

「…イヤだね」

オルニアスは少しの間、私を黙って見ていたがそっぽを向いた。

「何でよっ!!」

里美はもう私には殺意は多分?抱いていないのに、それでもオルニアスは私の命を狙っているのだろうか?

「何でだって?それを俺に尋ねるのか?前にも夢の世界で言っただろう?殺すにはあまりにも惜しいって」

確かに言われた気がするけれど…。すると次にオルニアスは耳を疑うような事を言って来た。

「俺はユリアが好きだからな。傍にいたいから帰らないんだ。ユリアはもう王子の事はどうでもいいんだろう?だったら俺が相手でも構わないよな?」

オルニアスが私をじっと見つめてくる。

「え…?」

その言葉に耳を疑う。

「「ええええええっー?!」」

ノリーンとセラフィムが驚きの声を上げたのは言うまでも無かった―。



****

あれから月日が流れ…私が60日間の眠りから目覚めて半月が経過していた―。

 

「ユリア。昨日、正式にお前とベルナルド王子との婚約破棄が受理されたそうだ」

父と向かい合って朝食をとっていると不意に私に話しかけて来た。

「ええ。知ってます。昨日の内にベルナルド王子から聞かされていますから」

「本当に…婚約破棄をして良かったのか?お前は随分王子に執着しているようだったが?」

「そうかもしれませんが、それは過去の話です。今の私にはもう何の興味も持てない方なので」

それだけ答えると私は最期の料理を口にし、立ち上がった。

「御馳走さまでした」

「学校へ行くのか?」

「はい、今日は試験があるので早目に行きます」

すると父が目を細めた。

「本当にお前は目が覚めてからまるで生まれ変わったようだな。勉強も頑張っているし…随分友人も増えたじゃないか?」

「あー…友人…ですか…?」

その言葉にうんざりする。

「何だ?あまり嬉しくなさそうだが?」

「え、ええまぁ…正直、迷惑と言うか…では行ってきます」

傍らの椅子に置いておいた鞄を持つと私は父に挨拶した。

「ああ。行きなさい」

そして私はダイニングルームを後にした―。


****

 屋敷を出ると、すでにエントランスにはオルニアスの姿があった。

「おはよう、ユリア。今日も俺を見るその憂鬱そうな目がとても素敵だよ」

「あ…お、お早う…オルニアス…」

するといきなり目の前の何もない空間からセラフィムが現れる。

「キャアッ!前触れも無く現れないでと言ってるでしょうっ?!」

「だけど、俺はユリアの護衛騎士だからな。こんな危険人物が側にいるならすぐ傍で護衛しなければいけないだろう?」

「俺はもうユリアの命は狙わない!」
「信じられるかっ!堕天使の言う事なんかっ!」

オルニアスとセラフィムは私を挟んで火花を散らす。

「はぁ~…もういい加減にしてよ…」


そして私はいがみ合う2人をその場に残し、待機していた馬車に乗り込むと学校へ向かった。


****

「どうもありがとう」

御者にお礼を述べ、馬車を降りて校舎を目指して歩いていると背後から私の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

「ユリアーッ!」

振り向くとその人物はマテオだった。

「あら、おはよう。マテオ」

「ああ、お早ユリア」

「いいの?ベルナルド王子の側にいなくても」

「ああ。もういいんだよ。何しろ王子の方から俺達に離れてくれと頼んできたんだから」

「ふ~ん…何故かしらね…」

すると今度は背後で大きな叫び声が上がった。

「「あーっ!!」

「げっ!アークッ!オーランドッ!」

マテオの顔色が変わる。

「マテオッ!勝手に抜け駆けするなっ!」
「ああ!全く何て奴だっ!!」
「うるさいっ!俺の勝手だろうがっ!」

アークとオーランドが駆け寄って来ると3人は私の頭の上で口論を始める。どうやらこの3人は私の事を取り合いっこしているらしい。
そもそも何故3人がこのような行動を取る様になってしまったかと言うと、オルニアスの話によれば、ノリーンが仕組んだ事の様だった。
私の方からベルナルド王子への興味を失わせようとする為に、マテオ達をオルニアスの魔力で私に惚れさせて、彼等に口説かせて誰かと恋に落ちてしまえば王子からの婚約破棄に応じるだろうと言う筋書きだったらしい。

そして、オルニアスはノリーンに命じられるまま彼らに私の事を好きになる魔法をかけ、結果彼らは私の虜?になってしまった。そしてオルニアスのかけた魔法が解けた後も何故かマテオ達は私に好意を寄せたままの状態だった。オルニアスの見解ではマテオ達はどうやら始めから私の事を好きだったから魔法が解けても何も変わらないのだろう…と言う事だった。

「はぁ~…もう付き合ってられないわよ」

私は激しく口論を続けるマテオ達からそっと離れると急ぎ足で校舎の中へ入って行き…。
偶然にもテレシアに会った。

「あ、おはよう。テレシアさん」

「おはよう~見たわよ。またあの3人に絡まれていたわね?」

「そうなのよ…本当に嫌になるわ」

私は溜息をついた。今では私とテレシアは親友と呼べる仲になっていた。

「それで?ベルナルド王子はどうしてるの?」

2人で廊下を歩きながらテレシアに尋ねた。

「あ?やっぱり気になるの?」

「う~ん…まぁ多少は?何しろあのノリーンと付き合っているんだから」

「そうよね~でもいずれ別れさせられるんじゃないかしら?何しろ結局は王族と平民の仲だからね」

「やっぱり…その時の怒りの矛先が私にむかなければいいけど…」

するとテレシアが笑いながら言う。

「何言ってるの。ユリアにはオルニアスとセラフィムって言う心強い2人がついているでしょう?それでユリアは誰を選ぶの?オルニアス?それともセラフィム?」

「ええっ?!な、何言ってるの?それにここだけの話…顔だけなら私あの2人の区別なんかつかないのよっ?!」

「まぁね…確かにあの2人見分けがつかないわよね…まぁ、どちらか1人に決めたら残りの1人は私に頂戴ね。顔だけなら私の好みのタイプだから」

サラリとテレシアは驚く事を言ってくる。

やがて、教室に着くと私はテレシアに別れを告げた。

「それじゃあね」

「ええ、またね」

そして私は教室の扉を開けた。

「おはよう!皆!」

「あ、おはよう。ユリアさん」
「おはよう」
「おはよ~」

クラスメイト達が次々と私の周りに集まってくる。今では私はすっかりクラスの人気者になっていた。


そう…忘れていた前世の記憶。

その全て思い出した私は心を入れ替えて生まれ変わることが出来たのだから―。



<完>




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