記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第90話 霧に包まれた屋敷

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ギィ~…

扉を開くと、心臓に悪い音が響き渡る。おかしい…普段ならこんな音がしないのに。人は恐怖を感じると、五感がおかしくなるのだろうか?

「お、おい…おかしいと思わないか…?」

一度もここへ来たことが無いオーランドが言う。

「ああ、俺もおかしいと思う」

オーランドに続き、マテオまで妙な事を言って来た。

「ああ、そうだ…尋常じゃない雰囲気を感じる」

ついにアークまでも…っ!

「ちょ、ちょっとっ!ひ、人を怖がらせるような事言わないで!しゅ、趣味が悪いわっ!」

するとベルナルド王子が神妙な顔つきで言う。

「いいや、ユリア…本当にこれは奇妙だぞ?お前だって本当はとっくに気付いているんだろう?」

「ええ。お兄様の言う通りよ」

「テレシアさんまでっ!」

「だって、おかしいじゃない?この屋敷…人の気配を感じないわ。しかもまるで森の中の様に湿った空気…そして薄っすら靄がかかっているように感じるわ」

「た、確かに…」

「よし、では一列になって探索を開始だ。オーランド、じゃんけんで負けているのだからお前が先頭を歩け」

ベルナルド王子が命令した。

「な、何で俺が先頭を歩かなきゃならないんですかっ!そ、そうだっ!ユリアだっ!ユリアが先頭を歩けばいいんだ!何しろここの屋敷の人間なんだから!」

オーランドが人でなしの事を言う。

「い、いやよっ!だ、大体私が狙われているのを知っててここへ来たんでしょう?!だったら別の人が…そ、そうだわっ!王子っ!ベルナルド王子が先頭を歩けばいいのよっ!」

しかし、王子は首を振る。

「いや、それは駄目だ。俺は殿を務めなければならないんだ。やはりここはユリアが先頭を歩くのが一番だろう」

まるで人でなしの台詞を吐く王子。結局私が先頭を歩かなければならなくなってしまった。



「う…も、もしここで殺されたら…王子の前に化けて出てやるんだから…」

おっかなびっくり歩いていると、ますます屋敷の中なのに霧が濃くなっていき、前が見えなくなってきた。

「ね、ねぇ!ま、前がもう見えなくて進めないわっ!」

震えながら振り返り…自分の血の気が引いていく音が聞こえた気がした。

「う、嘘でしょう…?」

いつの間にか私の後ろを歩いていた彼らは忽然と姿を消し、気付けば私は1人霧の中に立っていたのだ。

「そ、そんな…っ!」

恐怖で全身に鳥肌が立つ。

そこへ後方から何者かの足音が近づいてくる気配を感じた。
こ、怖いっ!!

恐怖ですくみそうになるも、私は自分を奮い立たせて走った。足がもつれそうになったけれども、必死で走った。そして背後からは誰かが迫って来る気配。

だ、誰か…っ!!

その時―

どすんっ!

いきなり何かにぶつかった。

「ユリア?」

その声は…!

「キャアアッ!た、助け…むごっ!」

いきなり口を塞がれると、抱きかかえられた。

ガチャッ

扉が開く音が聞こえ、私を抱きかかえたままその人物は扉の奥へと素早く入っていく。

「え…?」

そこは普通の部屋だった。霧も発生していなければ、湿った空気すら感じない。

「い、一体何がどうなって…」

「ユリアッ!何故戻って来たんだっ!」

突如背後で声が聞こえて驚いて振り向くと、そこにはマント姿のジョンが私の前に立っていた―。

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