記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第64話 暇な警備員

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 食後―

「あの~…わざわざ部屋で見張って頂かなくても大丈夫ですから…」

部屋の角でこの屋敷の警備をしている男性に私は声を掛けた。

「いいえ、そのようなわけには参りません。旦那様からユリアお嬢様の護衛を頼まれておりますので、今夜は寝ずの番をさせて頂きます。」

私の身を案じた父がこの屋敷の警備員である自分に今夜は私の護衛につくように命じられた、と警備員は言うのだが…。
いやいや、逆にこの状況ってどうなの?
年若い女性の部屋に、これまた年若い男性を同じ部屋に一晩中一緒にいさせるつもりなのだろうか?倫理的に見てもこの状況は絶対におかしいと思う。何やら別の意味で身の危険を感じてしまう。

「あの、何も部屋の中で見張って頂かなくても…父の話ではこの部屋に魔法の防御壁を張ったと聞かされていますけど?」

「いいえ、そのようなわけには参りません。やはり室内の警備は怠るわけには参りませんので」

あくまで頑なに拒否する警備員。

「はぁ~…」

私はため息をついた。もういい、勝手にさせておこう。どうせ寝る時は出ていってくれるだろうから…。そして私は再び勉強に励んだ。

「…」

無心にノートにペンを走らせていると、突然警備員の男性が話しかけてきた。

「ユリアお嬢様」

「はい」

緊張する面持ちで返事をする。何か異変でも感じたのだろうか?素人の私には分からないが、彼はプロ?の警備員なのだから。

「…随分熱心に勉強に励んでいるのですねぇ」

「は?」

「いやはや驚きです。ユリアお嬢様は勉強が嫌いで、学園内のお荷物と伺っていたので…ところがどうでしょう。こんなに熱心に勉強されているのですから驚きです」

「…はぁ…そうですか」

「一体何故、それほど熱心に勉強されているのですか?もしよければ理由を教えて下さい」

…この警備員…?はひょっとして退屈なのだろうか?そう言えば先程2,3回欠伸らしきものをしている姿を目にしたっけ…。今度は暇で話しかけてきたのかもしれない。

「…言われたからですよ」

「え?何をですか?」

「勉強するように言われたからです」

「旦那様にですか?」

「まさか…違いますよ。成績が酷くて退学になったら困る人がいて、その人に勉強する様に言われたからです」

「その人って…誰ですか?」

「それは…あ…」

そうだ…私、何言ってるのだろう?誰にそんな事言われた?大体私にはそんなに親しくしている人なんて…。ここで誰かの台詞が蘇る。

< 全てはユリアの為なんだからな?成績が上がれば、お前の評価も上がり、周りの見る目も変わってくる。快適な学園生活を送りたいのだろう? >

偉そうな態度で私に接してくる人物が時折頭の中に浮かんでくる。けれど浮かんでくるのはその人物の言った言葉だけで、顔も何も思い出すことは出来ない。

「…まだ混乱しているのかしら…」

頭を抱えて呟く。

「ユリア様?どうされましたか?」

警備員が話しかけてくる。

「いいえ、もう休もうと思って…」

「あ、そうなのですね。では今夜は部屋の出入り口で警備をさせて貰いますね」

そう言うと、男性警備員は部屋を出ていった。

「ふぅ…や~っと1人になれたわ…」

首をコキコキ鳴らし、部屋に取り付けてあるバスルームへと私は向かった―。


 ベッドに入って、どのくらい経過しただろうか…。

ウトウト仕掛けていた時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。

< ユリア…ユリア… >

「う~ん…」

目をこすり、瞼を開けてベッドから起き上がるといつの間にか窓が大きく開け放たれ、バルコニーが丸見えになっている。レースのカーテンが風になびき、空には大きな満月が浮かんでいるのが見えた。

「え…?何で窓が…?」

その時、バルコニーの手すりの上に誰かが座っているのが目に止まった。

「え…?」

目をこすり、よく凝らしてみると…。

「ジョ、ジョン…?」

私はその人物の名を口にしていた―。



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