64 / 126
第64話 暇な警備員
しおりを挟む
食後―
「あの~…わざわざ部屋で見張って頂かなくても大丈夫ですから…」
部屋の角でこの屋敷の警備をしている男性に私は声を掛けた。
「いいえ、そのようなわけには参りません。旦那様からユリアお嬢様の護衛を頼まれておりますので、今夜は寝ずの番をさせて頂きます。」
私の身を案じた父がこの屋敷の警備員である自分に今夜は私の護衛につくように命じられた、と警備員は言うのだが…。
いやいや、逆にこの状況ってどうなの?
年若い女性の部屋に、これまた年若い男性を同じ部屋に一晩中一緒にいさせるつもりなのだろうか?倫理的に見てもこの状況は絶対におかしいと思う。何やら別の意味で身の危険を感じてしまう。
「あの、何も部屋の中で見張って頂かなくても…父の話ではこの部屋に魔法の防御壁を張ったと聞かされていますけど?」
「いいえ、そのようなわけには参りません。やはり室内の警備は怠るわけには参りませんので」
あくまで頑なに拒否する警備員。
「はぁ~…」
私はため息をついた。もういい、勝手にさせておこう。どうせ寝る時は出ていってくれるだろうから…。そして私は再び勉強に励んだ。
「…」
無心にノートにペンを走らせていると、突然警備員の男性が話しかけてきた。
「ユリアお嬢様」
「はい」
緊張する面持ちで返事をする。何か異変でも感じたのだろうか?素人の私には分からないが、彼はプロ?の警備員なのだから。
「…随分熱心に勉強に励んでいるのですねぇ」
「は?」
「いやはや驚きです。ユリアお嬢様は勉強が嫌いで、学園内のお荷物と伺っていたので…ところがどうでしょう。こんなに熱心に勉強されているのですから驚きです」
「…はぁ…そうですか」
「一体何故、それほど熱心に勉強されているのですか?もしよければ理由を教えて下さい」
…この警備員…?はひょっとして退屈なのだろうか?そう言えば先程2,3回欠伸らしきものをしている姿を目にしたっけ…。今度は暇で話しかけてきたのかもしれない。
「…言われたからですよ」
「え?何をですか?」
「勉強するように言われたからです」
「旦那様にですか?」
「まさか…違いますよ。成績が酷くて退学になったら困る人がいて、その人に勉強する様に言われたからです」
「その人って…誰ですか?」
「それは…あ…」
そうだ…私、何言ってるのだろう?誰にそんな事言われた?大体私にはそんなに親しくしている人なんて…。ここで誰かの台詞が蘇る。
< 全てはユリアの為なんだからな?成績が上がれば、お前の評価も上がり、周りの見る目も変わってくる。快適な学園生活を送りたいのだろう? >
偉そうな態度で私に接してくる人物が時折頭の中に浮かんでくる。けれど浮かんでくるのはその人物の言った言葉だけで、顔も何も思い出すことは出来ない。
「…まだ混乱しているのかしら…」
頭を抱えて呟く。
「ユリア様?どうされましたか?」
警備員が話しかけてくる。
「いいえ、もう休もうと思って…」
「あ、そうなのですね。では今夜は部屋の出入り口で警備をさせて貰いますね」
そう言うと、男性警備員は部屋を出ていった。
「ふぅ…や~っと1人になれたわ…」
首をコキコキ鳴らし、部屋に取り付けてあるバスルームへと私は向かった―。
ベッドに入って、どのくらい経過しただろうか…。
ウトウト仕掛けていた時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
< ユリア…ユリア… >
「う~ん…」
目をこすり、瞼を開けてベッドから起き上がるといつの間にか窓が大きく開け放たれ、バルコニーが丸見えになっている。レースのカーテンが風になびき、空には大きな満月が浮かんでいるのが見えた。
「え…?何で窓が…?」
その時、バルコニーの手すりの上に誰かが座っているのが目に止まった。
「え…?」
目をこすり、よく凝らしてみると…。
「ジョ、ジョン…?」
私はその人物の名を口にしていた―。
「あの~…わざわざ部屋で見張って頂かなくても大丈夫ですから…」
部屋の角でこの屋敷の警備をしている男性に私は声を掛けた。
「いいえ、そのようなわけには参りません。旦那様からユリアお嬢様の護衛を頼まれておりますので、今夜は寝ずの番をさせて頂きます。」
私の身を案じた父がこの屋敷の警備員である自分に今夜は私の護衛につくように命じられた、と警備員は言うのだが…。
いやいや、逆にこの状況ってどうなの?
年若い女性の部屋に、これまた年若い男性を同じ部屋に一晩中一緒にいさせるつもりなのだろうか?倫理的に見てもこの状況は絶対におかしいと思う。何やら別の意味で身の危険を感じてしまう。
「あの、何も部屋の中で見張って頂かなくても…父の話ではこの部屋に魔法の防御壁を張ったと聞かされていますけど?」
「いいえ、そのようなわけには参りません。やはり室内の警備は怠るわけには参りませんので」
あくまで頑なに拒否する警備員。
「はぁ~…」
私はため息をついた。もういい、勝手にさせておこう。どうせ寝る時は出ていってくれるだろうから…。そして私は再び勉強に励んだ。
「…」
無心にノートにペンを走らせていると、突然警備員の男性が話しかけてきた。
「ユリアお嬢様」
「はい」
緊張する面持ちで返事をする。何か異変でも感じたのだろうか?素人の私には分からないが、彼はプロ?の警備員なのだから。
「…随分熱心に勉強に励んでいるのですねぇ」
「は?」
「いやはや驚きです。ユリアお嬢様は勉強が嫌いで、学園内のお荷物と伺っていたので…ところがどうでしょう。こんなに熱心に勉強されているのですから驚きです」
「…はぁ…そうですか」
「一体何故、それほど熱心に勉強されているのですか?もしよければ理由を教えて下さい」
…この警備員…?はひょっとして退屈なのだろうか?そう言えば先程2,3回欠伸らしきものをしている姿を目にしたっけ…。今度は暇で話しかけてきたのかもしれない。
「…言われたからですよ」
「え?何をですか?」
「勉強するように言われたからです」
「旦那様にですか?」
「まさか…違いますよ。成績が酷くて退学になったら困る人がいて、その人に勉強する様に言われたからです」
「その人って…誰ですか?」
「それは…あ…」
そうだ…私、何言ってるのだろう?誰にそんな事言われた?大体私にはそんなに親しくしている人なんて…。ここで誰かの台詞が蘇る。
< 全てはユリアの為なんだからな?成績が上がれば、お前の評価も上がり、周りの見る目も変わってくる。快適な学園生活を送りたいのだろう? >
偉そうな態度で私に接してくる人物が時折頭の中に浮かんでくる。けれど浮かんでくるのはその人物の言った言葉だけで、顔も何も思い出すことは出来ない。
「…まだ混乱しているのかしら…」
頭を抱えて呟く。
「ユリア様?どうされましたか?」
警備員が話しかけてくる。
「いいえ、もう休もうと思って…」
「あ、そうなのですね。では今夜は部屋の出入り口で警備をさせて貰いますね」
そう言うと、男性警備員は部屋を出ていった。
「ふぅ…や~っと1人になれたわ…」
首をコキコキ鳴らし、部屋に取り付けてあるバスルームへと私は向かった―。
ベッドに入って、どのくらい経過しただろうか…。
ウトウト仕掛けていた時、誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
< ユリア…ユリア… >
「う~ん…」
目をこすり、瞼を開けてベッドから起き上がるといつの間にか窓が大きく開け放たれ、バルコニーが丸見えになっている。レースのカーテンが風になびき、空には大きな満月が浮かんでいるのが見えた。
「え…?何で窓が…?」
その時、バルコニーの手すりの上に誰かが座っているのが目に止まった。
「え…?」
目をこすり、よく凝らしてみると…。
「ジョ、ジョン…?」
私はその人物の名を口にしていた―。
34
お気に入りに追加
2,871
あなたにおすすめの小説
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる