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第62話 父と娘
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着がえを済ませ、ソファで私は考え事をしていた。
「おかしい…。何かがおかしいわ…」
何がおかしいと聞かれてもうまく答えられないけれども、私の傍には常に誰かがいたような気がする。その誰かとは…一緒にいても、決して心が安らぐことが無く…近くにいれば苛立ちが募る、そんな人物だ。けれどもその反面、私はその誰かに頼り切っていた気がする…。
「う~…思い出せないって事はこんなに苛立つものなのね…」
クッションを抱えながら呟いたその時―。
「ユリア、入ってもいいか?」
ノックの音と共に、父の声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、父が部屋の中へ入って来た。
「何だ…?起きていたのか?もう身体は大丈夫なのか?」
父が尋ねて来る。…相変わらずまるで他人にしか思えない父に私は立ち上がると挨拶した。
「お父様、ご心配おかけいたしまして申し訳ございませんでした」
そして頭を下げる。
「いや…心配したのは確かだが…兎に角座って話をしよう」
父が向かい側のソファに座ったので、私も再び着席した。
「しかし、それにしてもよく無事だったな。もう一歩馬車が止るのが遅ければ、危うく崖下へ転落するところだったそうじゃないか」
「え、ええ…そのようですね」
しかし、その辺りの事は何一つ記憶にないので私には何とも答えようが無かった。
「…」
そんな様子の私を父は暫く無言で見つめていたが…やがて言った。
「馬車には細工がしてあったそうだ。車輪は外れやすく、扉は開きやすく加工されていたらしい。それに…肝心の御者の姿はまだ見つかっていないが、人相書きを見た処、この屋敷の御者では無かった。今行方を追っているが…見つけられない可能性がある」
「そうですか…」
やっぱり私は命を狙われていたのか…。
「すまなかった」
突然父が頭を下げて来た。
「え?お…父様?」
「お前が命を狙われているので護衛騎士を付けて欲しいと言ってきた時…ちゃんと信じて護衛を付けてやればよかったと反省している。またいつもの我々の関心を買う為の戯言だろうと決めつけてかかっていたのだ。あの時、お前を信じてやれば…そうしたらお前は馬車の事故に遭う事も無かったと言うのに…本当にすまなかった」
え…?父は一体何を言っているのだろう?
「何をおっしゃっているのですか?お父様は私の為に護衛騎士をつけて下さったではありませんか。現にその方がいたからこそ、私は馬車事故に遭っても命が助か…」
そこまで言いかけて私は息を飲んだ。今…自分で何を言いかけたのだろう?
「どうした?まだ具合が悪いのか?それに私はお前に護衛騎士等付けた覚えはないぞ?尤も…馬車事故に巻き込まれ、昏睡状態になってからは交代で外に見張りをつけ、お前のベッドはマジックシールドで防御をかけていたがな」
「護衛騎士を付けたことは…無い…?」
そんな…でもあの時、誰かに名前を呼ばれた気がする。
< ユリアッ!! >
その後、腕を掴まれて…誰かに抱きかかえられた記憶があるのに…?
私がぼんやりしていたからだろう。父が声を掛けて来た。
「兎に角…まだ休んでいた方がよいだろう。学園も数日休んで構わないぞ。こちらから連絡を入れておくので」
「はい、ありがとうございます」
すると父は立ち上がった。
「それでは私は仕事の続きがあるので執務室に戻るが…何か不自由な事があったら遠慮せずに呼び鈴を鳴らすのだぞ?」
「分りました。…お気遣い、ありがとうございます」
笑みを浮かべて父を見上げる。
「…」
すると父は不思議そうな顔で私を見た。
「あの…?どうかさないましたか?」
「あ、いや…随分雰囲気が変わったなと思っただけだ。それではな」
そして今度こそ、父は部屋を出て行った―。
「おかしい…。何かがおかしいわ…」
何がおかしいと聞かれてもうまく答えられないけれども、私の傍には常に誰かがいたような気がする。その誰かとは…一緒にいても、決して心が安らぐことが無く…近くにいれば苛立ちが募る、そんな人物だ。けれどもその反面、私はその誰かに頼り切っていた気がする…。
「う~…思い出せないって事はこんなに苛立つものなのね…」
クッションを抱えながら呟いたその時―。
「ユリア、入ってもいいか?」
ノックの音と共に、父の声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、父が部屋の中へ入って来た。
「何だ…?起きていたのか?もう身体は大丈夫なのか?」
父が尋ねて来る。…相変わらずまるで他人にしか思えない父に私は立ち上がると挨拶した。
「お父様、ご心配おかけいたしまして申し訳ございませんでした」
そして頭を下げる。
「いや…心配したのは確かだが…兎に角座って話をしよう」
父が向かい側のソファに座ったので、私も再び着席した。
「しかし、それにしてもよく無事だったな。もう一歩馬車が止るのが遅ければ、危うく崖下へ転落するところだったそうじゃないか」
「え、ええ…そのようですね」
しかし、その辺りの事は何一つ記憶にないので私には何とも答えようが無かった。
「…」
そんな様子の私を父は暫く無言で見つめていたが…やがて言った。
「馬車には細工がしてあったそうだ。車輪は外れやすく、扉は開きやすく加工されていたらしい。それに…肝心の御者の姿はまだ見つかっていないが、人相書きを見た処、この屋敷の御者では無かった。今行方を追っているが…見つけられない可能性がある」
「そうですか…」
やっぱり私は命を狙われていたのか…。
「すまなかった」
突然父が頭を下げて来た。
「え?お…父様?」
「お前が命を狙われているので護衛騎士を付けて欲しいと言ってきた時…ちゃんと信じて護衛を付けてやればよかったと反省している。またいつもの我々の関心を買う為の戯言だろうと決めつけてかかっていたのだ。あの時、お前を信じてやれば…そうしたらお前は馬車の事故に遭う事も無かったと言うのに…本当にすまなかった」
え…?父は一体何を言っているのだろう?
「何をおっしゃっているのですか?お父様は私の為に護衛騎士をつけて下さったではありませんか。現にその方がいたからこそ、私は馬車事故に遭っても命が助か…」
そこまで言いかけて私は息を飲んだ。今…自分で何を言いかけたのだろう?
「どうした?まだ具合が悪いのか?それに私はお前に護衛騎士等付けた覚えはないぞ?尤も…馬車事故に巻き込まれ、昏睡状態になってからは交代で外に見張りをつけ、お前のベッドはマジックシールドで防御をかけていたがな」
「護衛騎士を付けたことは…無い…?」
そんな…でもあの時、誰かに名前を呼ばれた気がする。
< ユリアッ!! >
その後、腕を掴まれて…誰かに抱きかかえられた記憶があるのに…?
私がぼんやりしていたからだろう。父が声を掛けて来た。
「兎に角…まだ休んでいた方がよいだろう。学園も数日休んで構わないぞ。こちらから連絡を入れておくので」
「はい、ありがとうございます」
すると父は立ち上がった。
「それでは私は仕事の続きがあるので執務室に戻るが…何か不自由な事があったら遠慮せずに呼び鈴を鳴らすのだぞ?」
「分りました。…お気遣い、ありがとうございます」
笑みを浮かべて父を見上げる。
「…」
すると父は不思議そうな顔で私を見た。
「あの…?どうかさないましたか?」
「あ、いや…随分雰囲気が変わったなと思っただけだ。それではな」
そして今度こそ、父は部屋を出て行った―。
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