59 / 126
第59話 懐かしい?記憶
しおりを挟む
午後の授業は『家政学』という授業だった。この授業では貴族令嬢の嗜みとしてのレース編の化粧ポーチを作るというものだったのだが…。
フフ…レース編みって楽しいわね…。
レース糸と編み針を手にした瞬間に懐かしい気持ちが込み上げ、私は迷うこと無くスイスイ編み始めた。他の女子学生たちの中には苦心している人もいたようだが、私はそんなことにも見向きもせずに一心不乱に編み続けていると、不意に脇から驚きの声が上がった。
「まぁ!アルフォンスさん!あれ程下手…い、いえ。苦手だったはずのレース編みをいつの間にそんなに上手に編めるようになったのですかっ?!」
「え?」
そうだったの?知らなかった…と言うか、記憶喪失中の私にはそんな記憶すら残ってない。けれども、何故かレース糸と編み針を手にした途端、懐かしい気持ちが込み上げて指が勝手に動き出したのだ。
「本当だわ!どうしたのですか?」
「なんて美しい網目なの…」
「私の分も編んで貰いたいわ」
誰もが称賛の声を上げる。
「い、いえ。そ、それほどでも…」
先生が驚いて目を見張る。他の女子学生たちも興味深げに見つめている。そして気づけば、その日の授業は私が講師?になっていた―。
****
キーンコーンカーンコーン
午後の授業が終わり、私は同じ班でレース編みをしたノリーンと一緒に教室に向かっていた。ノリーンは私と同様に魔法を使えないし、互いに親しい友人がいないという共通点もあって、何となく気が合うようになっていた。
「それにしても、アルフォンス様…」
ノリーンが話しかけてきた。
「アルフォンスじゃなくてユリアって呼んでいいわよ。私だって貴女のことを名前で呼んでいるのだから」
出来れば彼女とは仲良くなりたい。
「それじゃ、ユリア様。何だかたった数日で本当に別人になってしまったようですね?」
ノリーンが言う。
そうだ…ジョンの言葉はいまいち信用できないけれども、ノリーンの方がずっとジョンよりも信頼出来そうだ。そこで私は思い切って尋ねる事にした。
「あの…ね…貴女にだから話すけど…私、実は記憶喪失になってしまったのよ」
「え?!何ですか、その話は?!」
「ええ。私が学園を休んだ日があったでしょう?」
「はい、ありましたね」
「あの前日に池に落ちてしまって、気を失ってしまったのよ。そして目が覚めたら綺麗サッパリ記憶を失ってしまったというわけなの」
命を狙われているということは伏せておいた。
「そうだったのですか…それで性格も変わってしまったのでしょうか?」
「そう、それなの。ねぇ、以前の私って…どんな性格だったのかしら?」
「…」
するとノリーンは口を閉ざしてしまった。余程言いにくいのかもしれない。
「お願い、私自分が何者か知りたいの。何を言われても怒らないと約束するから教えてくれる?」
「…分かりました。ユリア様はとにかく気位の高い方でした。この学園は身分は全く関係ありません。実力のある者だけが評価される学園です。ユリア様は…その…勉強も全く出来ず、魔力も無いのに相手を見下すということで…その…嫌われておりました。す、すみません!生意気なこと言って!」
ノリーンは謝ってきた。
「そう…やっぱりそうだったのね。ジョンの言ったとおりだったのね…」
「あの、その話ですが…一体あのジョンと言う方は何者なのですか?あの時、ジョンさんがキャロライン先生に炎をぶつけたのに…何故か犯人はユリアさんにされて、誰もがそう思い込んでいたし…」
「ノリーン…」
それは私の方が聞きたかった。誰もがジョンの変身魔法で騙されたのに、何故魔力が無いノリーンには通用しなかったのか?しかし、当のノリーンは変身魔法が使われていた事にすら気付いていないのだから。
「あ、あのね。ノリーン…」
話しかけた時、突然ノリーンが窓の外に目を向けると言った。
「あら?あそこにいるのは…ジョンさんではありませんか?」
「え?」
私も窓に目を向け…目を見開いた。
何と、校舎から少し離れた場所に植えられた樹の下で、ジョンが誰かと話をしている姿が目に入ったのだ。
そして一緒にいる人物は…。
「テレシア…?」
気付けば、その名を口にしていた―。
フフ…レース編みって楽しいわね…。
レース糸と編み針を手にした瞬間に懐かしい気持ちが込み上げ、私は迷うこと無くスイスイ編み始めた。他の女子学生たちの中には苦心している人もいたようだが、私はそんなことにも見向きもせずに一心不乱に編み続けていると、不意に脇から驚きの声が上がった。
「まぁ!アルフォンスさん!あれ程下手…い、いえ。苦手だったはずのレース編みをいつの間にそんなに上手に編めるようになったのですかっ?!」
「え?」
そうだったの?知らなかった…と言うか、記憶喪失中の私にはそんな記憶すら残ってない。けれども、何故かレース糸と編み針を手にした途端、懐かしい気持ちが込み上げて指が勝手に動き出したのだ。
「本当だわ!どうしたのですか?」
「なんて美しい網目なの…」
「私の分も編んで貰いたいわ」
誰もが称賛の声を上げる。
「い、いえ。そ、それほどでも…」
先生が驚いて目を見張る。他の女子学生たちも興味深げに見つめている。そして気づけば、その日の授業は私が講師?になっていた―。
****
キーンコーンカーンコーン
午後の授業が終わり、私は同じ班でレース編みをしたノリーンと一緒に教室に向かっていた。ノリーンは私と同様に魔法を使えないし、互いに親しい友人がいないという共通点もあって、何となく気が合うようになっていた。
「それにしても、アルフォンス様…」
ノリーンが話しかけてきた。
「アルフォンスじゃなくてユリアって呼んでいいわよ。私だって貴女のことを名前で呼んでいるのだから」
出来れば彼女とは仲良くなりたい。
「それじゃ、ユリア様。何だかたった数日で本当に別人になってしまったようですね?」
ノリーンが言う。
そうだ…ジョンの言葉はいまいち信用できないけれども、ノリーンの方がずっとジョンよりも信頼出来そうだ。そこで私は思い切って尋ねる事にした。
「あの…ね…貴女にだから話すけど…私、実は記憶喪失になってしまったのよ」
「え?!何ですか、その話は?!」
「ええ。私が学園を休んだ日があったでしょう?」
「はい、ありましたね」
「あの前日に池に落ちてしまって、気を失ってしまったのよ。そして目が覚めたら綺麗サッパリ記憶を失ってしまったというわけなの」
命を狙われているということは伏せておいた。
「そうだったのですか…それで性格も変わってしまったのでしょうか?」
「そう、それなの。ねぇ、以前の私って…どんな性格だったのかしら?」
「…」
するとノリーンは口を閉ざしてしまった。余程言いにくいのかもしれない。
「お願い、私自分が何者か知りたいの。何を言われても怒らないと約束するから教えてくれる?」
「…分かりました。ユリア様はとにかく気位の高い方でした。この学園は身分は全く関係ありません。実力のある者だけが評価される学園です。ユリア様は…その…勉強も全く出来ず、魔力も無いのに相手を見下すということで…その…嫌われておりました。す、すみません!生意気なこと言って!」
ノリーンは謝ってきた。
「そう…やっぱりそうだったのね。ジョンの言ったとおりだったのね…」
「あの、その話ですが…一体あのジョンと言う方は何者なのですか?あの時、ジョンさんがキャロライン先生に炎をぶつけたのに…何故か犯人はユリアさんにされて、誰もがそう思い込んでいたし…」
「ノリーン…」
それは私の方が聞きたかった。誰もがジョンの変身魔法で騙されたのに、何故魔力が無いノリーンには通用しなかったのか?しかし、当のノリーンは変身魔法が使われていた事にすら気付いていないのだから。
「あ、あのね。ノリーン…」
話しかけた時、突然ノリーンが窓の外に目を向けると言った。
「あら?あそこにいるのは…ジョンさんではありませんか?」
「え?」
私も窓に目を向け…目を見開いた。
何と、校舎から少し離れた場所に植えられた樹の下で、ジョンが誰かと話をしている姿が目に入ったのだ。
そして一緒にいる人物は…。
「テレシア…?」
気付けば、その名を口にしていた―。
34
お気に入りに追加
2,885
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる