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第59話 懐かしい?記憶
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午後の授業は『家政学』という授業だった。この授業では貴族令嬢の嗜みとしてのレース編の化粧ポーチを作るというものだったのだが…。
フフ…レース編みって楽しいわね…。
レース糸と編み針を手にした瞬間に懐かしい気持ちが込み上げ、私は迷うこと無くスイスイ編み始めた。他の女子学生たちの中には苦心している人もいたようだが、私はそんなことにも見向きもせずに一心不乱に編み続けていると、不意に脇から驚きの声が上がった。
「まぁ!アルフォンスさん!あれ程下手…い、いえ。苦手だったはずのレース編みをいつの間にそんなに上手に編めるようになったのですかっ?!」
「え?」
そうだったの?知らなかった…と言うか、記憶喪失中の私にはそんな記憶すら残ってない。けれども、何故かレース糸と編み針を手にした途端、懐かしい気持ちが込み上げて指が勝手に動き出したのだ。
「本当だわ!どうしたのですか?」
「なんて美しい網目なの…」
「私の分も編んで貰いたいわ」
誰もが称賛の声を上げる。
「い、いえ。そ、それほどでも…」
先生が驚いて目を見張る。他の女子学生たちも興味深げに見つめている。そして気づけば、その日の授業は私が講師?になっていた―。
****
キーンコーンカーンコーン
午後の授業が終わり、私は同じ班でレース編みをしたノリーンと一緒に教室に向かっていた。ノリーンは私と同様に魔法を使えないし、互いに親しい友人がいないという共通点もあって、何となく気が合うようになっていた。
「それにしても、アルフォンス様…」
ノリーンが話しかけてきた。
「アルフォンスじゃなくてユリアって呼んでいいわよ。私だって貴女のことを名前で呼んでいるのだから」
出来れば彼女とは仲良くなりたい。
「それじゃ、ユリア様。何だかたった数日で本当に別人になってしまったようですね?」
ノリーンが言う。
そうだ…ジョンの言葉はいまいち信用できないけれども、ノリーンの方がずっとジョンよりも信頼出来そうだ。そこで私は思い切って尋ねる事にした。
「あの…ね…貴女にだから話すけど…私、実は記憶喪失になってしまったのよ」
「え?!何ですか、その話は?!」
「ええ。私が学園を休んだ日があったでしょう?」
「はい、ありましたね」
「あの前日に池に落ちてしまって、気を失ってしまったのよ。そして目が覚めたら綺麗サッパリ記憶を失ってしまったというわけなの」
命を狙われているということは伏せておいた。
「そうだったのですか…それで性格も変わってしまったのでしょうか?」
「そう、それなの。ねぇ、以前の私って…どんな性格だったのかしら?」
「…」
するとノリーンは口を閉ざしてしまった。余程言いにくいのかもしれない。
「お願い、私自分が何者か知りたいの。何を言われても怒らないと約束するから教えてくれる?」
「…分かりました。ユリア様はとにかく気位の高い方でした。この学園は身分は全く関係ありません。実力のある者だけが評価される学園です。ユリア様は…その…勉強も全く出来ず、魔力も無いのに相手を見下すということで…その…嫌われておりました。す、すみません!生意気なこと言って!」
ノリーンは謝ってきた。
「そう…やっぱりそうだったのね。ジョンの言ったとおりだったのね…」
「あの、その話ですが…一体あのジョンと言う方は何者なのですか?あの時、ジョンさんがキャロライン先生に炎をぶつけたのに…何故か犯人はユリアさんにされて、誰もがそう思い込んでいたし…」
「ノリーン…」
それは私の方が聞きたかった。誰もがジョンの変身魔法で騙されたのに、何故魔力が無いノリーンには通用しなかったのか?しかし、当のノリーンは変身魔法が使われていた事にすら気付いていないのだから。
「あ、あのね。ノリーン…」
話しかけた時、突然ノリーンが窓の外に目を向けると言った。
「あら?あそこにいるのは…ジョンさんではありませんか?」
「え?」
私も窓に目を向け…目を見開いた。
何と、校舎から少し離れた場所に植えられた樹の下で、ジョンが誰かと話をしている姿が目に入ったのだ。
そして一緒にいる人物は…。
「テレシア…?」
気付けば、その名を口にしていた―。
フフ…レース編みって楽しいわね…。
レース糸と編み針を手にした瞬間に懐かしい気持ちが込み上げ、私は迷うこと無くスイスイ編み始めた。他の女子学生たちの中には苦心している人もいたようだが、私はそんなことにも見向きもせずに一心不乱に編み続けていると、不意に脇から驚きの声が上がった。
「まぁ!アルフォンスさん!あれ程下手…い、いえ。苦手だったはずのレース編みをいつの間にそんなに上手に編めるようになったのですかっ?!」
「え?」
そうだったの?知らなかった…と言うか、記憶喪失中の私にはそんな記憶すら残ってない。けれども、何故かレース糸と編み針を手にした途端、懐かしい気持ちが込み上げて指が勝手に動き出したのだ。
「本当だわ!どうしたのですか?」
「なんて美しい網目なの…」
「私の分も編んで貰いたいわ」
誰もが称賛の声を上げる。
「い、いえ。そ、それほどでも…」
先生が驚いて目を見張る。他の女子学生たちも興味深げに見つめている。そして気づけば、その日の授業は私が講師?になっていた―。
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午後の授業が終わり、私は同じ班でレース編みをしたノリーンと一緒に教室に向かっていた。ノリーンは私と同様に魔法を使えないし、互いに親しい友人がいないという共通点もあって、何となく気が合うようになっていた。
「それにしても、アルフォンス様…」
ノリーンが話しかけてきた。
「アルフォンスじゃなくてユリアって呼んでいいわよ。私だって貴女のことを名前で呼んでいるのだから」
出来れば彼女とは仲良くなりたい。
「それじゃ、ユリア様。何だかたった数日で本当に別人になってしまったようですね?」
ノリーンが言う。
そうだ…ジョンの言葉はいまいち信用できないけれども、ノリーンの方がずっとジョンよりも信頼出来そうだ。そこで私は思い切って尋ねる事にした。
「あの…ね…貴女にだから話すけど…私、実は記憶喪失になってしまったのよ」
「え?!何ですか、その話は?!」
「ええ。私が学園を休んだ日があったでしょう?」
「はい、ありましたね」
「あの前日に池に落ちてしまって、気を失ってしまったのよ。そして目が覚めたら綺麗サッパリ記憶を失ってしまったというわけなの」
命を狙われているということは伏せておいた。
「そうだったのですか…それで性格も変わってしまったのでしょうか?」
「そう、それなの。ねぇ、以前の私って…どんな性格だったのかしら?」
「…」
するとノリーンは口を閉ざしてしまった。余程言いにくいのかもしれない。
「お願い、私自分が何者か知りたいの。何を言われても怒らないと約束するから教えてくれる?」
「…分かりました。ユリア様はとにかく気位の高い方でした。この学園は身分は全く関係ありません。実力のある者だけが評価される学園です。ユリア様は…その…勉強も全く出来ず、魔力も無いのに相手を見下すということで…その…嫌われておりました。す、すみません!生意気なこと言って!」
ノリーンは謝ってきた。
「そう…やっぱりそうだったのね。ジョンの言ったとおりだったのね…」
「あの、その話ですが…一体あのジョンと言う方は何者なのですか?あの時、ジョンさんがキャロライン先生に炎をぶつけたのに…何故か犯人はユリアさんにされて、誰もがそう思い込んでいたし…」
「ノリーン…」
それは私の方が聞きたかった。誰もがジョンの変身魔法で騙されたのに、何故魔力が無いノリーンには通用しなかったのか?しかし、当のノリーンは変身魔法が使われていた事にすら気付いていないのだから。
「あ、あのね。ノリーン…」
話しかけた時、突然ノリーンが窓の外に目を向けると言った。
「あら?あそこにいるのは…ジョンさんではありませんか?」
「え?」
私も窓に目を向け…目を見開いた。
何と、校舎から少し離れた場所に植えられた樹の下で、ジョンが誰かと話をしている姿が目に入ったのだ。
そして一緒にいる人物は…。
「テレシア…?」
気付けば、その名を口にしていた―。
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