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第56話 湧き上がる疑念
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「話…ですか?」
何だろう?この突き刺さるような、敵意の込められた視線は…。少なくとも、今朝理事長室まで連れて行ってくれた時にはこれほどまでにベルナルド王子は不機嫌では無かった。
「ああ、そうだ。俺とお前の事で非常に不愉快なデマが飛んでいる。その事について話がある」
「デマ…」
なるほど、デマのせいでこれほどまでにベルナルド王子は機嫌を悪くしてしまったのか。
「分かりました、どの様なデマか伺いましょう。ですが手短にお願い出来ます。もうそろそろジョンが戻って参りますので」
ただでさえ、面倒そうな話だ。そんな話の最中に私にとっては最早トラブルメーカーになりつつあるジョンが絡めば、もっと話はこじれてくるに違いない。
「ジョンだと…?」
ジョンの名前を持ち出した途端、ただでさえ不機嫌そうなベルナルド王子の眉が一層つり上がった。
「そう、そのジョンという男とお前のせいで今俺は不名誉な噂を立てられているのだ!責任を取れっ!」
そして勢いよく私を指さしてくる。
「え…?不名誉な噂…?ですか?」
一体どんな噂なのだろう?首を傾げると、ますますベルナルド王子がヒートアップする。
「そうやって、とぼける気か…?なんて図々しい奴なのだ…」
ベルナルド王子が身体を震わせたその時―。
「ほぉ~。中々面白そうな話ですね。一体そのデマとやらを聞かせて頂けますか?」
いつの間に戻って来たのか、2人分の食事が乗ったトレーを持ってベルナルド王子の背後にジョンが立っていた。
「ジョンッ!」
「うわっ!お、お前…!驚かせるな!」
ベルナルド王子が声をあげながら椅子から転げ落ちそうになる。
「そうだ!不意打ちはやめろっ」
「ベルナルド王子は気が弱いお方なんだぞっ!」
銀の髪と青い髪の青年がジョンに何とも情けない文句を言う。しかし…何故かマテオだけは口を閉ざしている。
「…?」
何故マテオは黙っているのだろう?ベルナルド王子の腰巾着なのに?すると、私の視線に気付いたのか、マテオが私の方を振り向き…、何故か一瞬顔を赤らめると視線をそらされてしまった。
一方のジョンは3人の文句を意に介すこともせず、2人分の料理が乗ったトレーをテーブルの上に置くと言った。
「待たせたな、ユリア。混雑していて中々料理を受け取れなかったんだ」
「いいえ、そんな事無いわよ。早かったと思うけど?美味しそうね?」
トレーの上には出来立て湯気の立つ煮込み料理に丸いパン3個ずつ乗っている。
「ああ、今日のA定食は煮込みビーフシチューなんだ。うまそうだろう?」
ジョンは椅子を引いて座るとにこやかな笑みを浮かべて言う。
その時―。
「こらっ!お前たち、俺を無視して勝手に料理の話で盛り上がるなっ!」
ベルナルド王子が喚く。
「ああ、すみません。料理が冷めては味が落ちるので食事をしながら話を聞かせて頂きます。さぁ、食べよう。ユリア」
ジョンにスプーンを手渡される。
「え、ええ…」
本当に良いのだろうか…?けれどジョンは既に料理を口に運んでいた。
「うん、美味い!ほら、ユリアも食べろ」
「え、ええ。いただきま…」
「何がいただきます、だっ!俺たちはまだ料理すら頼んでいないんだぞっ!」
ベルナルド王子はもはや完全にご立腹だ。しかし、流石はジョン。相手が王族だろうとお構いなしだ。
「だったら、王子も彼らに料理を頼んで運んできてもらえばどうですか?」
「ああ、そうだな。よし、お前ら。この2人と同じ料理を注文してきてくれ」
ベルナルド王子はマテオ達に命ずる。
「チッ」
「全く…」
「世話の焼ける王子だ…」
彼らは心の声がダダ漏れ状態?でカウンターへと向かって行った。そんな彼らの後ろ姿を私は呆気に取られながら見つめていた。
そして湧き上がる疑念。
王族だろうが、公爵家だろうが身分を尊重されないこの世界観。
本当に私はこの世界で今迄ずっと18年間、生きて来たのだろうか―と…。
何だろう?この突き刺さるような、敵意の込められた視線は…。少なくとも、今朝理事長室まで連れて行ってくれた時にはこれほどまでにベルナルド王子は不機嫌では無かった。
「ああ、そうだ。俺とお前の事で非常に不愉快なデマが飛んでいる。その事について話がある」
「デマ…」
なるほど、デマのせいでこれほどまでにベルナルド王子は機嫌を悪くしてしまったのか。
「分かりました、どの様なデマか伺いましょう。ですが手短にお願い出来ます。もうそろそろジョンが戻って参りますので」
ただでさえ、面倒そうな話だ。そんな話の最中に私にとっては最早トラブルメーカーになりつつあるジョンが絡めば、もっと話はこじれてくるに違いない。
「ジョンだと…?」
ジョンの名前を持ち出した途端、ただでさえ不機嫌そうなベルナルド王子の眉が一層つり上がった。
「そう、そのジョンという男とお前のせいで今俺は不名誉な噂を立てられているのだ!責任を取れっ!」
そして勢いよく私を指さしてくる。
「え…?不名誉な噂…?ですか?」
一体どんな噂なのだろう?首を傾げると、ますますベルナルド王子がヒートアップする。
「そうやって、とぼける気か…?なんて図々しい奴なのだ…」
ベルナルド王子が身体を震わせたその時―。
「ほぉ~。中々面白そうな話ですね。一体そのデマとやらを聞かせて頂けますか?」
いつの間に戻って来たのか、2人分の食事が乗ったトレーを持ってベルナルド王子の背後にジョンが立っていた。
「ジョンッ!」
「うわっ!お、お前…!驚かせるな!」
ベルナルド王子が声をあげながら椅子から転げ落ちそうになる。
「そうだ!不意打ちはやめろっ」
「ベルナルド王子は気が弱いお方なんだぞっ!」
銀の髪と青い髪の青年がジョンに何とも情けない文句を言う。しかし…何故かマテオだけは口を閉ざしている。
「…?」
何故マテオは黙っているのだろう?ベルナルド王子の腰巾着なのに?すると、私の視線に気付いたのか、マテオが私の方を振り向き…、何故か一瞬顔を赤らめると視線をそらされてしまった。
一方のジョンは3人の文句を意に介すこともせず、2人分の料理が乗ったトレーをテーブルの上に置くと言った。
「待たせたな、ユリア。混雑していて中々料理を受け取れなかったんだ」
「いいえ、そんな事無いわよ。早かったと思うけど?美味しそうね?」
トレーの上には出来立て湯気の立つ煮込み料理に丸いパン3個ずつ乗っている。
「ああ、今日のA定食は煮込みビーフシチューなんだ。うまそうだろう?」
ジョンは椅子を引いて座るとにこやかな笑みを浮かべて言う。
その時―。
「こらっ!お前たち、俺を無視して勝手に料理の話で盛り上がるなっ!」
ベルナルド王子が喚く。
「ああ、すみません。料理が冷めては味が落ちるので食事をしながら話を聞かせて頂きます。さぁ、食べよう。ユリア」
ジョンにスプーンを手渡される。
「え、ええ…」
本当に良いのだろうか…?けれどジョンは既に料理を口に運んでいた。
「うん、美味い!ほら、ユリアも食べろ」
「え、ええ。いただきま…」
「何がいただきます、だっ!俺たちはまだ料理すら頼んでいないんだぞっ!」
ベルナルド王子はもはや完全にご立腹だ。しかし、流石はジョン。相手が王族だろうとお構いなしだ。
「だったら、王子も彼らに料理を頼んで運んできてもらえばどうですか?」
「ああ、そうだな。よし、お前ら。この2人と同じ料理を注文してきてくれ」
ベルナルド王子はマテオ達に命ずる。
「チッ」
「全く…」
「世話の焼ける王子だ…」
彼らは心の声がダダ漏れ状態?でカウンターへと向かって行った。そんな彼らの後ろ姿を私は呆気に取られながら見つめていた。
そして湧き上がる疑念。
王族だろうが、公爵家だろうが身分を尊重されないこの世界観。
本当に私はこの世界で今迄ずっと18年間、生きて来たのだろうか―と…。
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