上 下
54 / 126

第54話 スパルタ護衛騎士

しおりを挟む
 キーンコーンカーンコーン…

1時限目の授業終了の鐘が鳴り終わり、テスト用紙が回収された。

「…」

私は机の上に突っ伏していた。…駄目だった。何一つ解答用紙に答えを書くことが出来なかった。唯一書くことが出来たのは自分の名前だけだったなんて…!大体、どれ程の間、学校の勉強から離れていたと言うのだろう?それは確かに受験生時代は真面目に勉強して大学に無事に入学…。

え?

そこまで考えて、我に返った。どうして私は何年も学校の勉強から離れていた気持ちになっているのだろう?それに受験生時代って?大学って何の事?大体私はまだ高校生のはずでは…?
まただ。
この時々現れ奇妙な感覚は一体何なのだろう?

その時―

「ユリア、テストはどうだった?」

突如、隣の席のジョンが声を掛けて来た。

「はぁ…テスト…?」

私はゆっくり顔を上げてジョンを見た。

「おい…どうしたんだ?ユリア。その座った目は随分迫力があるな?それでテストはどうだった?出来たのか?」

「出来るはずないでしょう?」

ジロリと睨み付けながら私はジョンに返事をする。

「あぁ、出来なかったのか…でもそうは言ってもせいぜい1~2問。悪くても3~4問程度だろう?それ位気にするな。次回頑張って挽回すればいいだろう?」

ジョンの言い方が非常に嫌味たっぷりに聞こえるのは…うん、きっと気のせいでは無いだろう。絶対に嫌がらせで言っているに違いない。

「はぁ?そんなはずないでしょう?名前しか書けなかったわよ」

真底不機嫌そうに言う。

「………え?…嘘だろう?あんな問題、普通に授業を聞いていれば誰にだって解ける問題だろう?まぁ最後の問題は多少捻ってあるが、ちょっと頭の回転を速めれば解けないはずは無い」

「ええ。それは確かにジョンの場合はそうだったでしょう?何しろテスト開始早々、ものすごい速さでペンを走らせ、終了20分前には書き上げて、ペンを下ろして居眠りしていた位なのだから」

「何?お前…テスト中だと言うのに、そんなに俺の事を気にしていたのか?ま、まさか…」

「?まさか…何よ?」

「まさか俺に気があるんじゃないだろうな?」

「はぁぁぁ?!そんなはずないでしょう?!」

いくらジョンが見惚れる程に美しい顔をしていたって絶対無理だ。その捻くれた性格は何があっても受け入れられない。お金を積まれたって交際なんて無理な相手だ。

「あぁ…そうか、なら良かった。もし告白してきたら、速攻に断りを入れていたところだった」

ジョンは胸をなでおろしながら言う。全く失礼な男だ。本当なら文句を言ってやりたいところだが、彼は私の護衛騎士。下手な事を言って、命を狙われている真っ最中に見捨てられてはたまらない。

「しかし、困ったことになったな…まさかユリアがそこまで落ちこぼれだとは思わなかった。これではレポートや反省文を提出しても学力不足で退学になってしまうかもしれないな…よし、今日から毎日帰宅後は夕食と入浴以外は寝るまでずっと勉強だ。そうだな…帰宅する時間を午後17時とみなし、1時間学習する。夕食が18時から19時。いくら俺でも食後すぐに勉強しろと鬼のようなことは言わない。30分の休憩をはさみ、入浴は…そうだな。おおまけにまけて30分間の時間をやろう。そして23時に就寝すれば平日だけでも4時間程度の勉強時間を確保する事が出来るだろう。土日は軽く見積もっても10時間は勉強できるだろう」

「…」

ジョンの滅茶苦茶な提案に思わず目を見開く私。

「うん?どうしたんだ?何故そんな目で俺の事を見る?」

「…ねえ、冗談よね?」

「何故冗談を言わなければならない?俺はいつだって大真面目だ」

「そんなに勉強できるはずないでしょう?」

酷い、鬼だ。スパルタだ。
「いいや、出来る。いや、やってもらう。退学になってはたまらないからな。それにこれは俺の為じゃない。全てはユリアの為なんだからな?成績が上がれば、お前の評価も上がり、周りの見る目も変わってくる。快適な学園生活を送りたいのだろう?」

ジョンは真剣な目で私を見る。

「た、確かにそうね…。退学することが出来ないのなら、居心地の良い環境で学園生活を送りたいわね」

ジョンの言うことも尤もだろう

「そうだ、よし。大分ユリアも理解力が早くなったな?」

「ええ、ジョンのお陰で目が覚めたわ」

そうだ。きっとジョンの行動は全て私の為を思っての事なのだろう。



けれど…この時の私はまだ知らなかった。

ジョンはまたしても私を窮地に陥れる行動を取っていたという事に―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...