記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第48話 王子の腰ぎんちゃく 一人目

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「フワァァァ…」

馬車の中で欠伸をしていると、ジョンが眉をしかめながら言った。

「全く…公爵令嬢ともあろうお方が人前で大欠伸をするなんて…」

「別にいいじゃないの。現に手で欠伸している口は隠したのだから」

「そういう問題ではありません。欠伸をすること事態が問題なのです」

「眠いんだからしようがないじゃない。出てしまうものは仕方がないでしょう?大体ジョンだって人前で欠伸の一つや二つ位…」

するとジョンが言う。

「いいえ、私は人前で欠伸等しませんから」

「え?嘘でしょう?」

私は目を見開く。

「そんな欠伸の話位で何故嘘をつかなくてはならないのです?」

「確かに言われてみれば…普通欠伸というものはうつるはずなのに、ジョンは欠伸をしなかったわね。…フワアア…」

駄目だ、欠伸と言う単語を口にするだけで本当に欠伸が出てしまう。欠伸をする私をジョンは冷たい目で見ていたけれども、ため息混じりに言った。

「まぁ…昨夜は反省文とレポートで随分遅くまで起きていたようですからね…今だけは仕方ありませんが…学園内では欠伸などしないように願いますよ」

「分かったわよ…」

そして再び私は欠伸をした―。


****

 学園に到着した私は教室に向かおうとした時、ジョンに引き止められた。

「待てよ、ユリア」

「な~に…?」

返事をしながら振り向く私。…ジョンの内と外の態度の違いには全く慣れそうにない。

「教室ではなく、お前が向かうのは理事長室だろう?」

「え?何故?」

職員室なら分かるけれども、何故に理事長室?

「魔法学の女教師がクビにされたのだから代わりに理事長本人に渡してくるんだ。俺は先に教室へ行ってるからな」

「…分かったわよ」

返事をするとジョンはニヤリと笑みを浮かべると言った。

「学園内で迷子になるなよ」

それだけ言うと、ジョンは歩き去って行く。その後姿を見届けると私はポツリと呟いた。

「全くジョンは大袈裟ね…学園内で迷子になるはずがないのに…」


しかし、私はジョンの予想通り?見事に迷子になってしまった―。



「困ったわね…理事長室は何処かしら…」

キョロキョロ廊下を歩きながら私は理事長室を探した。廊下には生徒達が行き来しているけれども、私を見ると露骨な態度で避けていくので尋ねることも出来ない。
全く…一体何処まで私は嫌われているのだろうか…。
思わず俯き、ため息を付いた時…。

「ユリア・アルフォンス。何故こんな所にいるのだ?」

いきなり声を掛けられて、顔を上げるとそこにはベルナルド王子の腰ぎんちゃくが私を見下ろしていた。黒髪の青年は敵意のある目で私を見ている。丁度良い。彼に理事長室の場所を尋ねることにしよう。

「ああ、知り合いに会えて良かったです。すみませんが理事長室の場所を教えてもらえませんか?」

出来るだけ、愛想よく笑みを浮かべながら私は尋ねた。

「はぁ?」

黒髪の青年は露骨に冷たい目で私を見る。

「本気で言ってるのか?この学園に入学して3年にもなるのに理事長室を知らないと言うのか?」

しまった。やはり記憶を失う前のユリアを知っている人物に尋ねるべきでは無かった。

「え、ええ…ちょっとど忘れしてしまって…すみませんが場所を教えて頂けませんか?」

出来るだけ低姿勢で尋ねる。

「…」

黒髪の青年は露骨に嫌そうな目で私を見ていたが、口を開いた。

「分かった…連れて行ってやる」

そして私の前に立って歩き始める。

「え?いいですよ、場所だけ教えて頂ければ」

すると青年は言った。

「全く…その低姿勢ぶりは一体何だ?今までは上から目線で俺たちを見下していたくせに。王子が自分になびかないからと言って、今度は方法を変えたのか?」

「いえ、別にそういうわけでは無いのですが…」

まさかベルナルド王子の腰ぎんちゃくに文句を言われるとは思わなかった。しかし、そんな風に責められても過去の記憶が一切無い私にはまるで他人事のようにしか感じられない。
全く…こんな事なら理事長室の場所を尋ねなければ良かった。

私は心の中でため息をついた―。
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