記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第39話 口車に乗せられて

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  ジョンの言動にイライラしながら馬車の窓から外を眺めていた私に彼が声を掛けてきた。

「それにしても…やはり虚言でも挙動不審でも無かったのですね」

「何の事?」

窓の外を眺めていた私はジョンの方を向いて返事をする。またジョンは私に喧嘩をふっかけて来るつもりなのだろうか?いいじゃない。どうせ何をしても負けるのは目に見えているけれど…そっちがその気なら受けて立とうじゃないの。

「これではっきり分かりました。ユリアお嬢様が何者かに命を狙われていると言う事が」

「そのようね…」

私の記憶は池に落ちた瞬間からしかない。けれども以前の私は命の危機に怯えていたのだろう。

「しかし、現段階では犯人は単独犯なのか…それとも仲間がいるのか、もしくは様々な人物がユリアお嬢様を狙っているのか、皆目見当がつきません。そこで犯人を炙り出す方法を考えました」

「へぇ~…流石はジョンね。それで?どんな方法なの?」

「はい、実は記憶を失っているユリアお嬢様には分らないかもしれませんが、今まで私はユリアお嬢様に外部からの魔法攻撃を無力化するアイテムをお渡ししていたのです。私の貴重な魔力を注ぎ込んだアイテムをね。常に身に着けて置くようにお願いしていたのですが…」

一々厭味ったらしい言い方をするジョン。だけど…。

「え?アイテム?どんなアイテムなのよ?」

「指輪ですよ」

「え?指輪?」

だけど私は指輪をしていない。

「指輪…そんなものはめていないけど?」

するとジョンは溜息をつきながらジロリと私を見た。

「ユリアお嬢様…無くされましたね?」

「え?無くしてるの?私!」

するとその言い方が気に入らなかったのか、ジョンの目がますます険しくなってきた。

「無くしてる…?随分他人事の言い方ですね?ご自分で無くされて置いて」

「し、仕方ないでしょう?ジョンだって良く知ってるでしょう。私は池に落ちた直後の記憶しか持っていないって事は。だからそれ以前にあった出来事は何一つ覚えていないのよ」

しかし、私の話を聞いているのかいないのか…ジョンは言う。

「恐らく保護魔法がかけられたアイテムを身に着けていないと言う事がユリアお嬢様の命を狙う何者かにバレたのでしょう。魔力がかなり強い人物ならそれ位見抜けるでしょうから。恐らく犯人は…私と同レベル位魔力の高い人物…」

「成程、そして学園で襲われたと言う事は学園内の人物の可能性が高いと言う事ね?」

「もしくはユリアお嬢様に何らかの催眠暗示を掛けて、ある条件が揃えば自殺に誘導できる凄腕の催眠術師…」

「え…?その線もあるの?そもそも魔力のある人物は催眠術にも長けているんじゃないの?」

しかし、ジョンは聞いているのかいないのか…返事をしない。

「それともユリアお嬢様の様に出来の悪い生徒がいる事を恥と思った学園側がお嬢様を抹殺する為に全員でグルになっている可能性もあり得ますね。何しろあの学園に通う生徒は全員魔力保持者ですから」

「何てスケールの大きい話なのっ?!」

まさか…学園全てがグルだったと?私1人の命を奪う為に?

「ええ…そうですね。ひょっとするとユリアお嬢様を永遠に葬る為の巨大組織が存在しているかもしれません」

「そんな…」

全く馬鹿々々しい話だとは思うけれども、ジョンが言うと何だか本当の話の様に思えてくるから不思議なものだ。

「え…?ね、ねぇ…それじゃもし学園全体がグルなら、ますます私はあの学園を辞めるべきなんじゃないの?だって命を狙われているかもしれないのよね?!」

「いいえ。それは駄目です」

ジョンがきっぱり言う。

「何でなの?」

「決まっているじゃないですか?授業料の問題があると言ったでしょう?今学園を辞めれば、報酬が天引きどころか、マイナスですよ?マイナス。冗談じゃありません。こっちが破産してしまいますよ」

「ちょっと!ジョンッ!もしそんな事を言っていて…護衛対象の私が仮に殺られてしまったらどうするのよ!」

この場に及んで未だに自分の報酬を気にするジョンに我慢できず、大声で抗議する私。しかし、ジョンは自信たっぷりに言う。

「よろしいですか?自慢ではありませんが、私は今まで一度も受けた依頼をしくじった事はありません。現に私は既に2回ユリアお嬢様の命を救っております」

「うう…だ、だけど…」

「それに何も理由は報酬だけではありません。これはユリアお嬢様の為でもあります」

「わ、私の為…?」

「ええ、そうです。学園に通っている限り…ユリアお嬢様は恐らく今後も学園内で命を狙われる可能性が高いと言う事です。しかし、逆に考えれば犯人を捕まえやすくなる…そうは思いませんか?だからユリアお嬢様が何と言おうと、最低2カ月は通って頂きますからね」

何だかうまく言いくるめられた気もするが…ここはジョンを信じよう。現に私は彼に命を救われているのだから。

「わ、分りました…」

こうして私は嫌々、ジョンの口車に乗せられて学園に通い続ける事を承諾させられてしまった―。


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