記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
36 / 126

第36話 揃いも揃って

しおりを挟む
 シュッ!!


 突如、空気を切り裂くような鋭い音が聞こえ、気づけば1本の氷の矢が私に向かって飛んできた。

「え…?」

咄嗟の事に身体が固まって動けない。勿論ベルナルド王子達もだ。

次の瞬間―

「危ない!ユリアッ!!」

バチッ!!

聞き覚えのある声と同時に突如目の前で氷の矢が砕け散った。そして氷の粒となった矢はバラバラと地面に落ちていく。

「あ…」

あまりの突然の出来事にヘナヘナと地面に座り込んでしまった。そこへジョンが駆けつけてきた。

「ユリアッ!大丈夫だったかっ?!」

ジョンは私に声を掛けると、立ち上がるのに手を貸してくれた。

「あ、ありがとう…ジョン…」

少しだけ声を震わせながら私はジョンにお礼を述べた。

「ああ、でも間に合って良かった」

ジョンが安堵のため息をつく。

その時―。

「おい…今のは一体…?」

ベルナルド王子が声を掛けてきた。

「見てのとおりです。氷の矢がユリアに向かって飛んできた。ただそれだけですよ」

「はぁっ?!」

何っ?!その物言いは!今私は命を狙われたのにそれだけって何?思わず文句を言ってやろうかと思ったその時、ものすごい剣幕でベルナルド王子が尋ねてきた。

「おい、一体どういう事だ?ユリアは命を狙われているのか?」

「ええ、そうですよ。何しろ貴方曰く、ユリアは父親からも疎まれているような人物ですから」

ジョンは嫌味たっぷりにベルナルド王子に言う。

「あ…」

この言葉はさすがに堪えたのか、王子だけでなく3人の腰巾着達もバツが悪そうに俯く。

「…行こう、ユリア。迎えの馬車がもう来ているから。こっちだ」

「え、ええ…」

ジョンに手招きされ、歩き始めた時―。

「ユリアッ!」

突然ベルナルド王子が声を掛けてきた。

「何かまだ用があるのですか?」

ジョンがベルナルド王子を見る。

「あ、ああ…良かったら…俺の馬車に乗らないか?俺の馬車はシールドの魔法が掛けられているから安心だぞ?」

今までに無い穏やかな口調でベルナルド王子が私に話しかけてきた。

「あの…」
「結構です、お断りします」

私が返事をするより早く、またしてもジョンが先に返事をする。

「俺は…お前にではなくユリアに尋ねているのだが?」

ベルナルド王子はジロリとジョンを睨みつけた。

「いいえ、ユリアに聞くまでもありません。王子がユリアを嫌ってるのは学園中の誰もが知っている事実ですし。ひょっとするとユリアの命を狙っているかもしれないような人物と一緒の馬車に乗らせるわけにはいきませんからね」

「な、何だってっ?!」

王子が顔を真っ赤にさせる。

「王子に向かってなんて口を叩くんだっ?!」
「いくらユリア様の事を嫌っていても命なんて狙うものかっ!」
「謝罪しろっ!」

3人の腰ぎんちゃく達もジョンに言い返してくる。

「なら、どうしてユリアに氷の矢が飛んできた時、揃いも揃って大の男が4人もいながら何も対処しなかったのですか?」

『!!』

その言葉にベルナルド王子たちはビクリと肩を動かしたが、言葉を返す者は誰もいなかった。

「つまり、そういう事ですよ。…行こう、ユリア。馬車は門の外で待っているから」

「え、ええ…」

ジョンは私の右手を掴むと、門へ向かって歩き出した―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。 ☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。 ☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。 ☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。 ☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。 ☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 ☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...