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第32話 たきつける男
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「…」
黙って食べるジョン。
「フン。ユリアの焼いた菓子等まずいに決まっている。」
まだ私の背後ではベルナルド王子がいちゃもん付けている。さっさと何処かに行ってくれればいいのに…。
「う…」
突然ジョンが口を開く。
「う?」
私は次の言葉を待つ。
「ほら見ろっ!まずくて呻いているのだ!」
後ろのベルナルド王子がうるさくて堪らない。
「うまいっ!」
突如ジョンが笑みを浮かべ、あっという間に手にしていたマフィンを口に運び、完食してしまった。そして私に言った。
「凄く美味しかった。今まで食べたマフィンの中で一番上出来だったよ。人間得意な物の一つや二つあるものだな?」
珍しく褒めてくれた!すると王子が言った。
「何だと?そんなはずあるものか。だったら俺が食べて確認してやろう。1つ寄越すんだ」
王子がとんでもないことを言って来た。するとすかさずジョンが反論する。
「ベルナルド王子、申し訳ありませんがこのマフィンはユリアが俺の為に焼いてくれたマフィンです。しかも先程、絶対にユリアの焼いた菓子は食べないと仰っていましたよね?」
「そ、それは…!」
「王子は先ほど学生食堂で一緒にいた女子生徒に焼いて貰えば良いのではありませんか?」
「ぐぬぬ…!」
ベルナルド王子は悔しそうにジョンを睨み付けると、次に3人の腰ぎんちゃくたちに声を掛けた。
「おい、行くぞっ!」
「「「はい!」」」
そしてベルナルド王子はくるりと背を向けると、3人の腰ぎんちゃくたちを連れて、私達の元から去って行った。
「何だ?あの王子は…」
ジョンは立ち去って行くベルナルド王子たちを見ながら首を捻る。
「ええ、そうね…」
だけど…正直に言うと少しだけ気分が良かった。何故なら私を馬鹿にしていたベルナルド王子が剣術だけでは無く、言葉でも負けて立ち去って行ってくれたのだから。
「ジョン、ひょっとして私の為にあんな事を言ってくれたの?」
「ああ、当然だろう?少したきつけてやる為に挑発したのさ。ひょっとすると尻尾を出すかもしれないだろう?」
「尻尾?何の尻尾よ?」
「もう自分の立場を忘れたのか?俺はユリアの何なんだ?」
ジョンがあきれ顔で私に言う。
「えっと…護衛騎士よね?」
「良かった。覚えていたのか?ユリアは記憶力に乏しいから忘れているのかと思って心配だったのだが…何よりだ」
「そんな話はどうでもいいから、尻尾を出すって意味教えてよ」
「決まっているだろう?ユリアは命が狙われているんだ。ベルナルド王子は何故か分らないが、仮にも婚約者であるユリアの事を相当毛嫌いしている。いや、激しく憎悪していると言っても過言では無い」
ジョンは小声で言う。
「ちょっと…それは余りに言い過ぎじゃない?お、脅さないでよ…」
その言葉に全身に鳥肌が立つ。
「いや、ユリア。俺は事実しか話さない。とにかく王子はユリアをこの世の敵と言わんばかりに憎悪を抱いているようにしか俺には思えないのだ。だから王子にますます憎しみを抱くように誘導したんだ。ひょっとすると今日中にあの3人組辺りがユリアの命を狙ってくるかもしれないじゃないか?そこを捕らえれば一見落着。どうだ?中々いいアイデアだろう?」
「え…?そ、それじゃベルナルド王子をたきつける為にあんな真似をしたって言うの?」
「当然だ?他に何の理由がある?」
「な、何て人なのよ~っ!もしベルナルド王子が私の命を狙っていなかったら?もし今回の件で私に殺意を抱いてしまったとしたら、命の危険が2倍に増えてしまったって事じゃないのよっ!」
思わず大声を出すと、ジョンに口を塞がれた。
「馬鹿っ!落ち着けっ!そんな大声で言うと周囲に聞こえてしまうだろう?」
「…」
口を塞がれている為に無言でなずく私にジョンは言った。
「大丈夫だ、安心しろ。俺はプロなんだ。ユリアは何も心配する事はないからな?」
しかし、今までのジョンの行動を振り返ると、一抹の不安を感じずにはいられない。
私は今日1日無事に乗り切ることが出来るのだろうか―?と。
黙って食べるジョン。
「フン。ユリアの焼いた菓子等まずいに決まっている。」
まだ私の背後ではベルナルド王子がいちゃもん付けている。さっさと何処かに行ってくれればいいのに…。
「う…」
突然ジョンが口を開く。
「う?」
私は次の言葉を待つ。
「ほら見ろっ!まずくて呻いているのだ!」
後ろのベルナルド王子がうるさくて堪らない。
「うまいっ!」
突如ジョンが笑みを浮かべ、あっという間に手にしていたマフィンを口に運び、完食してしまった。そして私に言った。
「凄く美味しかった。今まで食べたマフィンの中で一番上出来だったよ。人間得意な物の一つや二つあるものだな?」
珍しく褒めてくれた!すると王子が言った。
「何だと?そんなはずあるものか。だったら俺が食べて確認してやろう。1つ寄越すんだ」
王子がとんでもないことを言って来た。するとすかさずジョンが反論する。
「ベルナルド王子、申し訳ありませんがこのマフィンはユリアが俺の為に焼いてくれたマフィンです。しかも先程、絶対にユリアの焼いた菓子は食べないと仰っていましたよね?」
「そ、それは…!」
「王子は先ほど学生食堂で一緒にいた女子生徒に焼いて貰えば良いのではありませんか?」
「ぐぬぬ…!」
ベルナルド王子は悔しそうにジョンを睨み付けると、次に3人の腰ぎんちゃくたちに声を掛けた。
「おい、行くぞっ!」
「「「はい!」」」
そしてベルナルド王子はくるりと背を向けると、3人の腰ぎんちゃくたちを連れて、私達の元から去って行った。
「何だ?あの王子は…」
ジョンは立ち去って行くベルナルド王子たちを見ながら首を捻る。
「ええ、そうね…」
だけど…正直に言うと少しだけ気分が良かった。何故なら私を馬鹿にしていたベルナルド王子が剣術だけでは無く、言葉でも負けて立ち去って行ってくれたのだから。
「ジョン、ひょっとして私の為にあんな事を言ってくれたの?」
「ああ、当然だろう?少したきつけてやる為に挑発したのさ。ひょっとすると尻尾を出すかもしれないだろう?」
「尻尾?何の尻尾よ?」
「もう自分の立場を忘れたのか?俺はユリアの何なんだ?」
ジョンがあきれ顔で私に言う。
「えっと…護衛騎士よね?」
「良かった。覚えていたのか?ユリアは記憶力に乏しいから忘れているのかと思って心配だったのだが…何よりだ」
「そんな話はどうでもいいから、尻尾を出すって意味教えてよ」
「決まっているだろう?ユリアは命が狙われているんだ。ベルナルド王子は何故か分らないが、仮にも婚約者であるユリアの事を相当毛嫌いしている。いや、激しく憎悪していると言っても過言では無い」
ジョンは小声で言う。
「ちょっと…それは余りに言い過ぎじゃない?お、脅さないでよ…」
その言葉に全身に鳥肌が立つ。
「いや、ユリア。俺は事実しか話さない。とにかく王子はユリアをこの世の敵と言わんばかりに憎悪を抱いているようにしか俺には思えないのだ。だから王子にますます憎しみを抱くように誘導したんだ。ひょっとすると今日中にあの3人組辺りがユリアの命を狙ってくるかもしれないじゃないか?そこを捕らえれば一見落着。どうだ?中々いいアイデアだろう?」
「え…?そ、それじゃベルナルド王子をたきつける為にあんな真似をしたって言うの?」
「当然だ?他に何の理由がある?」
「な、何て人なのよ~っ!もしベルナルド王子が私の命を狙っていなかったら?もし今回の件で私に殺意を抱いてしまったとしたら、命の危険が2倍に増えてしまったって事じゃないのよっ!」
思わず大声を出すと、ジョンに口を塞がれた。
「馬鹿っ!落ち着けっ!そんな大声で言うと周囲に聞こえてしまうだろう?」
「…」
口を塞がれている為に無言でなずく私にジョンは言った。
「大丈夫だ、安心しろ。俺はプロなんだ。ユリアは何も心配する事はないからな?」
しかし、今までのジョンの行動を振り返ると、一抹の不安を感じずにはいられない。
私は今日1日無事に乗り切ることが出来るのだろうか―?と。
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