上 下
29 / 126

第29話 称賛を浴びる私

しおりを挟む
 教室へ入った途端―。

パチパチパチパチ…ッ!

クラスメイト達が一斉に拍手をした。皆何故拍手をしているのだろう?そして傍らに立つジョンを見て納得した。

「ジョン。貴方すっかり人気物ね?男女問わず皆から拍手を受けるなんて」

するとジョンは溜息交じりに言った。

「本当にユリアは鈍い人間だな…」

「え?何が?」

するとクラスメイト達が一斉に駆け寄ってくると、あっという間に私は取り囲まれていた。

え?一体どういう事?

「有難うございます!ユリア様っ!」
「あの教師に炎の球を投げつけるなんてっ!」
「あんな凄い魔法が使えたなんて尊敬します」
「才能を隠していたのですね?」
「何はともあれ、スカッとしましたよ」

等々…賛美の嵐だった。

「あ、あの…私(正確に言えば私に姿を変えたジョン)が、キャロライン先生にあんな真似をして…軽蔑したりしないのかしら…?」

クラスメイト達を見渡しながら言うと、全員が首を振る。

「軽蔑?!まさかっ!」
「ええ、そうですよ!大した魔力も無いくせに『魔法学』の教師なんて!」
「見の程知らずも甚だしいですわ」
「善い気味でしたよ!」

そして再び盛り上がるクラスメイト達。どうやら彼等は満場一致でキャロライン教師が以前から気にくわなかったらしく、私(ジョンだけど)が炎の球をぶつけて、髪を焼いてくれた事で鬱憤を晴らしてくれたと感謝してきたのだ。

 皆に取り囲まれ、お礼の言葉を受けながら私は1人生徒たちの輪から外れ場所に立つジョンを見た。まさか、ジョンは始めからこれを狙っていたのだろうか…?私に対するクラスメイト達の態度をを改めさせる為…?
まさかね…。そう思いつつ、戸惑いながらジョンを見ると、私の視線に気付いたのかこちらを振り向くジョン。彼は私を見ると口を動かした。

「か・ん・しゃ・し・ろ・よ」

ジョンの口は、そう語っていた。

え?まさかジョンは本当に全て計算づくであのような真似をしたのだろうか?

私は少しだけ考え…あのジョンに限って絶対そんなはずは無いだろう!という結論に至った―。



****

 午後の授業は女子生徒は調理実習でマフィン作り、男子生徒たちは剣術の訓練だった。
フフフ…
調理をしながら、私は笑いが止まらなかった。その理由は簡単。何故なら私を振り回すジョンからようやく解放されたからだ。嬉しさのあまり、ウキウキしながら卵を割り、砂糖を混ぜて手早くかき混ぜ小麦粉やバニラビーンを加えてさらに泡だて器で混ぜて、マフィンケースに生地を流し込んでいる最中に、ようやく自分が皆から注目を集めていたことに気付いた。

「あ、あの…一体何でしょう…?」

恐る恐る周囲を見渡し、口を開くと―。

「す、素晴らしいですわっ!アルフォンスさん!一部の隙も無い完璧な腕前です!」

家庭科の先生が感動して手を叩く。他の女子学生達も称賛の声を浴びせて来た。

「一体どうなさったのですか?この間までは卵すら割れなかったのにっ?!」

え?!そうなのっ?!

「流れるような自然な動き!」
「手際が素晴らしかったですわ!」
「いつの間にお菓子作りの腕をあげていたのですかっ?」

「え…?」

そう言えば、何故なのだろう?考え事をしながらお菓子作りをしていたけれども、何も意識することなく、自然に身体が動いていた。まるで、ずっと前からお菓子を作っていたかのように…。

ひょっとすると、自分の失われた記憶に…何か重要な秘密が隠されているのではないだろうか?

しかし、当面まず私がやることは…。

「はい、それでは皆さん。今からかまどでケーキを焼きますからね。準備はいいですか?!」

家庭科の先生が私達に声を掛ける。

『はいっ!!』

全員が声を揃えて返事をする。

そう、私がいまするべき事は…ケーキを焼き上げて、私を見下しているジョンに食べさせて彼を見返してやることなのだから。

私はウキウキしながらクラスメイト達とかまどへ向かった―。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...