記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした

第19話 一体何の真似？

「入口付近に立っているな。通行の邪魔だろう？」

金色の髪の青年は私をジロリと睨みつけた。…確かに言われてみればそうかも知れない。

「はい、どうも申し訳ございませんでした」

素直に頭を下げた。

「何っ？！」

「えっ？！」

すると青年と少女が意外そうな声を上げる。…どうしたのだろう？自分の方から退けと言っておきながら、いざ私が頭を下げただけで驚いた顔をするなんて…。首を傾げつつ邪魔にならない様に彼等から離れた場所に移動した。そして先程の青年の方を見ると、唖然とした顔でこちらを見ている。…全く何なのだろう？あのグループはどう見ても私に敵意を持っているようなのでなるべく関わりたくは無かった。そこでわざと視線をそらせてジョンの姿を探していると、何故か彼等がこちらに向かって近づいてくる。
そして私の真正面に立つと金の髪の青年が意地悪そうな笑みを浮かべた。

「おい、ユリア。何故そんなところにつっ立っているのだ？こちらに構わず空いている席を探してさっさと座れば良いじゃないか？それともいつものように俺たちがテーブルに付くのをここで待つつもりだったのか？」

「え？」

あまりにも突拍子も無い事を言われ、私は正面からじっと青年の顔を見た。一体この人は何を言い出すのだろう？

「あの…それは一体どういう意味でしょうか？」

私は彼の言っている意味が分からずに恐る恐る尋ねた。すると金の髪の青年が腕組みをすると言った。

「とぼけるな。まさか俺たちが今迄何も気づいていないとでも思っていたのか？もしそうだとするとおめでたい女だ。いいか？知っているんだぞ？お前がいつも俺たちをこの場所で隠れて待ち伏せしているのを。そして着席した頃を見計らって、さも偶然を装って近づいてきては図々しく同じ席に座ってきているではないか」

「え…？」

その言葉に耳を疑った。まさか記憶を失う前の私は1人で食事をするのが嫌で、恥ずかしげもなくそんな厚かましい真似をしていたのだろうか？むしろ今の私にとっては、招かれざる場所に顔を出すくらいなら、1人で食事をしたほうが10倍マシだ。過去の自分がとても恥ずかしくなり…私は素直な気持ちで謝った。

「それは大変申し訳ございませんでした。もう二度とその様な恥ずかしい真似は致しませんし、あなた方には極力近づかないと約束しますのでどうぞお許し下さい」

私はこの学園で嫌われている。低姿勢で謝っておかなければ。

「「「「「え…？」」」」」

すると私の態度に相当戸惑ったのか、彼等の目に困惑の表情が浮かぶ。

「おい。ユリア！お前…一体どういうつもり…」

金の髪の青年が口を開きかけた時―。


「ユリアッ！」

ジョンの声が聞こえ、顔を上げるとこちらへ駆け寄ってくる彼の姿が目に入った。

「あ、ジョン」

声を掛けるとジョンが私の両肩に突然手を置いてきた。え？な、何っ？！

「ユリア、何でこんなところにいたんだい？さっきの場所で待っているように言ったじゃないか？随分探したんだよ？」

妙に優しい声で私の顔を覗き込んでくるジョンの姿に私は戸惑うばかりだった。それどころか背筋が妙にゾワゾワする。ジョンは一体どうしてしまったのだろう？すると突然私の耳元に口を近づけると彼は小声で言った。

「私の話に合わせて下さい」

「！」

その言葉に一瞬驚くも、記憶が何も無い私が今頼れる相手はジョン以外にいないのだ。ここは彼の話に合わせておいたほうが良いだろう。

「ええ、ごめんなさい。実はこの人達にあの場所に立っていたら通行の邪魔になると注意されたので、場所を移して貴方の事を待っていたのよ」

ニコニコと笑みを浮かべてジョンに返事をしつつ、チラリと彼等の様子を見ると全員が呆気にとられた表情でこちらを見ていた―。