記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第17話 事前に教えて

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「ねぇ、ジョン!良かったの?あんな真似をして」

ジョンに追いつくと並んで歩きながら私は尋ねた。

「あんな真似って?」

ジョンは私の方を見向きもせずに言う。

「だから…折角親切心で話しかけてきた彼女たちをあんな邪険にして…転校初日だって言うのに、居心地悪くならないの?」

するとジョンはピタリと足を止めて、私の事を穴でも開くのじゃないかと思うほどにじ~っと見つめてきた。

「な、何よ…」

「はぁ~…!」

ジョンは大袈裟な位に大きなため息を付くと、いきなり私の左腕を掴んでスタスタと廊下を早足で歩き始める。

「ちょ、ちょっと!な、何よ…!」

「人のいない所へ行くんだよ」

「ひ、人のいないところって…」

しかしジョンは私の質問に答えず、ずんずんあるき続け…気付けば静かな庭へやって来ていた。

「全く…」

ジョンは庭に設置してあるベンチにドサリと座ると、私に言った。

「ユリアお嬢様、もしかして…肝心なことを忘れていませんか?」

ジョンの口調は元に戻っている。

「肝心な事…?何?」

私も隣に腰掛けるとジョンを見た。

「いいですか?私は何の為にこの学園へ入学してきたと思っていますか?」

「そんなの忘れるはずないじゃない、私の護衛をする為にでしょう?私が命を狙われていることがはっきり分かったから学園でも守れるように入学してきたのよね?」

「ええその通りです。転校初日に居心地悪くなっていいのかと尋ねて来たので、てっきり私が何の為にこの学園に入学してきたのかお忘れになったのかと思ってしまいましたよ」

「失礼ね。いくら記憶を無くしているからと言って、何でもかんでも忘れたりしていないから」

「だったらいいのですけどね…とりあえず、私はクラスの誰とも仲良くする気はありません。大体同じ年齢ならまだしも…私は仮にも26歳なのですよ?出来れば極力誰とも関わりたくありませんからね」

「はぁ~…やっぱり貴方って友達いないでしょう?」

「そういうユリアお嬢様だって随分皆さんから嫌われていますよね?」

ジロリとジョンが私を見る。

「うん、そうなのよね…でもおかしいのよ。私…以前は友達がいた気がするんだけど…」

自分でも不思議な感覚なのだが、何故か教室に足を踏み入れた途端、一瞬そんな感覚に襲われたのだ。

「ユリアお嬢様は…とうとう記憶喪失だけでなく、偽の記憶まで作り出してしまうようになったのですか?私が護衛についてからはずっと教室の外でユリアお嬢様の様子を伺っておりましたが、友人等1人もおりませんでしたよ?いつも1人で過ごすか、特定の女子生徒に難癖つけていましたね」

「え…?特定の女子生徒…?」

その時、私は今朝の出来事を思い出した。廊下で金色の髪の青年に言われた言葉が蘇ってくる。

< お前…昨日はテレシアに嫌がらせのつもりで学校を休んだのだろう?! >

そして青年にすがりつくような姿で私を見ていた銀色の髪の女生徒…。

「ね、ねぇ。もしかしてその特定の女子生徒って、銀色の珍しい髪色をしていなかった?」

「ええ、その通りですけど…何故その事を知っているのですか?」

シレッと言うジョンの頭を無性に殴りつけたくなるのを必死で押さえつつ私は言った。

「ねぇ、ちょっと酷いじゃない。私の記憶が無いのはジョン、貴方が一番良く知っているくせに…どうしてそんな大切な情報を事前に教えてくれないのよ。知っていたら…出会ったその場で謝っていたのに…これじゃ…友好な人間関を築けないじゃないの」

「別にそれほど重要な事では無いと判断したからです。私の役目はユリアお嬢様の護衛ですから」

…駄目だ、ジョンと話していると頭痛がしてくる。人間関係を大事だと思えない人にこれ以上説明するのは時間の無駄だ。

「ジョン…そろそろ教室に戻らない?何だか無性に疲れてしまったから」

ノロノロと立ち上がるとジョンに言った。

「ええ、そうですね。戻りましょうか?じきに授業が始まる時間になりますからね」

こうして私とジョンは2人で教室へと向かった。

…しかし、この時の私は気づいていなかったのだ。私とジョンがベンチに座って話している様子をじっとある人物が見つめていたと言うことを―。

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