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第11話 全く記憶にありません
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私は夢を見ていた―。
何故か分からないが、私にはこの世界が夢であるということを認識していた。夢の中の私は薄暗い霧が立ち込める森の中を立っていた。そして森の中へ一歩を踏み出し…。
そこで私の目が覚めた―。
****
「ユリアお嬢様…今朝は随分と眠そうですね?」
朝食を食べながら今朝4回目の欠伸をしていると、向かい側の席に座るジョンが声を掛けてきた。
「ええ…色々考えることがあって、なかなか寝付けなくてね」
そして、テーブルパンにマーマレードを塗っているとジョンが言う。
「考え事ですか?一体何を考えることがあるのです?ひょっとすると悩み事でもあるのですか?」
「え…?」
私はその言葉に驚き、ジョンを見た。彼は美味しそうにオムレツを食べている。
「ねぇ、ジョン」
「何ですか?」
「ひょっとして、私には悩み事がないと思っていない?」
テーブルパンを皿の上に乗せるとジョンに尋ねた。
「はい、勿論そう思っていますが…え?ひょっとするとユリアお嬢様は今悩みをお持ちなのですか?」
言い終わるとジョンはベーコンを口に入れた。
「あるに決まっているじゃないの。命は狙われているし、記憶は戻らない。家族からはどうやら嫌われているらしいし、何か夢を見た気がするのに全く覚えていない…」
するとボソリとジョンが言った。
「嫌われているのは家族だけでは無いのに…」
「え?何?何か言った?」
「いえ、何も言ってません」
「嘘、今『嫌われているのは家族だけでは無いのに』と言ったじゃないの」
「聞こえているなら問い直さないで下さいよ」
「あのねぇ…」
言いかけたたけれども、ジョンは視線も合わせずに食後の珈琲を飲んでいる。それを見ていると何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「別にいいわ。私が嫌われているかどうは登校すれば良いだけの話だものね」
わざとジョンに聞こえるように言うと、私はミルクを飲み干した。そう、今私が一番頭を悩ませているのは嫌われているかどうかよりも記憶を失っていると言うことなのだから―。
****
ガラガラガラ…
走り続ける馬車の中、私はジョンと向かい合わせに座っていた。私もジョンも高校の真っ白い制服を着ている。
「ジョン、その制服姿…中々似合っているわね」
するとジョンは謙遜することもなく言う。
「ええ、私は何を着ても似合いますから」
ジョンは馬車から窓の外を眺めつつ、返事をする。
「…」
確かにジョンは悔しい位にハンサムだ。何を着ても似合うのは当然だろう。だがそれをただ素直に認めるのも何だか癪に障る。視線を合わせずに会話をするその姿も気に入らなかった。
「…とても26歳には見えないわ」
すると、初めてジョンは私の方を向くと言った。
「ユリアお嬢様。いいですか?今みたいに私の年齢を絶対に学校内で暴露してはいけませんからね?私の実年齢を知っているのは公爵様とユリアお嬢様だけですから。分かりましたか?」
「あ、やっと私の顔を見て話をしてくれたわね」
「え?」
ジョンが怪訝そうな顔で私を見る。
「いい?ジョン。誰かと会話するときは…必ず相手の目を見て話すのよ?それが人間関係を築くのには重要不可欠な事なのだから」
「…分かりましたよ、ユリアお嬢様のおおせのとおりに致しましょう」
そしてジョンは再び窓の景色に視線を移すと言った。
「ユリアお嬢様、そろそろ学園が見えてきましたよ」
「え?本当?」
言われて視線を向けると、眼前にまるでお城のような建物が見えてきた。
「ユリアお嬢様。あの学園がお嬢様の通われているパブリックスクールです。貴族だけが通うことの出来る名門学園ですよ」
「あれが…私の通っている学園…」
石造りの立派な建物…。
けれど、やはり私には全く見覚えの無い光景だった。
「駄目だわ。何一つ思い出せない…これじゃクラスメイトの誰一人として顔を見てもわからないでしょうね…何だか嫌な予感がするわ」
「…」
溜息をつく私をジョンは意味深な目で見つめている。そして私の『嫌な予感』は見事に的中するのだった―。
何故か分からないが、私にはこの世界が夢であるということを認識していた。夢の中の私は薄暗い霧が立ち込める森の中を立っていた。そして森の中へ一歩を踏み出し…。
そこで私の目が覚めた―。
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朝食を食べながら今朝4回目の欠伸をしていると、向かい側の席に座るジョンが声を掛けてきた。
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そして、テーブルパンにマーマレードを塗っているとジョンが言う。
「考え事ですか?一体何を考えることがあるのです?ひょっとすると悩み事でもあるのですか?」
「え…?」
私はその言葉に驚き、ジョンを見た。彼は美味しそうにオムレツを食べている。
「ねぇ、ジョン」
「何ですか?」
「ひょっとして、私には悩み事がないと思っていない?」
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「はい、勿論そう思っていますが…え?ひょっとするとユリアお嬢様は今悩みをお持ちなのですか?」
言い終わるとジョンはベーコンを口に入れた。
「あるに決まっているじゃないの。命は狙われているし、記憶は戻らない。家族からはどうやら嫌われているらしいし、何か夢を見た気がするのに全く覚えていない…」
するとボソリとジョンが言った。
「嫌われているのは家族だけでは無いのに…」
「え?何?何か言った?」
「いえ、何も言ってません」
「嘘、今『嫌われているのは家族だけでは無いのに』と言ったじゃないの」
「聞こえているなら問い直さないで下さいよ」
「あのねぇ…」
言いかけたたけれども、ジョンは視線も合わせずに食後の珈琲を飲んでいる。それを見ていると何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「別にいいわ。私が嫌われているかどうは登校すれば良いだけの話だものね」
わざとジョンに聞こえるように言うと、私はミルクを飲み干した。そう、今私が一番頭を悩ませているのは嫌われているかどうかよりも記憶を失っていると言うことなのだから―。
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ガラガラガラ…
走り続ける馬車の中、私はジョンと向かい合わせに座っていた。私もジョンも高校の真っ白い制服を着ている。
「ジョン、その制服姿…中々似合っているわね」
するとジョンは謙遜することもなく言う。
「ええ、私は何を着ても似合いますから」
ジョンは馬車から窓の外を眺めつつ、返事をする。
「…」
確かにジョンは悔しい位にハンサムだ。何を着ても似合うのは当然だろう。だがそれをただ素直に認めるのも何だか癪に障る。視線を合わせずに会話をするその姿も気に入らなかった。
「…とても26歳には見えないわ」
すると、初めてジョンは私の方を向くと言った。
「ユリアお嬢様。いいですか?今みたいに私の年齢を絶対に学校内で暴露してはいけませんからね?私の実年齢を知っているのは公爵様とユリアお嬢様だけですから。分かりましたか?」
「あ、やっと私の顔を見て話をしてくれたわね」
「え?」
ジョンが怪訝そうな顔で私を見る。
「いい?ジョン。誰かと会話するときは…必ず相手の目を見て話すのよ?それが人間関係を築くのには重要不可欠な事なのだから」
「…分かりましたよ、ユリアお嬢様のおおせのとおりに致しましょう」
そしてジョンは再び窓の景色に視線を移すと言った。
「ユリアお嬢様、そろそろ学園が見えてきましたよ」
「え?本当?」
言われて視線を向けると、眼前にまるでお城のような建物が見えてきた。
「ユリアお嬢様。あの学園がお嬢様の通われているパブリックスクールです。貴族だけが通うことの出来る名門学園ですよ」
「あれが…私の通っている学園…」
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けれど、やはり私には全く見覚えの無い光景だった。
「駄目だわ。何一つ思い出せない…これじゃクラスメイトの誰一人として顔を見てもわからないでしょうね…何だか嫌な予感がするわ」
「…」
溜息をつく私をジョンは意味深な目で見つめている。そして私の『嫌な予感』は見事に的中するのだった―。
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