1 / 126
第1話 死にかけた私
しおりを挟む
気付けば水面が目の前に迫っていた。そして次の瞬間―。
ドボーンッ!!
激しい水音と共に私は冷たい水の中にいた。
<く、苦しい…っ!!>
長いドレスの裾が足に絡まって水の中で足をうまく動かせない。水を飲みこまない様に口を閉じるには限界がある。
<だ、誰か…っ!!>
その時、誰かの腕が伸びて来て私の右腕を掴んできた。そして勢いよく水の中から引き上げられ、自分の身体が地面に横たえられるのを感じた。太陽の眩しい光が目に刺さる。呼吸をするにも、ヒュ~ヒュ~と喉笛がなり、空気が少しも吸い込めない。まるで水の中で溺れているかの様だ…。
「ユリア様っ!しっかりして下さいっ!」
誰かの声が遠くで聞こえる。次の瞬間―。
ドンッ!!
胸に激しい衝撃が走った途端、激しく咳き込んでしまった。
「ゴホッ!ゴホッ!」
咳と同時に大量の水が口から流れ出て来る。途端に呼吸が楽になる。
良かった…私、これで助かるかもしれない…。
「ユリア様?!大丈夫ですか?!」
太陽を背に誰かが私に声を掛けて来る。
…誰…?それに…ユリア様って…一体…?
そして私は意識を失った―。
****
次に目を覚ました時はベッドの上だった。フカフカのマットレスに手触りの良い寝具…そして黄金色に輝く天井…。え?黄金色…?!
「!!」
慌ててガバッと起き上がった拍子にパサリと長いストロベリーブロンドの髪が顔にかかる。
「え…?これが私の髪…?」
何故だろう?非常に違和感を感じる。本当にこの髪は…私の髪なのだろか?でも髪だけでこんなに違和感を感じるなら…。
「顔…そうよ、顔を確認しなくちゃ…」
ベッドから降りて丁度足元に揃えてあった室内履きに履き替える。…シルバーの色に金糸で刺繍された薔薇模様の室内履き。どう見ても自分の趣味とは程遠い。
「鏡…鏡は無いかしら…」
部屋の中を見渡すと趣味の悪い装飾に頭が痛くなってくる。赤色の壁紙には薔薇模様が描かれている。床に敷き詰められた毛足の長いカーペットは趣味の悪い紫。部屋に置かれた衣装棚は黄金色に輝いている。大きな掃き出し窓の深紅のドレープカーテンも落ち着かない事この上ない。
「こんな部屋が…自分の部屋とは到底思えないわ…」
溜息をついて、右側を向いたとき、大きな姿見が壁に掛けてあることに気が付いた。
「あった!鏡だわっ!」
急いで駆け寄り、鏡を覗いて驚いた。紫色のやや釣り目の大きな瞳。かなりの美人ではあるが、性格はきつそうに見える。
「…誰よ、これ…」
サテン生地の身体のラインを強調するかのようなナイトドレスも落ち着かない。これではまるで…。
「相当な悪女に見えるじゃないの…」
ぽつりと呟いたとき、突然扉が開かれた。部屋の中に入って来たのは年若いメイドだった。そして私と視線が合う。
丁度良かった!この部屋に入って来たと言う事は、私の事について良く知っているはずだ。
「あの、少しお聞きしたい事が…」
声を掛けると、途端にメイドの顔が青ざめる。そして次の瞬間―。
「も、申し訳ございませんでしたっ!」
突然頭を下げて来たのだ。しかも何故か彼女はガタガタと小刻みに震えている。
「あ、あの…何故頭を…」
言いかけた時、メイドが大声で謝罪してきた。
「どうぞお許し下さいっ!まさかユリア様がお目覚めになっているとは知らず、ノックもせずに勝手にお部屋に入ってしまった無礼をお許し下さいっ!」
メイドは涙声で訴えて来る。
え?な、何故彼女はこんなにも私を見て怯えているのだろうか?いや、それよりもまずは彼女を落ち着かせなくては…これではまともに話も出来ない。
「大丈夫です。私はちっとも怒ってなどいませんから。どうか落ち着いて下さい」
「ユリア様がそのような言葉遣いをされるなんて…っ!」
ますます怯えさせてしまった。
「あーっ!とにかくもうっ!本当に怒っていないから落ち着きなさいよっ!」
少々乱暴な口調で大きな声をあげると、少しだけメイドが落ち着きを取り戻した。
「そ、それでこそ…いつものユリア様です…」
メイドはビクビクしながら私に言う。
「そう、それよ」
「それ…とは一体何の事でしょう?」
首を傾げるメイドに尋ねた。
「ユリアって…誰の事かしら?ついでに…ここは…何所なの?」
すると私の言葉にメイドは目を見開き、次の瞬間―。
突然メイドが身体を翻した。
「た、大変っ!メイド長~っ!!」
「あ!ちょっと待ってよっ!」
私の質問に答えず、メイドは部屋から走り去ってしまった―。
ドボーンッ!!
激しい水音と共に私は冷たい水の中にいた。
<く、苦しい…っ!!>
長いドレスの裾が足に絡まって水の中で足をうまく動かせない。水を飲みこまない様に口を閉じるには限界がある。
<だ、誰か…っ!!>
その時、誰かの腕が伸びて来て私の右腕を掴んできた。そして勢いよく水の中から引き上げられ、自分の身体が地面に横たえられるのを感じた。太陽の眩しい光が目に刺さる。呼吸をするにも、ヒュ~ヒュ~と喉笛がなり、空気が少しも吸い込めない。まるで水の中で溺れているかの様だ…。
「ユリア様っ!しっかりして下さいっ!」
誰かの声が遠くで聞こえる。次の瞬間―。
ドンッ!!
胸に激しい衝撃が走った途端、激しく咳き込んでしまった。
「ゴホッ!ゴホッ!」
咳と同時に大量の水が口から流れ出て来る。途端に呼吸が楽になる。
良かった…私、これで助かるかもしれない…。
「ユリア様?!大丈夫ですか?!」
太陽を背に誰かが私に声を掛けて来る。
…誰…?それに…ユリア様って…一体…?
そして私は意識を失った―。
****
次に目を覚ました時はベッドの上だった。フカフカのマットレスに手触りの良い寝具…そして黄金色に輝く天井…。え?黄金色…?!
「!!」
慌ててガバッと起き上がった拍子にパサリと長いストロベリーブロンドの髪が顔にかかる。
「え…?これが私の髪…?」
何故だろう?非常に違和感を感じる。本当にこの髪は…私の髪なのだろか?でも髪だけでこんなに違和感を感じるなら…。
「顔…そうよ、顔を確認しなくちゃ…」
ベッドから降りて丁度足元に揃えてあった室内履きに履き替える。…シルバーの色に金糸で刺繍された薔薇模様の室内履き。どう見ても自分の趣味とは程遠い。
「鏡…鏡は無いかしら…」
部屋の中を見渡すと趣味の悪い装飾に頭が痛くなってくる。赤色の壁紙には薔薇模様が描かれている。床に敷き詰められた毛足の長いカーペットは趣味の悪い紫。部屋に置かれた衣装棚は黄金色に輝いている。大きな掃き出し窓の深紅のドレープカーテンも落ち着かない事この上ない。
「こんな部屋が…自分の部屋とは到底思えないわ…」
溜息をついて、右側を向いたとき、大きな姿見が壁に掛けてあることに気が付いた。
「あった!鏡だわっ!」
急いで駆け寄り、鏡を覗いて驚いた。紫色のやや釣り目の大きな瞳。かなりの美人ではあるが、性格はきつそうに見える。
「…誰よ、これ…」
サテン生地の身体のラインを強調するかのようなナイトドレスも落ち着かない。これではまるで…。
「相当な悪女に見えるじゃないの…」
ぽつりと呟いたとき、突然扉が開かれた。部屋の中に入って来たのは年若いメイドだった。そして私と視線が合う。
丁度良かった!この部屋に入って来たと言う事は、私の事について良く知っているはずだ。
「あの、少しお聞きしたい事が…」
声を掛けると、途端にメイドの顔が青ざめる。そして次の瞬間―。
「も、申し訳ございませんでしたっ!」
突然頭を下げて来たのだ。しかも何故か彼女はガタガタと小刻みに震えている。
「あ、あの…何故頭を…」
言いかけた時、メイドが大声で謝罪してきた。
「どうぞお許し下さいっ!まさかユリア様がお目覚めになっているとは知らず、ノックもせずに勝手にお部屋に入ってしまった無礼をお許し下さいっ!」
メイドは涙声で訴えて来る。
え?な、何故彼女はこんなにも私を見て怯えているのだろうか?いや、それよりもまずは彼女を落ち着かせなくては…これではまともに話も出来ない。
「大丈夫です。私はちっとも怒ってなどいませんから。どうか落ち着いて下さい」
「ユリア様がそのような言葉遣いをされるなんて…っ!」
ますます怯えさせてしまった。
「あーっ!とにかくもうっ!本当に怒っていないから落ち着きなさいよっ!」
少々乱暴な口調で大きな声をあげると、少しだけメイドが落ち着きを取り戻した。
「そ、それでこそ…いつものユリア様です…」
メイドはビクビクしながら私に言う。
「そう、それよ」
「それ…とは一体何の事でしょう?」
首を傾げるメイドに尋ねた。
「ユリアって…誰の事かしら?ついでに…ここは…何所なの?」
すると私の言葉にメイドは目を見開き、次の瞬間―。
突然メイドが身体を翻した。
「た、大変っ!メイド長~っ!!」
「あ!ちょっと待ってよっ!」
私の質問に答えず、メイドは部屋から走り去ってしまった―。
77
お気に入りに追加
2,886
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる