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3章13 ビル 3
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私はビルを家の中に招いていた。
「あの、本当にいいんですか? 食事をごちそうになってしまっても……」
ビルが恐縮した様子で尋ねてくる。
「いいんですよ。だってビルさんには、本当に色々お世話になっていますから。どうぞ、温かいうちに召し上がってください」
私はビルの前にカボチャのスープにハムとチーズを乗せて竈で焼いたパン。それにキノコのソテーを置くと向かい側の椅子に座った。
「ありがとうございます。どれも本当に美味しそうだ。でも本当にいただいていいのですか?」
私の料理から目を離さないビル。
「お口に合うといいのですけど、では一緒に食べましょう?」
「はい」
ビルは早速私の作ったパンを口にすると、顔をほころばせた。
「美味しい! ハムとチーズが溶け合って、パンも香ばしくて最高に美味しいです」
「ありがとうございます。このキノコのソテーも食べてみて下さい。ビルさんが採取してくれたキノコですよ」
「ではいただきます……うん、秋の味覚だけあって、肉厚でハーブが効いていて美味しいです」
ビルは何を食べても美味しい美味しいと言ってくれる。まるでビリーみたいだ。それが何となくくすぐったく感じる。
「このカボチャスープも飲んでみてください。弟が好きなスープなんです」
「弟が好きな……」
じっと黄色のスープを見つめるビル。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。まるお日様のような色のスープだと思っただけです」
「お日様の色? 確かにいわれてみればそうですね」
そんな風に考えたことは一度も無かったけれど……言われて見ればそう思える。
ビルはカップに入れたカボチャスープを口にした。
「美味しいです。温かくて、優しい味で……何だかホッとします。こんな美味しいスープが飲めるなんて……幸せです」
ビルは口元に笑みを浮かべると、ポツリと言った。
「本当ですか? そんな風に言われると……照れますね」
何となく気恥ずかしい思いが込み上げてくる。
「リアさん……実は俺にも年の離れた姉がいたんです」
「そうなんですか?」
でも、姉がいたということは……今はいないのだろうか?
「姉は優しくて、とても美しい女性でした。気立ても良くて……俺はそんな姉が自慢であり、この世で一番大好きでした」
それは昔を懐かしむかのような口ぶりだった。
でも、ビルにそこまで思われているなんて……さぞかし良い姉だったのだろう。
「あの、それでお姉さんは……?」
「亡くなりました」
「!」
思わず、自分の肩が跳ねる。
「俺を育てる為に、頑張って働いて……多分それが原因だったのかもしれません。その時、思いました。どうして自分は無力な子供なのだろうって。あの時ほど、早く大人になりたいと思ったことはありませんでした。もっと役に立てていれば、姉は早死にしなくてすんだだろうにって」
当時のことを思い出したのか、ビルは遠い目つきになる。
「ビルさん……」
何と声をかければ良いのか、言葉が見つからない。
「今日は本当にありがとうございます。こんなに美味しい食事をいただけるとは思っていませんでした」
突然明るい声になるビル。
「い、いえ。これくらい、大したことではありませんから。こんな料理で良ければ、いつでも食べに来て下さい。……その、待ってますから」
気付けば勝手に口から言葉が出ていた。
「ありがとうございます」
ビルは頭を下げると、再び美味しそうに料理を食べ始めた。
その後――
ビルは湧き出る温泉からパイプを引いて。手押しポンプと繋いでくれた。
「これで、どんなに寒い冬でも台所ですぐ温かいお湯が使えるようなりますよ」と言って。
そこで私はお礼代わりに自分で焼いたスコーンをビルに手渡すと、彼は嬉しそうに受け取って夕焼けの中を帰って行った――
「あの、本当にいいんですか? 食事をごちそうになってしまっても……」
ビルが恐縮した様子で尋ねてくる。
「いいんですよ。だってビルさんには、本当に色々お世話になっていますから。どうぞ、温かいうちに召し上がってください」
私はビルの前にカボチャのスープにハムとチーズを乗せて竈で焼いたパン。それにキノコのソテーを置くと向かい側の椅子に座った。
「ありがとうございます。どれも本当に美味しそうだ。でも本当にいただいていいのですか?」
私の料理から目を離さないビル。
「お口に合うといいのですけど、では一緒に食べましょう?」
「はい」
ビルは早速私の作ったパンを口にすると、顔をほころばせた。
「美味しい! ハムとチーズが溶け合って、パンも香ばしくて最高に美味しいです」
「ありがとうございます。このキノコのソテーも食べてみて下さい。ビルさんが採取してくれたキノコですよ」
「ではいただきます……うん、秋の味覚だけあって、肉厚でハーブが効いていて美味しいです」
ビルは何を食べても美味しい美味しいと言ってくれる。まるでビリーみたいだ。それが何となくくすぐったく感じる。
「このカボチャスープも飲んでみてください。弟が好きなスープなんです」
「弟が好きな……」
じっと黄色のスープを見つめるビル。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。まるお日様のような色のスープだと思っただけです」
「お日様の色? 確かにいわれてみればそうですね」
そんな風に考えたことは一度も無かったけれど……言われて見ればそう思える。
ビルはカップに入れたカボチャスープを口にした。
「美味しいです。温かくて、優しい味で……何だかホッとします。こんな美味しいスープが飲めるなんて……幸せです」
ビルは口元に笑みを浮かべると、ポツリと言った。
「本当ですか? そんな風に言われると……照れますね」
何となく気恥ずかしい思いが込み上げてくる。
「リアさん……実は俺にも年の離れた姉がいたんです」
「そうなんですか?」
でも、姉がいたということは……今はいないのだろうか?
「姉は優しくて、とても美しい女性でした。気立ても良くて……俺はそんな姉が自慢であり、この世で一番大好きでした」
それは昔を懐かしむかのような口ぶりだった。
でも、ビルにそこまで思われているなんて……さぞかし良い姉だったのだろう。
「あの、それでお姉さんは……?」
「亡くなりました」
「!」
思わず、自分の肩が跳ねる。
「俺を育てる為に、頑張って働いて……多分それが原因だったのかもしれません。その時、思いました。どうして自分は無力な子供なのだろうって。あの時ほど、早く大人になりたいと思ったことはありませんでした。もっと役に立てていれば、姉は早死にしなくてすんだだろうにって」
当時のことを思い出したのか、ビルは遠い目つきになる。
「ビルさん……」
何と声をかければ良いのか、言葉が見つからない。
「今日は本当にありがとうございます。こんなに美味しい食事をいただけるとは思っていませんでした」
突然明るい声になるビル。
「い、いえ。これくらい、大したことではありませんから。こんな料理で良ければ、いつでも食べに来て下さい。……その、待ってますから」
気付けば勝手に口から言葉が出ていた。
「ありがとうございます」
ビルは頭を下げると、再び美味しそうに料理を食べ始めた。
その後――
ビルは湧き出る温泉からパイプを引いて。手押しポンプと繋いでくれた。
「これで、どんなに寒い冬でも台所ですぐ温かいお湯が使えるようなりますよ」と言って。
そこで私はお礼代わりに自分で焼いたスコーンをビルに手渡すと、彼は嬉しそうに受け取って夕焼けの中を帰って行った――
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