時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

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3章11 他では手に入らない物

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「彼は何者だったの……?」

ビルは自分のことを魔法使いと言った。確かに、極まれに強い魔力を持って魔法を使うことが出来る人々がいる。
彼らはとても貴重な人材で各国に配置された『魔塔』と呼ばれる場所で、好待遇な環境で魔法の研究を行っている。
貴重な通信具なども、魔法使いが作り出した物だ。

「王都でもない、こんな辺境の地に魔法使いがいるのかしら……?」

夕焼けの中、遠ざかっていくビルの後ろ姿をぼんやり見つめていた時。

「お姉ちゃーん! 部屋の掃除終わったよー!」

大きな声が聞こえて振り返ると、2階の窓から顔を覗かせて大きく手を振るビリーの姿が目に入った。

「分かったわー! こっちに来てくれるー!」

すると、すぐに窓が閉じられた。

「フフ……きっと、この畑を見たら驚くに違いないわ」

農耕器具を片付けているとビリーが駆け足でやって来た。

「お姉ちゃん、どうしたの……? あ! 畑が耕されている! すごい……一体どうやったの?」

「この畑はね、親切な村の人が耕してくれたのよ」

「そうなの? でもどうやって?」

「さぁ? 私にもそれが良く分からないの。種を取りに倉庫へ行っている間に耕し終
わっていたから」

「種を取りにって……すぐだよね? そんなに早く耕すなんて、信じられないよ。まるで魔法みたいだね」

ビリーは目を見開いて、畑を見渡している。

「そうね、魔法みたいよね。それじゃ器具を片付けるのを手伝ってくれる? 夕食の準備をするから」

「今夜は何にするの?」

「香辛料で焼いた鶏肉を買ったでしょう? あれをフライパンで温め直して、カボチャのスープとパンでいただきましょう?」

「美味しそうだね。僕も手伝うよ」

「ありがとう。夕食の後は一緒に出掛けるわよ」

夕食が終わったら、温泉に行くことにしよう。

「え? 何処へ?」

「温泉に行くのよ。この村にはね、温泉があるの」

「温泉!? すごい! そんなものがあるの?」

「ええ。2人で一緒に入りに行きましょう?」

「うん、楽しみだな~」

夕日の下で笑うビリーの顔は……どことなく、あの青年の面影を宿しているように見えた――


****


――19時

 夕食を終えた私とビリーは温泉に行く準備をすると、荷馬車に乗った。

月明かりに照らされた夜道、荷馬車を走らせていると隣に座るビリーが話しかけてくる。

「お姉ちゃん、空を見て。大きな月だよ」

今夜は満月だった。満天の星空に浮かんで見える大きな月はとても美しかった。

「本当、とても大きいわね~。あ、そう言えばこの村は真冬になるとオーロラが見えるのよ? それはとても綺麗なんだから」

「オーロラって何?」

ビリーが首を傾げる。

「緑や赤といった、綺麗な光のカーテンが空から降りて見えるのよ。色や形が色々変化していくの。見ていても少しも飽きないわ」

「そうなんだ~すごいね! この村って、素敵な物が沢山あるんだね」

「素敵な物……」

確かにビリーの言う通りかもしれない。
王都から最も離れた辺境の地、『ルーズ』。近隣に村どころか町も無いし、無医村。

だけど他では手に入らない素晴らしい物が、この村にはある。

「でもお姉ちゃんて、本当に物知りなんだね。まるで前もこの村に来たことがあるみたいだよ」

「そ、そうかしら? 本で読んだのよ。だから知ってるだけよ」

ビリーの言葉にドキリとする。

「そうなんだ。それじゃ僕も頑張って沢山本を読むよ」

「それがいいわ。ビリー、私達。この村で幸せに暮らしましょうね?」

「うん、お姉ちゃん」

元気よく頷くビリーの頭を、笑顔で撫でた。

―近い将来、ビリーと引き離されてしまうことを知る由もなく――
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