時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
58 / 73

3章6 挨拶

しおりを挟む
――翌朝

「う~ん……」

眩しい太陽が部屋に差し込み、寝袋の中で目が覚めた。

「もう朝なのね……」

ゴシゴシと目をこすり、隣を見ると寝袋の中でビリーは気持ち良さそうに眠っている。
昨日は忙しくて、台所と今眠っている部屋しか掃除できなかったのだ。

「2人分の寝袋を用意しておいて良かったわ」

これも前回の経験から学んだことだ。
あの時は寝具を用意していなかったので、皆で床の上に寝たのだ。ただ私だけは唯一持ってきていた毛布を使わせてもらったけれども……。
3人には悪いことをしてしまった。婆やも爺やも高齢だったし、チェルシーだって若い娘だったのに。

「さて、まずは……朝食の用意をしようかしら」

私は早速着替えが置いてある部屋へ足を向けた。


エプロンをしめ、髪を後ろで一つに結わえると袖まくりをする。

「さて、それじゃ食事の用意をしようかしら」

けれど引っ越してきたばかりなので、大した食事は用意出来ない。
そこで昨日同様に野菜スープとオートミールのお粥を作ることにした――


鍋がグツグツ煮えてきた頃、目が覚めたのかビリーが台所に現れた。

「おはよう、お姉ちゃん」

「あら、おはよう。ビリー、長旅で疲れていない? もっと眠っていてもいいのよ?」

するとビリーは首を振る。

「ううん。僕沢山寝たから大丈夫だよ。それにお姉ちゃんの手伝いをしたいし」

「そう? ありがとう。それじゃ、スープ皿4枚とスプーンを出してくれる?」

「うん!」

元気よく返事をするビリーの頭をそっと撫でてあげた――


****


 食事を終え、2人で後片付けをしているときのことだった。

「すみませーん!」

家の外から大きな声が聞こえてきた。

「あら? 誰かしら?」

「お客さんかな?」

「もしかして、私たちが引っ越してきた話を聞いたご近所の人が挨拶に来たのかもしれないわね」

前回の時も、引っ越し早々近所の人たちが挨拶にやってきた。あの時の私は「田舎者の平民とは付き合いたくない」と言って、婆や達にだけ相手をさせてきた。
それでも、村人たちは私に笑顔で接しようとしてくれていたのだっけ……。

「ビリー、ちょっと外へ様子を見に行ってくるわね」

「僕も行く!」

するとビリーがスカートを掴んできた。

「ビリー?」

「僕も村の人達に挨拶するよ」

真剣な顔で私を見上げてくる。

「そうね。私達、これから2人でずっとここで暮らしていくのだから一緒に挨拶したほうがいいわね」

「うん」

そこで私はビリーを連れて、扉を開けに向かった。


――ガチャッ

扉を開けた瞬間、思わず「あっ」と言いそうになってしまった。
目の前に立っていたのは中年の夫婦。
この夫婦は村の生活に慣れない私たちに色々親切にしてくれた。自分の家で収穫した野菜なども良く持ってきてくれていたのだ。

けれど……国を飢饉が襲った時に、夫婦は飢えで亡くなってしまった……。


「初めまして。私たちはここから5分程の場所に家を構えているカールです。そしてこっちが妻のベラです」

「ベラです、はじめまして」

懐かしさを押し殺し、私も挨拶をした。

「私は、オフィーリアと言います。どうぞ、リアと呼んで下さい。そして、この子はビリー。私の弟です」

「初めまして。ビリーです」

「まぁ。まだ小さいのに、ちゃんと挨拶できるなんて賢い子ね?」

ベラさんはビリーを見て笑みを浮かべる。……そうだった。確かこの夫婦には子供に恵まれなかったのだった。

「実は今朝がたこちらの方角から煙が上がっているのを見て、2人で様子を見に来たんですよ。そうしたら厩舎に馬もいたので、新しい住人が来たのだと思って挨拶に来たんです」

「この辺りは集落から離れているので、少し寂しく感じていました。これからご近所同士、よろしければ仲良くお付き合いしていただけませんか?」

カールさんが照れ臭そうに提案してきた。
勿論私の答えは……。

「はい、こちらこそよろしくお願いします。仲良くしていただけると嬉しいです」

そして2人に笑顔を向けた――
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうして許されると思ったの?

わらびもち
恋愛
二度も妻に逃げられた男との結婚が決まったシスティーナ。 いざ嫁いでみれば……態度が大きい侍女、愛人狙いの幼馴染、と面倒事ばかり。 でも不思議。あの人達はどうして身分が上の者に盾突いて許されると思ったのかしら?

お姉様に恋した、私の婚約者。5日間部屋に篭っていたら500年が経過していました。

ごろごろみかん。
恋愛
「……すまない。彼女が、私の【運命】なんだ」 ──フェリシアの婚約者の【運命】は、彼女ではなかった。 「あなたも知っている通り、彼女は病弱だ。彼女に王妃は務まらない。だから、フェリシア。あなたが、彼女を支えてあげて欲しいんだ。あなたは王妃として、あなたの姉……第二妃となる彼女を、助けてあげて欲しい」 婚約者にそう言われたフェリシアは── (え、絶対嫌なんですけど……?) その瞬間、前世の記憶を思い出した。 彼女は五日間、部屋に籠った。 そして、出した答えは、【婚約解消】。 やってられるか!と勘当覚悟で父に相談しに部屋を出た彼女は、愕然とする。 なぜなら、前世の記憶を取り戻した影響で魔力が暴走し、部屋の外では【五日間】ではなく【五百年】の時が経過していたからである。 フェリシアの第二の人生が始まる。 ☆新連載始めました!今作はできる限り感想返信頑張りますので、良ければください(私のモチベが上がります)よろしくお願いします!

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

「幼すぎる」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました

ゆる
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ!」 そう言い放たれ、婚約者ライオネルに捨てられた公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 幼く見える容姿のせいで周囲からも軽んじられ、彼女は静かに涙を飲み込んだ。 そして迎えた婚約破棄の夜――嫉妬に狂った伯爵令嬢アメリアに階段から突き落とされ、意識不明の重体に……。 しかし一年後、目を覚ましたシルフィーネの姿はまるで別人だった。 長い眠りの間に成長し、大人びた美貌を手に入れた彼女に、かつての婚約者ライオネルは態度を豹変させて「やり直したい」とすり寄ってくるが―― 「アメリア様とお幸せに」 冷たく言い放ち、シルフィーネはすべてを拒絶。 そんな彼女に興味を持ったのは、隣国ノルディアの王太子・エドワルドだった。 「君こそ、私が求めていた理想の妃だ」 そう告げる王太子に溺愛され、彼女は次第に新たな人生を歩み始める。 一方、シルフィーネの婚約破棄を画策した者たちは次々と転落の道を辿る―― 婚約破棄を後悔して地位を失うライオネル、罪を犯して終身刑に処されるアメリア、裏で糸を引いていた貴族派閥の崩壊……。 「ざまぁみなさい。私はもう昔の私ではありません」 これは、婚約破棄の屈辱を乗り越え、“政略結婚”から始まるはずだった王太子との関係が、いつしか真実の愛へと変わっていく物語――

偽りの愛に終止符を

甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

完結 女性に興味が無い侯爵様 私は自由に生きます。

ヴァンドール
恋愛
私は絵を描いて暮らせるならそれだけで幸せ! そんな私に好都合な相手が。 女性に興味が無く仕事一筋で冷徹と噂の侯爵様との縁談が。 ただ面倒くさい従妹という令嬢がもれなく 付いてきました。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

処理中です...