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3章2 村長 1
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私の挨拶に共感したのか、馬車を止めると男性達が笑顔で近付いてきた。
「ようこそ、『ルーズ』へ」
「新しい村人は歓迎するよ」
「住む所は決まっているのかい?」
「いえ。住む場所はまだ決まっていません。それで空き家があれば、そこで暮らしたいと思っています」
すると麦わら帽子をかぶった青年が提案してきた。
「空き家を探しているのかい? だったら、この村の村長を訪ねてみるといいよ」
「村長さんですか? 何処に住んでいるのか教えていただけますか?」
何処に住んでいるのか分かっていたが、私はあえて尋ねた。
「村長なら、ほら。あの丘の上に煙が出ている家があるだろう? あれが村長の家だよ。多分いるはずだから、行ってみるといいよ」
青年が指さした先には小高い丘があり、家々が建っていた。そしてひときわ大きな家からは煙が噴き出している。
「あの家ですね? では早速訪ねてみることにします。教えていただき、どうもありがとうございます」
丁寧に挨拶し、再び荷馬車を進ませると男性達は手を振って見送ってくれた。
「あの人達、皆親切そうだったね」
男性達が小さくなっていくと、ビリーが尋ねてきた。
「そうね。きっとここの村人たちは皆良い人達ばかりのはずよ」
「うん、僕もそう思う」
その後も村長の家に着くまでの間、数人の村人たちとすれ違ったが、誰もが余所者の私達に不審な目を向けることなく、笑顔で挨拶してくれたのだった。
****
「ここが村長さんの家ね」
丘を登り切った先に、赤レンガ造りの大きな家が建ってる。2階に取り付けた煙突からは煙が出ており、何か料理でもしているのか良い匂いが周囲に漂っていた。
家の前には畑、その傍には柵で覆われた鶏の飼育場があり、10羽ほどが放し飼いされている。
「ね、お姉ちゃん。村長さんは鶏を飼育しているんだね」
「そうね。私達も住む場所が決まったら鶏を飼いましょうか?」
これからこの村で生活していく為には、他に家畜を飼育する必要もあるだろう。
「うん! 僕、そうしたら一生懸命世話をするよ!」
そこまで話をしていたとき。
「おや? どちら様ですか?」
白い髭を蓄えたおじいさんが家の裏手から姿を現した。
村長さん!
その姿を見た時、不覚にも胸が熱くなって涙が出そうになってしまった。
この村長さんは本当に立派な人だった。
国全体が飢饉に襲われ、王命を受けた兵士たちが食料を奪いに来た時のこと。
『どうか村人たちの為に食料を奪わないで下さい』と武器を持った兵士たちの前で必死に懇願してくれたのだ。
しかし、その事が兵士たちの逆鱗に触れて村長さんは私たちの目の前で切り殺されてしまった。
本当に……正義感のある人物だった。
「あの……あなた方は……?」
村長さんが怪訝そうな目を向ける。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
ビリーに声をかけられ、我に返った。
「初めまして、私はオフィーリアと申します。そしてこの子は私の弟のビリーです。いきなりで申し訳ございませんが、この村に私達を住まわせていただけないでしょうか?」
「え? この村で……ですか?」
村長さんが驚いた様子で目を見開いた――
「ようこそ、『ルーズ』へ」
「新しい村人は歓迎するよ」
「住む所は決まっているのかい?」
「いえ。住む場所はまだ決まっていません。それで空き家があれば、そこで暮らしたいと思っています」
すると麦わら帽子をかぶった青年が提案してきた。
「空き家を探しているのかい? だったら、この村の村長を訪ねてみるといいよ」
「村長さんですか? 何処に住んでいるのか教えていただけますか?」
何処に住んでいるのか分かっていたが、私はあえて尋ねた。
「村長なら、ほら。あの丘の上に煙が出ている家があるだろう? あれが村長の家だよ。多分いるはずだから、行ってみるといいよ」
青年が指さした先には小高い丘があり、家々が建っていた。そしてひときわ大きな家からは煙が噴き出している。
「あの家ですね? では早速訪ねてみることにします。教えていただき、どうもありがとうございます」
丁寧に挨拶し、再び荷馬車を進ませると男性達は手を振って見送ってくれた。
「あの人達、皆親切そうだったね」
男性達が小さくなっていくと、ビリーが尋ねてきた。
「そうね。きっとここの村人たちは皆良い人達ばかりのはずよ」
「うん、僕もそう思う」
その後も村長の家に着くまでの間、数人の村人たちとすれ違ったが、誰もが余所者の私達に不審な目を向けることなく、笑顔で挨拶してくれたのだった。
****
「ここが村長さんの家ね」
丘を登り切った先に、赤レンガ造りの大きな家が建ってる。2階に取り付けた煙突からは煙が出ており、何か料理でもしているのか良い匂いが周囲に漂っていた。
家の前には畑、その傍には柵で覆われた鶏の飼育場があり、10羽ほどが放し飼いされている。
「ね、お姉ちゃん。村長さんは鶏を飼育しているんだね」
「そうね。私達も住む場所が決まったら鶏を飼いましょうか?」
これからこの村で生活していく為には、他に家畜を飼育する必要もあるだろう。
「うん! 僕、そうしたら一生懸命世話をするよ!」
そこまで話をしていたとき。
「おや? どちら様ですか?」
白い髭を蓄えたおじいさんが家の裏手から姿を現した。
村長さん!
その姿を見た時、不覚にも胸が熱くなって涙が出そうになってしまった。
この村長さんは本当に立派な人だった。
国全体が飢饉に襲われ、王命を受けた兵士たちが食料を奪いに来た時のこと。
『どうか村人たちの為に食料を奪わないで下さい』と武器を持った兵士たちの前で必死に懇願してくれたのだ。
しかし、その事が兵士たちの逆鱗に触れて村長さんは私たちの目の前で切り殺されてしまった。
本当に……正義感のある人物だった。
「あの……あなた方は……?」
村長さんが怪訝そうな目を向ける。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
ビリーに声をかけられ、我に返った。
「初めまして、私はオフィーリアと申します。そしてこの子は私の弟のビリーです。いきなりで申し訳ございませんが、この村に私達を住まわせていただけないでしょうか?」
「え? この村で……ですか?」
村長さんが驚いた様子で目を見開いた――
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