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2章19 苦い記憶 1
しおりを挟む 何処までも広がる草原を荷馬車は『ルーズ』に向けて進んでいた。
「何にもないね、お姉ちゃん」
荷台からビリーが話しかけてきた。
「ええ、そうね。次の村まではまだまだ遠いわ。馬車で丸2日はかかるもの」
「え!? そんなに遠いの!?」
ビリーは余程驚いたのか、目を見張る。
「ええ、随分驚いたみたいね?」
「うん。まさか2日もかかるなんて思いもしなかったよ。何て言う名前の村なの?」
「村の名前は『ファーム』よ。農業がとても盛んな村だから、そこでは野菜の苗や種を買おうと思ってるの」
「でも2日もかかるなら、野宿をすることになるのかなぁ?」
「いいえ、野宿はしないわ」
首を振って否定する。
「え? でも村まで2日かかるんでしょう? どうするの?」
「その村に行くまでの間に、宿場村が何か所かあるの。そこで宿泊してから出発するわ。私たちの愛馬も休ませてあげなくちゃね」
私は荷馬車を引くロードを見つめた――
****
――今から60年前。
『クレイ』の町から次の村『ファーム』までの道のりは馬車で丸々2日かかることを私たちは知らなかった。
王都を追放され、父からも縁を切られた私はすっかり人間不信に陥っていたので婆や達にも町の人々に関わらないように命じたからだ。
『クレイ』の町を出てからは、休むことなく荷馬車を走らせて『ファーム』へ向かった。途中で何か所か宿場村を通り抜けたものの、あまりにも粗末な宿しか無かったので私は宿泊することを拒否した。
宿場村で1泊するくらいなら、一刻も早く『ファーム』に着きたかったからだ。
けれどそのせいで馬を疲れさせてしまい、夜更けの草原でとうとう馬は一歩も動くことが出来なくなってしまったのだ。
大草原の中、一歩も動くことが出来ずに夜を過ごさなければならなくなったあの時の恐怖は今も忘れられない。
いつどこで野生の狼や、もしくは盗賊でも現れたらどうしようと私は怖くて怖くてたまらなかった。
そんな私を慰め、力づけてくれたのが婆や、爺や、それにチェルシーだった。
爺やも婆やも高齢だし、チェルシーだって年若い娘。
どんなにか恐怖を感じた事だろう。
3人は私に宿場村で一泊するべきだと何度も提案してきたけれど、私は拒否した。
その事が原因で真夜中に食事や水も無い状況で一晩荷馬車の上で過ごさなければならないことを余儀なくされた。
私の我儘のせいで……恨まれてもいいはずなのに、誰も私を責めなかった。
それどころか3人は私だけを休ませて、寝ずの番をしてくれたのだ。夜明けになり、馬が動けるようになるまで。
本当にあの頃の私は傲慢で最低な人間だった――
****
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ビリーの呼びかけで、私は現実に引き戻された。
「あ……ごめんなさい。ちょっと考え事してただけよ。とにかく、『ルーズ』までの道のりは長いわ。特に急ぐ旅でもないのだから、のんびりゆっくり行きましょう。まだお金はあるし、秋になるまでに『ルーズ』に辿り着けばいいのだから」
私は笑顔でビリーの頭をそっと撫でた――
「何にもないね、お姉ちゃん」
荷台からビリーが話しかけてきた。
「ええ、そうね。次の村まではまだまだ遠いわ。馬車で丸2日はかかるもの」
「え!? そんなに遠いの!?」
ビリーは余程驚いたのか、目を見張る。
「ええ、随分驚いたみたいね?」
「うん。まさか2日もかかるなんて思いもしなかったよ。何て言う名前の村なの?」
「村の名前は『ファーム』よ。農業がとても盛んな村だから、そこでは野菜の苗や種を買おうと思ってるの」
「でも2日もかかるなら、野宿をすることになるのかなぁ?」
「いいえ、野宿はしないわ」
首を振って否定する。
「え? でも村まで2日かかるんでしょう? どうするの?」
「その村に行くまでの間に、宿場村が何か所かあるの。そこで宿泊してから出発するわ。私たちの愛馬も休ませてあげなくちゃね」
私は荷馬車を引くロードを見つめた――
****
――今から60年前。
『クレイ』の町から次の村『ファーム』までの道のりは馬車で丸々2日かかることを私たちは知らなかった。
王都を追放され、父からも縁を切られた私はすっかり人間不信に陥っていたので婆や達にも町の人々に関わらないように命じたからだ。
『クレイ』の町を出てからは、休むことなく荷馬車を走らせて『ファーム』へ向かった。途中で何か所か宿場村を通り抜けたものの、あまりにも粗末な宿しか無かったので私は宿泊することを拒否した。
宿場村で1泊するくらいなら、一刻も早く『ファーム』に着きたかったからだ。
けれどそのせいで馬を疲れさせてしまい、夜更けの草原でとうとう馬は一歩も動くことが出来なくなってしまったのだ。
大草原の中、一歩も動くことが出来ずに夜を過ごさなければならなくなったあの時の恐怖は今も忘れられない。
いつどこで野生の狼や、もしくは盗賊でも現れたらどうしようと私は怖くて怖くてたまらなかった。
そんな私を慰め、力づけてくれたのが婆や、爺や、それにチェルシーだった。
爺やも婆やも高齢だし、チェルシーだって年若い娘。
どんなにか恐怖を感じた事だろう。
3人は私に宿場村で一泊するべきだと何度も提案してきたけれど、私は拒否した。
その事が原因で真夜中に食事や水も無い状況で一晩荷馬車の上で過ごさなければならないことを余儀なくされた。
私の我儘のせいで……恨まれてもいいはずなのに、誰も私を責めなかった。
それどころか3人は私だけを休ませて、寝ずの番をしてくれたのだ。夜明けになり、馬が動けるようになるまで。
本当にあの頃の私は傲慢で最低な人間だった――
****
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ビリーの呼びかけで、私は現実に引き戻された。
「あ……ごめんなさい。ちょっと考え事してただけよ。とにかく、『ルーズ』までの道のりは長いわ。特に急ぐ旅でもないのだから、のんびりゆっくり行きましょう。まだお金はあるし、秋になるまでに『ルーズ』に辿り着けばいいのだから」
私は笑顔でビリーの頭をそっと撫でた――
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