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2章9 今後の計画
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「ねぇ、ビリー。今のお婆さん……」
私の手を引いて前方を歩くビリーに声をかけると、足を止めて振り返った。
「変なお婆さんだったね。僕、びっくりしちゃったよ。それに何だか怖かったし。だから早くあそこから離れたかったんだ」
「え? ええ、まぁ確かにそうね……でも何だかおかしな話をしていなかった。数奇な運命を辿っているとか、巡りあわせとか……」
「う~ん……ごめんなさい。僕、難しい事良く分からなくて」
ビリーが困った表情を見せる。
確かにまだ子供のビリーには老婆の言い回しは難しかったかもしれない。それにあの男性の話では、老婆は呆けてしまっていると話していたし……。
「そうね、ごめんなさい。それじゃ本屋に行きましょう」
「うん!」
笑顔で返事をするビリー。
何だか急に子供っぽくなったように見えるけれど……多分気のせいだろう。
手を繋いでビリーと会話をしながら、私は先ほどの老婆のことを考えていた。
先程の老婆は本当に呆けていたのだろうか?
『ルーズ』には若者より、年よりの方が多かった。その中には当然呆けてしまっている老人たちもいた。
けれど、あの老婆……少なくとも私たちに話をしていた時、とても呆けているとは思えなかった。何故なら目に強い力を宿しているのを感じたから。
あの眼差しは、とても普通の老婆には出来ないと思う。
本屋に着く間での間、私はずっと老婆のことを考え続けた——
****
買い物を終えた私たちはホテルへ向かって歩いていた。
「お姉ちゃん。バッグと本を買ってくれて、どうもありがとう」
ビリーの肩にはメッセンジャーバッグが下げられ、中には5冊の本が入っている。簡単な内容で、挿絵もついているから難しい単語が出てきても多分理解は出来るだろう。
そして私もまたリュックを背負い、中に買った本を入れている。ずっしりと重みがあるので一旦ホテルに戻り、その後また買い物に行く予定だ。
「ふふ、どういたしまして。また読み終えたら、別の本を買ってあげる。沢山読んで勉強するのよ?」
「うん、約束する。お姉ちゃんはどんな本を買ったの?」
「私はねぇ、農業に関する本を買ったのよ」
他にも料理やお菓子作りの本を買ったが、これは内緒。ビリーが喜びそうな料理を作って驚かせたいから。
「農業……? 農業をするの?」
首を傾げるビリー。
「そうよ。『ルーズ』に行ったら農業を始めるわ。家の前に畑を作って耕すのよ。色々な種類の野菜を育てる予定よ。それに小麦も育てましょうね。他にも考えていることがあるけど……それは生活が落ち着いてから、後々だけどね」
畑が完成したら、子供達に勉強を教えてあげようと思っている。文字が読めない大人相手に青空教室を開催するのも良いかもしれない。
「そうなんだ。『ルーズ』の暮らし、今から楽しみだな~」
「ええ。私も楽しみよ」
あの村に住む人々は皆、気さくで良い人達だった。
「ビリーにも畑仕事を手伝って貰うけど、勉強もちゃんとするのよ? 子供の一番の仕事は勉強なんだから」
「うん、僕頑張るよ」
ビリーは笑顔で返事をした。その顔は……少しだけ大人びて見えた——
私の手を引いて前方を歩くビリーに声をかけると、足を止めて振り返った。
「変なお婆さんだったね。僕、びっくりしちゃったよ。それに何だか怖かったし。だから早くあそこから離れたかったんだ」
「え? ええ、まぁ確かにそうね……でも何だかおかしな話をしていなかった。数奇な運命を辿っているとか、巡りあわせとか……」
「う~ん……ごめんなさい。僕、難しい事良く分からなくて」
ビリーが困った表情を見せる。
確かにまだ子供のビリーには老婆の言い回しは難しかったかもしれない。それにあの男性の話では、老婆は呆けてしまっていると話していたし……。
「そうね、ごめんなさい。それじゃ本屋に行きましょう」
「うん!」
笑顔で返事をするビリー。
何だか急に子供っぽくなったように見えるけれど……多分気のせいだろう。
手を繋いでビリーと会話をしながら、私は先ほどの老婆のことを考えていた。
先程の老婆は本当に呆けていたのだろうか?
『ルーズ』には若者より、年よりの方が多かった。その中には当然呆けてしまっている老人たちもいた。
けれど、あの老婆……少なくとも私たちに話をしていた時、とても呆けているとは思えなかった。何故なら目に強い力を宿しているのを感じたから。
あの眼差しは、とても普通の老婆には出来ないと思う。
本屋に着く間での間、私はずっと老婆のことを考え続けた——
****
買い物を終えた私たちはホテルへ向かって歩いていた。
「お姉ちゃん。バッグと本を買ってくれて、どうもありがとう」
ビリーの肩にはメッセンジャーバッグが下げられ、中には5冊の本が入っている。簡単な内容で、挿絵もついているから難しい単語が出てきても多分理解は出来るだろう。
そして私もまたリュックを背負い、中に買った本を入れている。ずっしりと重みがあるので一旦ホテルに戻り、その後また買い物に行く予定だ。
「ふふ、どういたしまして。また読み終えたら、別の本を買ってあげる。沢山読んで勉強するのよ?」
「うん、約束する。お姉ちゃんはどんな本を買ったの?」
「私はねぇ、農業に関する本を買ったのよ」
他にも料理やお菓子作りの本を買ったが、これは内緒。ビリーが喜びそうな料理を作って驚かせたいから。
「農業……? 農業をするの?」
首を傾げるビリー。
「そうよ。『ルーズ』に行ったら農業を始めるわ。家の前に畑を作って耕すのよ。色々な種類の野菜を育てる予定よ。それに小麦も育てましょうね。他にも考えていることがあるけど……それは生活が落ち着いてから、後々だけどね」
畑が完成したら、子供達に勉強を教えてあげようと思っている。文字が読めない大人相手に青空教室を開催するのも良いかもしれない。
「そうなんだ。『ルーズ』の暮らし、今から楽しみだな~」
「ええ。私も楽しみよ」
あの村に住む人々は皆、気さくで良い人達だった。
「ビリーにも畑仕事を手伝って貰うけど、勉強もちゃんとするのよ? 子供の一番の仕事は勉強なんだから」
「うん、僕頑張るよ」
ビリーは笑顔で返事をした。その顔は……少しだけ大人びて見えた——
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