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2章8 奇妙な老婆
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振り向くと、小さな屋台テントでテーブルの上に大きな水晶玉を乗せた老婆が私たちに手招きしている。
周囲を見渡してみても、近くに人はいない。私たちだけだ。
「もしかして私たちを呼んでいるのですか?」
どう見ても占い師にしか見えない老婆に尋ねた。
「もちろんじゃよ。ちょっと占っていかないかい?」
何だ……勧誘か。けれど、私は60年前の時を戻ってきている。占いなどしてもらわなくても、この先の未来が分かっている。それに占いで余計な出費はしたくないのが本音だ。
「いいえ、結構です。これから弟と色々買い物があって忙しいので。行きましょう、ビリー」
「うん、お姉ちゃん」
頷くビリーの手を引いて、その場を去ろうとした時。
「何故、弟というんだい? その子とは血が繋がっていないだろう?」
「!」
老婆の言葉に思わず足が止まる。
手を繋いでいるビリーの手が震えていた。
「一体どういうことですか?」
振り向くと、私は老婆に尋ねた。
「さぁてね? 気になるなら話を聞くかい? それにこっちから声をかけたから、お金はいらないよ」
「……分かりました」
頷くと、ビリーの手を引いて老婆の元へ行った。別に、「お金はいらない」と言う言葉に惑わされたわけではなく、老婆の発言が気になったからだ。
テーブルを挟んでベンチが置かれていたので、ビリーと並んで座ると早速老婆に尋ねた。
「座りました。それでは何故私たちが血の繋がりが無いと分かったのですか?」
「そんなのは簡単なことさ。あんたたち2人は全く似ていないからねぇ。顔の作りも、目や髪の色も」
「……まさか、そんなことで私たちが他人だと決めつけたのですか?」
「そうだよ」
「なっ……!」
あまりにも短絡的な考えで言葉を失ってしまった。もうこれ以上話を聞く価値も無いだろう。
「行きましょう、ビリー」
隣りに座るビリーに声をかけると、立ち上がった。
「え? お姉ちゃん?」
ビリーが驚いて私を見上げる。
「もうこれ以上、話を聞く必要も無いわ。行きましょう」
「う、うん……」
ビリーも立ち上がり、2人でその場を去ろうとしたとき。
「まだ話は終わっていないよ」
老婆が引き止めてきた。
「いいえ。あいにく私たちの話はもう終わっていますから」
歩き始めると、老婆の声が追いかけてきた。
「私の呼びかけに足を止めたのは、本当は何か気になることがあったからじゃ無いのかい? ……例えば2度目の人生を生きているとか」
え……?
私は再び、足を止めた。
何故この老婆は私が2度目の人生を生きていることを何故……?
思わず振り向くと、老婆はニヤリと笑った。
「あんた達2人は数奇な運命を辿っているようだねぇ。しかし、まさかそんな巡り合わせがあるとは……まるで何者かの意思によって、意図的に手繰り寄せたようじゃ」
老婆は奇妙なことを言ってくる。一体彼女は何を言っているのだろう?
「あの、さっきから一体何を……」
するとビリーが手を引っ張った。
「お姉ちゃん、もう行こうよ」
「ビリー?」
その目は真剣で、いつもと違って何だか様子がおかしい。
「どうしたの? まだ話は終わって……」
その時。
「おい、婆さん。また勝手に店を出して、いい加減なこと口走っているのかよ」
突然男性が現れて老婆の腕を掴むと、途端に彼女は叫び出した。
「ひっ! な、何するんだい! 痛いじゃないか! 誰かーっ! 助けておくれよ! 殺される!」
「何が殺されるだ! いい加減なことばかり言うな!」
「あ、あの……一体これは……」
揉めている2人に声をかけると男性が振り返った。
「あんたも、この婆さんに妙な事吹き込まれただろう?」
「え?」
「この婆さんは、年のせいか呆けてしまったんだよ。昔は良く当たる占い師だったみたいだが、いまでは通りすがりの人に声をかけていい加減なことばかり言ってるのさ。もう婆さんを知る町の人達は誰も相手にしていないさ。こんな呆けた婆さんは相手にしないほうがいいぜ」
「そう……だったのですか……」
「ね、町の人の言う通りだよ。早く買い物に行こう?」
珍しくビリーが急かす。
「分かったわ……行きましょう」
ビリーに手を引かれるように歩き……一度振り返ると、男性に取り押さえられて暴れている老婆の姿が目に映った——
周囲を見渡してみても、近くに人はいない。私たちだけだ。
「もしかして私たちを呼んでいるのですか?」
どう見ても占い師にしか見えない老婆に尋ねた。
「もちろんじゃよ。ちょっと占っていかないかい?」
何だ……勧誘か。けれど、私は60年前の時を戻ってきている。占いなどしてもらわなくても、この先の未来が分かっている。それに占いで余計な出費はしたくないのが本音だ。
「いいえ、結構です。これから弟と色々買い物があって忙しいので。行きましょう、ビリー」
「うん、お姉ちゃん」
頷くビリーの手を引いて、その場を去ろうとした時。
「何故、弟というんだい? その子とは血が繋がっていないだろう?」
「!」
老婆の言葉に思わず足が止まる。
手を繋いでいるビリーの手が震えていた。
「一体どういうことですか?」
振り向くと、私は老婆に尋ねた。
「さぁてね? 気になるなら話を聞くかい? それにこっちから声をかけたから、お金はいらないよ」
「……分かりました」
頷くと、ビリーの手を引いて老婆の元へ行った。別に、「お金はいらない」と言う言葉に惑わされたわけではなく、老婆の発言が気になったからだ。
テーブルを挟んでベンチが置かれていたので、ビリーと並んで座ると早速老婆に尋ねた。
「座りました。それでは何故私たちが血の繋がりが無いと分かったのですか?」
「そんなのは簡単なことさ。あんたたち2人は全く似ていないからねぇ。顔の作りも、目や髪の色も」
「……まさか、そんなことで私たちが他人だと決めつけたのですか?」
「そうだよ」
「なっ……!」
あまりにも短絡的な考えで言葉を失ってしまった。もうこれ以上話を聞く価値も無いだろう。
「行きましょう、ビリー」
隣りに座るビリーに声をかけると、立ち上がった。
「え? お姉ちゃん?」
ビリーが驚いて私を見上げる。
「もうこれ以上、話を聞く必要も無いわ。行きましょう」
「う、うん……」
ビリーも立ち上がり、2人でその場を去ろうとしたとき。
「まだ話は終わっていないよ」
老婆が引き止めてきた。
「いいえ。あいにく私たちの話はもう終わっていますから」
歩き始めると、老婆の声が追いかけてきた。
「私の呼びかけに足を止めたのは、本当は何か気になることがあったからじゃ無いのかい? ……例えば2度目の人生を生きているとか」
え……?
私は再び、足を止めた。
何故この老婆は私が2度目の人生を生きていることを何故……?
思わず振り向くと、老婆はニヤリと笑った。
「あんた達2人は数奇な運命を辿っているようだねぇ。しかし、まさかそんな巡り合わせがあるとは……まるで何者かの意思によって、意図的に手繰り寄せたようじゃ」
老婆は奇妙なことを言ってくる。一体彼女は何を言っているのだろう?
「あの、さっきから一体何を……」
するとビリーが手を引っ張った。
「お姉ちゃん、もう行こうよ」
「ビリー?」
その目は真剣で、いつもと違って何だか様子がおかしい。
「どうしたの? まだ話は終わって……」
その時。
「おい、婆さん。また勝手に店を出して、いい加減なこと口走っているのかよ」
突然男性が現れて老婆の腕を掴むと、途端に彼女は叫び出した。
「ひっ! な、何するんだい! 痛いじゃないか! 誰かーっ! 助けておくれよ! 殺される!」
「何が殺されるだ! いい加減なことばかり言うな!」
「あ、あの……一体これは……」
揉めている2人に声をかけると男性が振り返った。
「あんたも、この婆さんに妙な事吹き込まれただろう?」
「え?」
「この婆さんは、年のせいか呆けてしまったんだよ。昔は良く当たる占い師だったみたいだが、いまでは通りすがりの人に声をかけていい加減なことばかり言ってるのさ。もう婆さんを知る町の人達は誰も相手にしていないさ。こんな呆けた婆さんは相手にしないほうがいいぜ」
「そう……だったのですか……」
「ね、町の人の言う通りだよ。早く買い物に行こう?」
珍しくビリーが急かす。
「分かったわ……行きましょう」
ビリーに手を引かれるように歩き……一度振り返ると、男性に取り押さえられて暴れている老婆の姿が目に映った——
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