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2章2 今日から家族
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約3時間後——
何も無い田園風景から、徐々に点々と建つ家々が見えてきた。
「もうすぐ『ラント』に到着しそうね」
この町を抜けると大きな町は無くなり、小規模な町や村々になってしまう。
つまりここで買い物を済ませないと、中々必需品が手に入れにくくなるということだ。
荷台の上には今もビリーがぐっすり眠っている。
「フフ。良く寝ている……余程眠かったのね。でもそろそろ起きて貰わないと」
何しろ1人で『ルーズ』へ行く予定だったので、自分一人の寝具しか持ってこなかったのだ。
ビリーの寝具はこの店で買っておく必要がある。
村の中にも店はあり、寝具は売られているものの割高だ。
やはり運送料などの費用が上乗せされるからだろう。少しでも費用を浮かせる為には、ここで必要最低限の物を買う必要がある。
時が巻き戻る前は、旅発つときに父から三千万ベリルの援助を受けたが、今回父からお金は貰っていない。
その代わり、父に『テミス』の特例一区に住む人々の生活改善を図ってくれるようにお願いしたのだ。
私が用意出来したお金は、全部自分のドレスや宝石類を売り払って得た物で三千万ベリルには程遠い。
だから少しでも節約しなければ。
「ビリーの寝具だから、勝手に私がえらんで買うわけにもいかないし……」
眠っているのを起こすのは可哀想だが、ここは心を鬼にしよう。荷馬車を止めると、ビリーに近付いた。
「ビリー。そろそろ町に着くわよ、起きなさい」
声をかけながら、軽く揺すぶった。
「うう……ん……」
ビリーは眠そうな目をゴシゴシこすり、ぼんやりと私の顔を見つる。
「起きた? そろそろ町に着くわよ」
すると……。
「お母……さん……?」
「は?」
ちょっと待って。今、何と言った?
「ビリー? もしかして寝ぼけてる? 私よ?」
「え……あ!! オ、オフィーリア様!?」
ガバッと飛び起きたビリーは床に頭をすりつけて謝ってきた。
「すみません! 起きていようと思っていたの、寝てしまいました! 連れて行って貰うのだから起きていなければいけないのに! 僕は下僕失格です!」
「え? ちょ、ちょっと待って落ち着いて顔を上げてちょうだいよ」
お母さんと言われたこともそうだが、それ以上に自分のことを下僕と言ったことが驚きだった。
「は、はい……」
ビリーは顔を上げた。
「いい? 私はね、ビリーを下僕だなんて思っていないわよ? まぁ、しいて言えば……家族。うん、そうね。ビリーのお姉さんのようなつもりでいるから」
「お姉さん……ですか?」
「そうよ、お姉さん。昨夜は殆ど寝ていなかったんじゃない?」
「はい……。オフィーリア様が屋敷を出て行くと聞いて、絶対に馬で行くだろうと思ったので、厩舎の前で見張っていたんです。……すみません」
再び項垂れるビリー。
「何故謝るの? むしろ私は嬉しかったわよ?」
「え?」
「実はね、強がってはいたけど本当は1人で『ルーズ』に向かうのが不安だったの。
だからビリーがついて行きたいと言ってくれた時、嬉しかったわ」
この気持ちは、あながち嘘ではない。『ルーズ』に行くには、馬車で半月はかかるほど遠い場所にある。正直、1人は不安を感じていたのだ。
「だ、だけど……僕はこんな子供で、頼りないですよ?」
「それでも私の両手が塞がっていたら、ビリーの手を借りることだって出来るでしょう? 話し相手にだってなって貰えるじゃない。色々頼りにしてるのよ?」
「ほ、本当ですか?」
ビリーが涙目で尋ねてくる。
「ええ、本当。だから下僕なんて言わないのよ? 私たちは今日から家族なんだから」
「家族……オフィーリア様の……」
ビリーの顔が赤くなる。
「そう、だからあの町に着いたら一緒に買い物をするわよ」
私はビシッと荷馬車の前方を指さす。
その先には『ラント』の町並みが広がっていた――
何も無い田園風景から、徐々に点々と建つ家々が見えてきた。
「もうすぐ『ラント』に到着しそうね」
この町を抜けると大きな町は無くなり、小規模な町や村々になってしまう。
つまりここで買い物を済ませないと、中々必需品が手に入れにくくなるということだ。
荷台の上には今もビリーがぐっすり眠っている。
「フフ。良く寝ている……余程眠かったのね。でもそろそろ起きて貰わないと」
何しろ1人で『ルーズ』へ行く予定だったので、自分一人の寝具しか持ってこなかったのだ。
ビリーの寝具はこの店で買っておく必要がある。
村の中にも店はあり、寝具は売られているものの割高だ。
やはり運送料などの費用が上乗せされるからだろう。少しでも費用を浮かせる為には、ここで必要最低限の物を買う必要がある。
時が巻き戻る前は、旅発つときに父から三千万ベリルの援助を受けたが、今回父からお金は貰っていない。
その代わり、父に『テミス』の特例一区に住む人々の生活改善を図ってくれるようにお願いしたのだ。
私が用意出来したお金は、全部自分のドレスや宝石類を売り払って得た物で三千万ベリルには程遠い。
だから少しでも節約しなければ。
「ビリーの寝具だから、勝手に私がえらんで買うわけにもいかないし……」
眠っているのを起こすのは可哀想だが、ここは心を鬼にしよう。荷馬車を止めると、ビリーに近付いた。
「ビリー。そろそろ町に着くわよ、起きなさい」
声をかけながら、軽く揺すぶった。
「うう……ん……」
ビリーは眠そうな目をゴシゴシこすり、ぼんやりと私の顔を見つる。
「起きた? そろそろ町に着くわよ」
すると……。
「お母……さん……?」
「は?」
ちょっと待って。今、何と言った?
「ビリー? もしかして寝ぼけてる? 私よ?」
「え……あ!! オ、オフィーリア様!?」
ガバッと飛び起きたビリーは床に頭をすりつけて謝ってきた。
「すみません! 起きていようと思っていたの、寝てしまいました! 連れて行って貰うのだから起きていなければいけないのに! 僕は下僕失格です!」
「え? ちょ、ちょっと待って落ち着いて顔を上げてちょうだいよ」
お母さんと言われたこともそうだが、それ以上に自分のことを下僕と言ったことが驚きだった。
「は、はい……」
ビリーは顔を上げた。
「いい? 私はね、ビリーを下僕だなんて思っていないわよ? まぁ、しいて言えば……家族。うん、そうね。ビリーのお姉さんのようなつもりでいるから」
「お姉さん……ですか?」
「そうよ、お姉さん。昨夜は殆ど寝ていなかったんじゃない?」
「はい……。オフィーリア様が屋敷を出て行くと聞いて、絶対に馬で行くだろうと思ったので、厩舎の前で見張っていたんです。……すみません」
再び項垂れるビリー。
「何故謝るの? むしろ私は嬉しかったわよ?」
「え?」
「実はね、強がってはいたけど本当は1人で『ルーズ』に向かうのが不安だったの。
だからビリーがついて行きたいと言ってくれた時、嬉しかったわ」
この気持ちは、あながち嘘ではない。『ルーズ』に行くには、馬車で半月はかかるほど遠い場所にある。正直、1人は不安を感じていたのだ。
「だ、だけど……僕はこんな子供で、頼りないですよ?」
「それでも私の両手が塞がっていたら、ビリーの手を借りることだって出来るでしょう? 話し相手にだってなって貰えるじゃない。色々頼りにしてるのよ?」
「ほ、本当ですか?」
ビリーが涙目で尋ねてくる。
「ええ、本当。だから下僕なんて言わないのよ? 私たちは今日から家族なんだから」
「家族……オフィーリア様の……」
ビリーの顔が赤くなる。
「そう、だからあの町に着いたら一緒に買い物をするわよ」
私はビシッと荷馬車の前方を指さす。
その先には『ラント』の町並みが広がっていた――
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