時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

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1章24 旅立ち

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 ――翌朝午前4時

まだ夜も明けきらない、薄暗い廊下を私は台車を引っ張って歩いていた。
台車の上には『ルーズ』に運ぶ荷物が積まれてある。

私が今日、ここを出て行くことは父以外誰にも知られてはならない。
だから荷運びも1人で行っているのだ。
昔の私だったら考えられない行動だと思うが、60年も厳しい生活をしてきた。
これくらいどうってことはない。

「……うっ。そ、それにしても……中々重いわね」

どうやらこの頃の私は、かなりひ弱だったようだ。これくらいの台車を引っ張るだけでもきついのだから。

「『ルーズ』に着いたら……か、身体も鍛えなくちゃ……」

心に誓いながら、厩舎を目指した――


****


「……ふぅ。こんなものかしら?」

荷馬車に積み上げられた荷物を眺めると、愛馬のロードに声をかけた。

「ロード、荷馬車を引かせてごめんね? これから私と一緒に『ルーズ』まで行きましょう」

美しい茶色の毛並みのロードの首筋を優しく撫でると「ヒヒン」と小さく鳴く。
まるで「はい、分かりました」と返事をしてくれたように感じる。

「誰かにも見つからないうちに行きましょう」

目立たない茶色のマントを羽織り、目深にフードをかぶると厩舎の扉を開け……驚きで大きな声を上げてしまった。何と、目の前にビリーが立っていたからだ。

「ええっ!? ビリーッ!? な、何故ここに!」

すると途端にビリーが涙目になる。

「オ、オフィーリア様……と、遠くに行ってしまうって本当ですか……?」

「え? ど、どうしてそれを……?」

するとビリーは袖で涙を拭った。

「使用人の人達が僕に言ったんです……オフィーリア様は悪い令嬢だから……王子様に婚約破棄されて……こ、ここから遠くへ追い出されるって……」

「え……? そんなこと聞かされたの?」

私の言葉に黙って頷くビリー。
思わず心の中で舌打ちしてしまった。
ここの使用人達は、どれだけ私を嫌っているのだろう。よりによって昨日私が連れてきたビリーにそんな話をするなんて。

「本当ですか? 本当に……遠くへ行くのですか?」

ボロボロ泣きながらビリーが尋ねてくる。

「ビリー……」

ここで嘘をついても仕方がない。本当のことを話すことにした。

「本当よ、ビリー。私はね、今から1人で『ルーズ』という村へ行くの。何日も何日もかけてね。そこでずっと暮らすのよ」

「そ、そんな……! だったら僕も連れて行って下さい!」

「はぁ!?」

とんでもないことを言うビリーに面食らってしまった。

「ちょ、ちょっと何を言っているの? いい? ここにいれば食事も貰えるし、ベッドで眠ることだって出来るのよ? それは確かに仕事はしなくてはいけないけれど、お金だって貰えるのよ? 私について来たって、いいこと無いわよ? お金だってあげられないもの」

「オフィーリア様といられるなら、お腹が空いても我慢します! 寝るのは床だってかまいません! 一生懸命働きますから……僕を捨てないで下さい!」

ビリーが泣きながらしがみついてきた。

「ビリー……」

「は、初めてだったんです……お父さんがいなくなって、僕に親切にしてくれた人は……オフィーリア様だけだったんです……」

しがみついてボロボロ泣くビリー。
こんなに泣いて、すがってくる少年を私は見捨てることが出来なかった。

「……分かったわ。仕方ないから連れて行ってあげる」

「本当ですか?」

ビリーが顔を上げた。その頬は涙で濡れている。

「ええ、本当よ。でもその代わり、今から出発するけどいい? 人目につく前に発ちたいのよ」

「いいです!」

途端に笑顔になる。

「なら、早く乗って」

御者台に乗ると、ビリーに声をかけた。

「はい!」

ビリーが乗り込むと、私は手綱を握りしめた。

「それじゃ、『ルーズ』に向かって出発よ!?」

「はい、オフィーリア様!」


こうして朝焼けが空を染める頃……私は再び『ルーズ』へ向けて出発した。

追放先で、今度こそ幸せに暮らすために――

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