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1章20 『テミス』の町 8
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私の言葉に集まっていた人々は蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、そしてすぐに各々皿とスプーンを持って駆けつけてきた。
「あわわわ……オフィーリア様。大丈夫でしょうか? 人々の持っているスープ皿の大きさが皆バラバラのようですけど……」
その様子を見て、爺やが慌てる。
「大丈夫よ。たとえ大きさがバラバラでも皆にあげるのは、レードル2杯分までだから」
私は手にしたレードルを爺やに見せた。
しかもあの料理店から借りてきた鍋は希少価値の高い魔石を砕いて作られた鍋で、温かい料理も冷めないという素晴らしい鍋だ。
きっと皆喜んでくれるに違いない。
「はい! 皆一列に並んで! この鍋に入っているのはスープよ! 1人1杯、お皿の大小にかかわらず、レードル杯分までよ!」
私の言葉に、人々は我先にと1列に並ぶ。
すると爺やが声をかけてきた。
「あ、あの。まさかとは思いますが、スープをよそうのは……?」
「え? 私に決まっているじゃない」
すると爺やが又しても悲鳴を上げる。
「ヒエエエエッ! こ、侯爵令嬢ともあるオフィーリア様が平民達に自ら給仕をなさるとは……!」
「爺やったら大げさねぇ」
侯爵令嬢とは言っても、私はもう勘当されたも同然の身。それに給仕といっても、たかがスープを皿によそうだけなのに。
「早くくださいよ!」
「そうだそうだ!」
「早くしてくれ!」
列に並んだ人たちが文句を言い始めた。
「な、何て無礼な……!」
爺やは顔を真っ赤に染めるも、私は気にせずに声をかけた。
「では今から配っていくわよ!」
そして、早速1番前に並んだ男性の皿にスープをよそった。
すると男性はいきなり文句を言ってきた。
「何だよこれ! 具も何も入ってないスープじゃないか! こんなので腹が満たされるかよ!」
「あら? 文句あるの? 言っておくけど、このスープはあなた達のお腹を満たすための物じゃ無いの。この区域以外で使用されている綺麗な水で作った料理よ。水次第で、いかに料理の味が変わるかを教える為に用意したのだから。だけどこのスープだけでもお腹は満たされるはずよ」
何しろジャガイモがたっぷりすりおろされたスープなのだ。満足しないはずが無い。
「ちっ! 何だよ! 貴族のくせにケチりやがって!」
男はブツブツ文句を言いながら、列から離れ……直後に「旨い!」と歓喜の声をあげた。
それを聞いた人々は騒めき、誰もが文句を言わずにスープを受け取って喜びの表情を浮かべながら飲んでいる。
フフフ、上等上等。これを狙っていたのよ。
やがて鍋のスープも残り僅かになり、一番列の最後に並んでいた子供の番になった。
「はい、お待たせ。……あら、どうしたの? 手ぶらじゃない、お皿とコップはどうしたの?」
見たところ、まだ10歳にも満たない少年。着ている服はボロボロで、靴にも穴が空ている。髪はぼさぼさで見るからに薄汚れていた。
「あの……ぼ、僕。何も持っていなくて……」
「え? 何も?」
周囲を見渡しても、誰も少年を気にかける者はいない。
「お父さんやお母さんはどうしたの?」
けれど少年は俯き、首を振る。すると爺やが耳元で囁いてきた。
「もしかして、この子供は孤児なのかもしれませんね」
「え……?」
改めて少年を見ると、確かにそうなのかもしれない。
『ルーズ』で暮らした数年後、飢饉に襲われ多くの人々が亡くなり孤児が沢山溢れた。
その時の子供たちの姿と少年が重なる。
「ねぇ……」
少年に話しかけようとした矢先。
「オフィーリア様!」
突然区長のムントが声をかけてきた――
「あわわわ……オフィーリア様。大丈夫でしょうか? 人々の持っているスープ皿の大きさが皆バラバラのようですけど……」
その様子を見て、爺やが慌てる。
「大丈夫よ。たとえ大きさがバラバラでも皆にあげるのは、レードル2杯分までだから」
私は手にしたレードルを爺やに見せた。
しかもあの料理店から借りてきた鍋は希少価値の高い魔石を砕いて作られた鍋で、温かい料理も冷めないという素晴らしい鍋だ。
きっと皆喜んでくれるに違いない。
「はい! 皆一列に並んで! この鍋に入っているのはスープよ! 1人1杯、お皿の大小にかかわらず、レードル杯分までよ!」
私の言葉に、人々は我先にと1列に並ぶ。
すると爺やが声をかけてきた。
「あ、あの。まさかとは思いますが、スープをよそうのは……?」
「え? 私に決まっているじゃない」
すると爺やが又しても悲鳴を上げる。
「ヒエエエエッ! こ、侯爵令嬢ともあるオフィーリア様が平民達に自ら給仕をなさるとは……!」
「爺やったら大げさねぇ」
侯爵令嬢とは言っても、私はもう勘当されたも同然の身。それに給仕といっても、たかがスープを皿によそうだけなのに。
「早くくださいよ!」
「そうだそうだ!」
「早くしてくれ!」
列に並んだ人たちが文句を言い始めた。
「な、何て無礼な……!」
爺やは顔を真っ赤に染めるも、私は気にせずに声をかけた。
「では今から配っていくわよ!」
そして、早速1番前に並んだ男性の皿にスープをよそった。
すると男性はいきなり文句を言ってきた。
「何だよこれ! 具も何も入ってないスープじゃないか! こんなので腹が満たされるかよ!」
「あら? 文句あるの? 言っておくけど、このスープはあなた達のお腹を満たすための物じゃ無いの。この区域以外で使用されている綺麗な水で作った料理よ。水次第で、いかに料理の味が変わるかを教える為に用意したのだから。だけどこのスープだけでもお腹は満たされるはずよ」
何しろジャガイモがたっぷりすりおろされたスープなのだ。満足しないはずが無い。
「ちっ! 何だよ! 貴族のくせにケチりやがって!」
男はブツブツ文句を言いながら、列から離れ……直後に「旨い!」と歓喜の声をあげた。
それを聞いた人々は騒めき、誰もが文句を言わずにスープを受け取って喜びの表情を浮かべながら飲んでいる。
フフフ、上等上等。これを狙っていたのよ。
やがて鍋のスープも残り僅かになり、一番列の最後に並んでいた子供の番になった。
「はい、お待たせ。……あら、どうしたの? 手ぶらじゃない、お皿とコップはどうしたの?」
見たところ、まだ10歳にも満たない少年。着ている服はボロボロで、靴にも穴が空ている。髪はぼさぼさで見るからに薄汚れていた。
「あの……ぼ、僕。何も持っていなくて……」
「え? 何も?」
周囲を見渡しても、誰も少年を気にかける者はいない。
「お父さんやお母さんはどうしたの?」
けれど少年は俯き、首を振る。すると爺やが耳元で囁いてきた。
「もしかして、この子供は孤児なのかもしれませんね」
「え……?」
改めて少年を見ると、確かにそうなのかもしれない。
『ルーズ』で暮らした数年後、飢饉に襲われ多くの人々が亡くなり孤児が沢山溢れた。
その時の子供たちの姿と少年が重なる。
「ねぇ……」
少年に話しかけようとした矢先。
「オフィーリア様!」
突然区長のムントが声をかけてきた――
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