時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
24 / 73

1章16 『テミス』の町 4

しおりを挟む
 すると私の意見が気に入らなかったのか、区長のムントが怒りを抑えた口調で尋ねてきた。

「埋めてしまえとは、一体どういうことですか? その井戸は我々の大切な生活用水です。水が無くて、どうやって生活していけというのです?」

確かに言われて見ればその通りだ。
けれどこの国では余程の田舎では無い限り、水道というものが完備されている。
ここ『テミス』にだって、貧民地区以外の場所では水道が通っているのだが、領主がこの地区にだけ水道を引いていない。これは差別以外の何物でもない。

「もちろん、今すぐにとは言わないわ。そんなすぐに井戸を埋めることも水道を引くことも出来ないでしょうから。だけど、この井戸水はもう駄目よ!」

私は井戸に向かうと、桶を井戸に落とした。

「え!? な、何をするんですか!?」

区長が驚きの声を上げ、周囲に騒めきが起こる。

「何って、水を汲みに決まっているでしょう?」

「ええ!? 本気ですか!?」
「信じられない……」
「あんな格好で?」

増々騒めく声が大きくなる。
でもそれは当然なのかもしれない。何しろドレス姿の侯爵令嬢が井戸の水をロープでくみ上げているのだから。
でもこれくらいお手の物。井戸水を汲むことなど『ルーズ』の生活で慣れている。

グイグイロープを引き、ついに桶が井戸から引き揚げられた。

桶を井戸の淵に乗せて改めてくみ上げた水の様子を見ると、濁りが見えるし何となく異臭を放っている。

やはり、この頃から既に井戸水に異変が生じていたのだ。こんなのを放置していたら今に皆病気になってしまう。
そしていずれはガスが充満し、人々はたったの1日で大勢亡くなり、町は滅んでしまう……。

考えただけで身震いがする。

「水をくみ上げて一体何をしているのです?」

すると区長が尋ねてきた。

「見て分からないの? 井戸水の様子を見ているのよ。だけど……本当に臭いわ! こんなのを飲んでいたら、今に皆病気になってしまうわよ?」

大袈裟に肩をすくめた。すると……。

「嘘だ!」
「そうよ! 私たちはずっとこれを飲んでいるわ!」
「病気になんかなったこと無いぞ!」

次々と人々は文句を言ってくる。だから私はさらに声を張り上げた。

「それはあなたたちが、ここの井戸水しか飲んだこと無いからじゃないの!?」

すると図星だったのか、誰もが口を閉ざす。
やはり思った通りだ。貧民街に暮らすこの人たちはここから外に出たことがない。他の水を飲んだことが無いのだ。

「いい? 本当の水はこんなものじゃないわ。私があなたたちの元に、綺麗な水を運んでくるから待っていてちょうだい。その水を飲んだうえで、どうすれば良いか考える事ね。いい?」

私の言葉に人々は互いの顔を見合わせたが……全員が頷く。

「……分かりました。では我々に綺麗な水を飲ませていただけますかな?」

区長が代表で尋ねてきた。

「ええ勿論よ。それじゃ、行ってくるわね!」

私はドレスをたくし上げると、急ぎ足で爺やの元へ向かった――

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうして許されると思ったの?

わらびもち
恋愛
二度も妻に逃げられた男との結婚が決まったシスティーナ。 いざ嫁いでみれば……態度が大きい侍女、愛人狙いの幼馴染、と面倒事ばかり。 でも不思議。あの人達はどうして身分が上の者に盾突いて許されると思ったのかしら?

家族みんなで没落王族に転生しました!? 〜元エリート家族が滅びかけの王国を立て直します〜

パクパク
恋愛
交通事故で命を落とした家族5人。 目覚めたら、なんと“滅び寸前の王国の王族一家”に転生していた!? 政治腐敗・軍の崩壊・貴族の暴走——あらゆる問題が山積みの中、 元・国会議員の父、弁護士の母、情報エリートの兄、自衛隊レンジャーの弟は、 持ち前の知識とスキルで本気の改革に乗り出す! そして主人公である末娘(元・ただの大学生)は、 ひとりだけ「何もない私に、何ができる?」と悩みながらも、 持ち前の“言葉と優しさ”で、庶民や貴族たちの心を動かしていく——。 これは、“最強の家族”が織りなす、 異世界王政リスタート・ほんのりコメディ・時々ガチの改革物語!

私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの! 私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

短編集

天冨 七緒
恋愛
ざまぁ、転生、異世界ものなどの短編集。 一作品、十万文字に満たない話。 一話完結から中編まであります。 長編で読んでみたい作品などありましたら、コメント欄で教えて頂きたいです。 よろしくお願いします。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。 ※諸事情により3月いっぱいまで更新停止中です。すみません。

婚約者の恋人

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
 王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。  何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。  そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。  いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。  しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……

処理中です...