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1章15 『テミス』の町 3
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「ここが……例の井戸がある地区ね」
私が今立っている地区は特例第1区、別名「貧民地区」と呼ばれた地区だ。
この場所は鉱山を掘る場所から一番近い場所にあり、ここに暮らす成人男性達は全員鉱山夫だった。
建ち並ぶ家々も見すぼらしく、人々も貧しい身なりをしている。
この地区に貴族が来ることは珍しいのだろう。私を遠巻きに見る人々は不審な目をこちらに向けている。
「だけど、こんな状態だったなんて知らなかったわ……」
この町は鉱山によって栄えた町だというのに、鉱山夫たちは最低限の生活しか出来ないでいる。
全て鉱山を管理する元締めに搾取されているのだ。その元締めは勿論、この町を治めている貴族だ。
昔の私だったら、貧しい人々を見ても何とも思うことは無かっただろう。
けれど60年間、『ルーズ』で貧しい生活を強いられてきた今なら彼らのことが理解できる。
「でもその問題は後回しね。今はまず目先のことだけ考えないと」
井戸を探すため、周辺を散策することにした。
「井戸は何処かしら……」
少しの間歩き回り、ついに井戸を発見した。
その井戸は地区の一番外れの鉱山付近にあった。恐らく鉱山夫たちの為に作られた井戸なのだろう。
「ふ~ん。これが問題の井戸ね」
中を覗き込んでみると、かなりの深さがあるようだ。蓋もしていないので、葉っぱが水面に浮かんでいる様子が見える。
……井戸に蓋が付いていないのは不衛生では無いだろうか?
それに気のせいか、何だか異臭もある気がする。
その時、背後から声をかけられた。
「あの……一体何をしているんです?」
振り向くと10人近い人々が遠巻きに私を見ていた。老若男女が入り混じり、全員不審な目を向けている。
「その身なりを見るところ、貴女は貴族ですよね? 偉い貴族様が何故、こんなところに来ているんです?」
年老いた老人が尋ねてきた。恐らく彼がこの地区の代表者なのだろう。
その声や目つきから私に対して負の感情を抱いていることが伝わる。
そこで私は鼻をつまんで大きな声で叫んだ。
「臭っい!」
『え!?』
私のいきなりな行動にその場にいた全員がギョッとした顔になる。
「何、これ!? 臭い! この井戸から強烈な異臭がするわ! 臭くて鼻がもげそうよ!」
すると途端に人々が怒りを露わにする。
「何だって……!? 臭いだって!?」
「俺たちを馬鹿にしているのか!?」
「臭いなんてあんまりよ!」
「これだから貴族は嫌なんだ……」
敵意を剥き出しにする人々。そこへ、私に話しかけてきた老人が皆を止めた。
「ちょっと待つんだ。まずはこの方の話を聞くことにしよう」
すると、途端に彼らは口を閉ざす。
ふ~ん。中々統制が取れているじゃないの。
人々を制すると、老人が再び尋ねてきた。
「私は特例第1区の区長、ムントと言います。失礼ですが……貴女はどちら様でしょうか?」
「私はオフィーリア・ドヌーブ。侯爵家の者よ」
わざと高飛車な態度で挨拶する。……当然追放されていることは口にはしないけど。
「侯爵家……!?」
ムントが驚きの表情を浮かべ、当然の如く周囲のざわめきが大きくなる。
「い、一体侯爵家の御令嬢ともいうべき方が……何故このような場所に来たのですか? 御覧の通り、ここは貧民地区ですよ? 貴族の御令嬢が足を運ぶような場所じゃありません」
「この町には買い物に来たのよ。そうしたら、道に迷ってここに来てしまっただけよ。それにしても一体何なの? あの井戸は。さっきから臭くって溜まらないわよ! あんな井戸は、さっさと埋めてしまいなさい!」
私はビシッと井戸を指さした――
私が今立っている地区は特例第1区、別名「貧民地区」と呼ばれた地区だ。
この場所は鉱山を掘る場所から一番近い場所にあり、ここに暮らす成人男性達は全員鉱山夫だった。
建ち並ぶ家々も見すぼらしく、人々も貧しい身なりをしている。
この地区に貴族が来ることは珍しいのだろう。私を遠巻きに見る人々は不審な目をこちらに向けている。
「だけど、こんな状態だったなんて知らなかったわ……」
この町は鉱山によって栄えた町だというのに、鉱山夫たちは最低限の生活しか出来ないでいる。
全て鉱山を管理する元締めに搾取されているのだ。その元締めは勿論、この町を治めている貴族だ。
昔の私だったら、貧しい人々を見ても何とも思うことは無かっただろう。
けれど60年間、『ルーズ』で貧しい生活を強いられてきた今なら彼らのことが理解できる。
「でもその問題は後回しね。今はまず目先のことだけ考えないと」
井戸を探すため、周辺を散策することにした。
「井戸は何処かしら……」
少しの間歩き回り、ついに井戸を発見した。
その井戸は地区の一番外れの鉱山付近にあった。恐らく鉱山夫たちの為に作られた井戸なのだろう。
「ふ~ん。これが問題の井戸ね」
中を覗き込んでみると、かなりの深さがあるようだ。蓋もしていないので、葉っぱが水面に浮かんでいる様子が見える。
……井戸に蓋が付いていないのは不衛生では無いだろうか?
それに気のせいか、何だか異臭もある気がする。
その時、背後から声をかけられた。
「あの……一体何をしているんです?」
振り向くと10人近い人々が遠巻きに私を見ていた。老若男女が入り混じり、全員不審な目を向けている。
「その身なりを見るところ、貴女は貴族ですよね? 偉い貴族様が何故、こんなところに来ているんです?」
年老いた老人が尋ねてきた。恐らく彼がこの地区の代表者なのだろう。
その声や目つきから私に対して負の感情を抱いていることが伝わる。
そこで私は鼻をつまんで大きな声で叫んだ。
「臭っい!」
『え!?』
私のいきなりな行動にその場にいた全員がギョッとした顔になる。
「何、これ!? 臭い! この井戸から強烈な異臭がするわ! 臭くて鼻がもげそうよ!」
すると途端に人々が怒りを露わにする。
「何だって……!? 臭いだって!?」
「俺たちを馬鹿にしているのか!?」
「臭いなんてあんまりよ!」
「これだから貴族は嫌なんだ……」
敵意を剥き出しにする人々。そこへ、私に話しかけてきた老人が皆を止めた。
「ちょっと待つんだ。まずはこの方の話を聞くことにしよう」
すると、途端に彼らは口を閉ざす。
ふ~ん。中々統制が取れているじゃないの。
人々を制すると、老人が再び尋ねてきた。
「私は特例第1区の区長、ムントと言います。失礼ですが……貴女はどちら様でしょうか?」
「私はオフィーリア・ドヌーブ。侯爵家の者よ」
わざと高飛車な態度で挨拶する。……当然追放されていることは口にはしないけど。
「侯爵家……!?」
ムントが驚きの表情を浮かべ、当然の如く周囲のざわめきが大きくなる。
「い、一体侯爵家の御令嬢ともいうべき方が……何故このような場所に来たのですか? 御覧の通り、ここは貧民地区ですよ? 貴族の御令嬢が足を運ぶような場所じゃありません」
「この町には買い物に来たのよ。そうしたら、道に迷ってここに来てしまっただけよ。それにしても一体何なの? あの井戸は。さっきから臭くって溜まらないわよ! あんな井戸は、さっさと埋めてしまいなさい!」
私はビシッと井戸を指さした――
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