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1章14 『テミス』の町 2
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私はハンドバッグ1つで店を出た。
爺やは御者台の上で転寝をしていた。
「爺や……疲れているのね」
ここは高級店ばかり建ち並ぶメインストリート。付近には大きな警察署もあるので治安は良い方だ。
けれど、転寝するに少し無防備すぎる。本当は寝かせておいてあげたいけれども、そうはいっていられない。
「爺や、お待たせ」
大きめの声で呼びかけると、爺やは慌てた様子で目を開けてゴシゴシとこすった。
「あ、オフィーリア様……寝てしまったようですね。申し訳ありませんでした」
照れくさそうに笑う爺や。
「大丈夫よ。でも今からは寝ないでいてくれる。それと、この馬車は警察署の前に停めておいてね」
「はぁ、いいですけど……え? ところでオフィーリア様。お荷物は……?」
爺やが首を傾げる。
「荷物? あれなら全部この店で買い取って貰ったわよ」
「買い取ってって……ええ!? バッグもですか!?」
「ええ、そうよ」
何しろ、今日買取して貰ったバッグは一流デザイナーが手掛けてくれた一点もの。かなりの高値で買い取って貰えたのだ。
「ですが、あのバッグはとてもお気に入りの物でしたよね!? それなのに売ってしまったのですか!?」
「そうよ、だってこれから『ルーズ』で暮らす私にはもう必要が無いものだから」
「はぁ……なるほど。でもオフィーリア様がそうおっしゃるのでしたら構いませんが……」
爺やはどこ腑に落ちない様子で首を捻る。
勿論、私も出来ればあのバッグは手放したくはなかった。
けれどそうせざるを得ない事情があったのだ。
60年前、私はあの旅行バッグの中に自分のお気に入りのアクセサリーや貴重品を入れて『ルーズ』を旅立った。
そして旅先に立ち寄った村の食堂で、盗難被害に遭ってしまったのだ。
食事の際、足元に置いておいたバッグはいつの間にか消えていた。
中に入れておいたアクセサリーや、貴重品事全て奪われてしまったのだ。
つまり……あのバッグを持っていれば盗難被害に遭ってしまう! 奪われるくらいなら売ってお金にしてしまった方がずっとマシ。
そこで私は手放すことに決めたのだ。
尤も爺やにそのことを話すつもりは無いけれど。
「ねぇ、爺や」
今も首を傾げる爺やに声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
「悪いけど、あの警察署の前で馬車を止めて待っていてくれる。このハンドバッグは預かっておいてね」
私は爺やにハンドバッグ手渡した。
「預かるのですか? まぁそれは構いませんが……」
「くれぐれも気を付けてね。1500万ベリル入っているから」
受け取った爺やに小声で言った。
「え……ええっ!? そ、そんなにですか!?」
「ええ。これから私が『ルーズ』で生活するのに必要なお金だから。それじゃ行ってくるわ」
「え!? 行くって、一体何処へ行くおつもりですか!?」
「ちょっと井戸を見に行ってくるのよ」
「へ? い、井戸ですか?」
「ええ。少し時間がかかるかもしれないけど、待っていてね、爺や」
それだけ告げると、私は急ぎ足で問題の井戸がある地区へ1人で向かった。
何としても、『テミス』の悲劇を食い止めなければ――!
爺やは御者台の上で転寝をしていた。
「爺や……疲れているのね」
ここは高級店ばかり建ち並ぶメインストリート。付近には大きな警察署もあるので治安は良い方だ。
けれど、転寝するに少し無防備すぎる。本当は寝かせておいてあげたいけれども、そうはいっていられない。
「爺や、お待たせ」
大きめの声で呼びかけると、爺やは慌てた様子で目を開けてゴシゴシとこすった。
「あ、オフィーリア様……寝てしまったようですね。申し訳ありませんでした」
照れくさそうに笑う爺や。
「大丈夫よ。でも今からは寝ないでいてくれる。それと、この馬車は警察署の前に停めておいてね」
「はぁ、いいですけど……え? ところでオフィーリア様。お荷物は……?」
爺やが首を傾げる。
「荷物? あれなら全部この店で買い取って貰ったわよ」
「買い取ってって……ええ!? バッグもですか!?」
「ええ、そうよ」
何しろ、今日買取して貰ったバッグは一流デザイナーが手掛けてくれた一点もの。かなりの高値で買い取って貰えたのだ。
「ですが、あのバッグはとてもお気に入りの物でしたよね!? それなのに売ってしまったのですか!?」
「そうよ、だってこれから『ルーズ』で暮らす私にはもう必要が無いものだから」
「はぁ……なるほど。でもオフィーリア様がそうおっしゃるのでしたら構いませんが……」
爺やはどこ腑に落ちない様子で首を捻る。
勿論、私も出来ればあのバッグは手放したくはなかった。
けれどそうせざるを得ない事情があったのだ。
60年前、私はあの旅行バッグの中に自分のお気に入りのアクセサリーや貴重品を入れて『ルーズ』を旅立った。
そして旅先に立ち寄った村の食堂で、盗難被害に遭ってしまったのだ。
食事の際、足元に置いておいたバッグはいつの間にか消えていた。
中に入れておいたアクセサリーや、貴重品事全て奪われてしまったのだ。
つまり……あのバッグを持っていれば盗難被害に遭ってしまう! 奪われるくらいなら売ってお金にしてしまった方がずっとマシ。
そこで私は手放すことに決めたのだ。
尤も爺やにそのことを話すつもりは無いけれど。
「ねぇ、爺や」
今も首を傾げる爺やに声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
「悪いけど、あの警察署の前で馬車を止めて待っていてくれる。このハンドバッグは預かっておいてね」
私は爺やにハンドバッグ手渡した。
「預かるのですか? まぁそれは構いませんが……」
「くれぐれも気を付けてね。1500万ベリル入っているから」
受け取った爺やに小声で言った。
「え……ええっ!? そ、そんなにですか!?」
「ええ。これから私が『ルーズ』で生活するのに必要なお金だから。それじゃ行ってくるわ」
「え!? 行くって、一体何処へ行くおつもりですか!?」
「ちょっと井戸を見に行ってくるのよ」
「へ? い、井戸ですか?」
「ええ。少し時間がかかるかもしれないけど、待っていてね、爺や」
それだけ告げると、私は急ぎ足で問題の井戸がある地区へ1人で向かった。
何としても、『テミス』の悲劇を食い止めなければ――!
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