18 / 76
1章10 60年ぶりの晩餐
しおりを挟む
その後の婆やを説得するのが大変だった。
いくら言って聞かせても婆やは納得してくれず、しまいに自分を連れて行かないのなら死んでやるとまで言ってきたのだ。
そこで婆やを納得させる為、私はありとあらゆる手段で訴えた。
『ルーズ』に1人で行くのは自立した大人になりたいからだとか、誰にも縛られない自由を満喫したいからだと訴えても、首を縦に振らない。
そこで最終的に、私について来るのなら一生婆やとは口をきかないと宣言したところでようやく納得してくれたのだった――
「ふぅ~……疲れたわ……」
婆やが部屋からいなくなると、着ていたパーティドレスを脱ぎ捨て普段着に着替えてベッドにゴロリと寝そべった。
「……寝心地の良いベッドだわ。私って、本当に贅沢な暮らしをしていたのね……」
目を閉じると少しだけ回想に浸る。
あの村での生活は慣れるまでが本当に大変だった。
この屋敷に比べて、ずっと粗末な家。初めてあの家を見た時は物置小屋では無いかと思ったくらいだ。
ベッドは粗末で寝心地は悪かったし、食べ物だってずっと貧しい物になってしまった。
何より侯爵令嬢だったはずなのに、慣れない畑仕事や家事をしなければならないことが屈辱でたまらなかった。
それでも高いプライドは捨てられず、親切にしてくれる『ルーズ』の村人たちに冷たい態度を取り続けてしまったのだ。
そして私は結局孤立してしまった――
「もう、あんな失態は二度としないんだから」
呟き、ベッドから起き上がると既に窓から見える空はいつの間にかオレンジ色に染まっている。
「え!? やだ! もうこんな時間なの!?」
部屋に置かれた時計を見れば、もう時刻は18時を過ぎている。
「困ったわ……今日は宝石を売りに行こうかと思っていたのに」
でもまぁ、ここを出て行くまで2日間の猶予はある。明日は早起きして行動すればいいだけのことだ。
「それじゃ、今は出来ることをしないとね」
気を取り直し、ベッドから降りると早速荷造りを始めた。
もう二度とここに戻ることは無いのだから、不要な物は全て処分しなければ。
その後、チェルシーが食事の時間を知らせに訪れるまで荷造りを続けた――
****
――19時
私は今、ダイニングルームで父と向かい合わせに座っていた。
「……」
目の前に並べられた食べきれないほどの豪華な食事に私は目を奪われていた。
数えただけで、12品並べられている。
「どうした? 食べないのか?」
父が不思議そうな顔を向ける。
「い、いえ。いただきます。どれも素晴らしく美味しそうですね」
早速肉料理から口にしてみたが、やはり味は絶品だった。
60年ぶりの食事を味わっていると、不意に父が躊躇いがちに話しかけてきた。
「オフィーリア。その……荷造りの方だが……」
「荷造りですか? 大丈夫です。順調に進んでいます。なるべく早くここを出て行けるように急ぎますから」
「い、いや! そ、そうか? 別に急ぐことも無いぞ? 2日の猶予をやると言ったが……もう少し延長してもいいのだぞ?」
「え?」
父の言葉に驚き、思わずじっと見つめる。
こんな展開は60年前には無かった。もしかして今回はあっさり私が追放処分を受け入れたせいだろうか?
だけど……。
「いいえ、大丈夫です。余り『ルーズ』行を引き延ばしては王室から目をつけられてしまうでしょうから。それに、恐らく私を2日以内に追い出すように命令されているのではありませんか?」
「そ、それは……」
父が明らかに狼狽えている。
やはりそうだったのか。あの時は私を愚図って1週間近く引き伸ばしてしまった。さぞかし、父に迷惑をかけてしまったに違いない。
「お父様を困らせるわけにはいきません。必ず2日以内にここを出て行きますからご安心下さい」
「……すまない。オフィーリア」
「お父様が謝ることはありません。全て私が自分で蒔いた種ですから。そんなことよりも今は食事を楽しみましょう」
「あ、ああ。……そうだな」
父は少し寂しげに笑った――
いくら言って聞かせても婆やは納得してくれず、しまいに自分を連れて行かないのなら死んでやるとまで言ってきたのだ。
そこで婆やを納得させる為、私はありとあらゆる手段で訴えた。
『ルーズ』に1人で行くのは自立した大人になりたいからだとか、誰にも縛られない自由を満喫したいからだと訴えても、首を縦に振らない。
そこで最終的に、私について来るのなら一生婆やとは口をきかないと宣言したところでようやく納得してくれたのだった――
「ふぅ~……疲れたわ……」
婆やが部屋からいなくなると、着ていたパーティドレスを脱ぎ捨て普段着に着替えてベッドにゴロリと寝そべった。
「……寝心地の良いベッドだわ。私って、本当に贅沢な暮らしをしていたのね……」
目を閉じると少しだけ回想に浸る。
あの村での生活は慣れるまでが本当に大変だった。
この屋敷に比べて、ずっと粗末な家。初めてあの家を見た時は物置小屋では無いかと思ったくらいだ。
ベッドは粗末で寝心地は悪かったし、食べ物だってずっと貧しい物になってしまった。
何より侯爵令嬢だったはずなのに、慣れない畑仕事や家事をしなければならないことが屈辱でたまらなかった。
それでも高いプライドは捨てられず、親切にしてくれる『ルーズ』の村人たちに冷たい態度を取り続けてしまったのだ。
そして私は結局孤立してしまった――
「もう、あんな失態は二度としないんだから」
呟き、ベッドから起き上がると既に窓から見える空はいつの間にかオレンジ色に染まっている。
「え!? やだ! もうこんな時間なの!?」
部屋に置かれた時計を見れば、もう時刻は18時を過ぎている。
「困ったわ……今日は宝石を売りに行こうかと思っていたのに」
でもまぁ、ここを出て行くまで2日間の猶予はある。明日は早起きして行動すればいいだけのことだ。
「それじゃ、今は出来ることをしないとね」
気を取り直し、ベッドから降りると早速荷造りを始めた。
もう二度とここに戻ることは無いのだから、不要な物は全て処分しなければ。
その後、チェルシーが食事の時間を知らせに訪れるまで荷造りを続けた――
****
――19時
私は今、ダイニングルームで父と向かい合わせに座っていた。
「……」
目の前に並べられた食べきれないほどの豪華な食事に私は目を奪われていた。
数えただけで、12品並べられている。
「どうした? 食べないのか?」
父が不思議そうな顔を向ける。
「い、いえ。いただきます。どれも素晴らしく美味しそうですね」
早速肉料理から口にしてみたが、やはり味は絶品だった。
60年ぶりの食事を味わっていると、不意に父が躊躇いがちに話しかけてきた。
「オフィーリア。その……荷造りの方だが……」
「荷造りですか? 大丈夫です。順調に進んでいます。なるべく早くここを出て行けるように急ぎますから」
「い、いや! そ、そうか? 別に急ぐことも無いぞ? 2日の猶予をやると言ったが……もう少し延長してもいいのだぞ?」
「え?」
父の言葉に驚き、思わずじっと見つめる。
こんな展開は60年前には無かった。もしかして今回はあっさり私が追放処分を受け入れたせいだろうか?
だけど……。
「いいえ、大丈夫です。余り『ルーズ』行を引き延ばしては王室から目をつけられてしまうでしょうから。それに、恐らく私を2日以内に追い出すように命令されているのではありませんか?」
「そ、それは……」
父が明らかに狼狽えている。
やはりそうだったのか。あの時は私を愚図って1週間近く引き伸ばしてしまった。さぞかし、父に迷惑をかけてしまったに違いない。
「お父様を困らせるわけにはいきません。必ず2日以内にここを出て行きますからご安心下さい」
「……すまない。オフィーリア」
「お父様が謝ることはありません。全て私が自分で蒔いた種ですから。そんなことよりも今は食事を楽しみましょう」
「あ、ああ。……そうだな」
父は少し寂しげに笑った――
220
お気に入りに追加
848
あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。
柊
恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。
婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる