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1章1 巻き戻った私
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目を開けた時、私はあの日に戻っていた。
真正面には、壇上で寄り添うように立っているアシルとソネットの姿がある。
アシルは憎悪の目を私に向け、ソネットは怯えた目で見つめている。
そして私を取り囲む、煌びやかな衣装を着た貴族たち。
「こ、これは……?」
この光景は見覚えがある。
何十年も昔の出来事。
呼ばれもしない、アシルとソネットの婚約披露パーティーで断罪されたあの日だ。
私は夢でも見ているのだろうか? それとも、今までの出来事が夢だったのだろうか?
「おい! 聞いているのか!? オフィーリア・ドヌーブ!」
ふいにアシルが私を指さし、怒鳴りつけてきた。
「あぁ……そうだわ。思い出した、この光景は……」
思わず呟きが洩れる。
次にアシルが私に言う台詞はもう分かっていた。
「オフィーリアッ! よくも俺たちの前に顔を出せたものだな! 貴様は聖女であるソネットに度々の嫌がらせをし、命の危機にまで晒した! よって今この場でドヌーブ家から除籍し、辺境の村『ルーズ』へ追放する! 二度とこの地に足を踏み入れることを断じて禁ずる!」
そうだ、間違いない。
アシルはここで私に追放を命じたのだ。あの懐かしい『ルーズ』の村へ……。
私の態度が気に入らなかったのか、アシルの叱責は続く。
「おい? 聞いているのか? ついに頭までおかしくなったか? まぁ、それも当然だろう。お前のように気位の高い女が、あんな辺境な村に追放されるのだからな。だが本来であれば聖女を殺めようとしたのだから、処刑されても当然の身なのだ。しかしソネットが、どうかお前の命だけは助けて下さいと訴えてきたのから追放処分だけで済んだのだぞ? 心優しいソネットに感謝することだな!」
勝ち誇ったように私を見おろすアシル。
確かに私はソネットに人を使って嫌がらせをしたが……そのどれもが、他愛無いものだった。
それに私ソネットを殺めようとしたことは断じて一度も無い。全くの濡れ衣だ。
けれどそんなことは、もうどうだっていい。
この時間、この場所に私は戻ってくることが出来たのだから。
嬉し過ぎて、断罪真っ最中だというのに顔が自然と笑顔になる。
「え……?」
アシルの顔に困惑の表情が浮かぶ。
「アシル様……」
笑顔のまま、アシルに話しかける。
「な、何だ?」
「はい! その断罪……承知いたしました!」
「はぁ!? 承知しただと!?」
「謹んで、『ルーズ』への追放処分をお受けいたします! 今まで大変申し訳ございませんでした。それでは皆様、ごきげんよう!」
身を翻し、私は出口に向かって駆けだした。
「え!? お、おい! オフィーリアッ!? 本当にお前はそれでいいのか!? 謝るなら今の内だぞ!」
アシルが何か喚いているが、そんなこともう知るものか。恐らく彼は私が無様に泣いて縋る姿を期待していたのだろう。
実際、前回の私は大勢の貴族たちがいる前で「どうか追放だけは許して下さい」と泣いて縋ったのだから。
けれどアシルは冷たい笑いを浮かべ、護衛兵士に命じて私をその場から無理やり追い出したのだ。
でも今の私は違う。
こんな貴族社会、こちらから願い下げだ。
今度こそ、私は追放先で幸せに暮らしていくのだから——!
真正面には、壇上で寄り添うように立っているアシルとソネットの姿がある。
アシルは憎悪の目を私に向け、ソネットは怯えた目で見つめている。
そして私を取り囲む、煌びやかな衣装を着た貴族たち。
「こ、これは……?」
この光景は見覚えがある。
何十年も昔の出来事。
呼ばれもしない、アシルとソネットの婚約披露パーティーで断罪されたあの日だ。
私は夢でも見ているのだろうか? それとも、今までの出来事が夢だったのだろうか?
「おい! 聞いているのか!? オフィーリア・ドヌーブ!」
ふいにアシルが私を指さし、怒鳴りつけてきた。
「あぁ……そうだわ。思い出した、この光景は……」
思わず呟きが洩れる。
次にアシルが私に言う台詞はもう分かっていた。
「オフィーリアッ! よくも俺たちの前に顔を出せたものだな! 貴様は聖女であるソネットに度々の嫌がらせをし、命の危機にまで晒した! よって今この場でドヌーブ家から除籍し、辺境の村『ルーズ』へ追放する! 二度とこの地に足を踏み入れることを断じて禁ずる!」
そうだ、間違いない。
アシルはここで私に追放を命じたのだ。あの懐かしい『ルーズ』の村へ……。
私の態度が気に入らなかったのか、アシルの叱責は続く。
「おい? 聞いているのか? ついに頭までおかしくなったか? まぁ、それも当然だろう。お前のように気位の高い女が、あんな辺境な村に追放されるのだからな。だが本来であれば聖女を殺めようとしたのだから、処刑されても当然の身なのだ。しかしソネットが、どうかお前の命だけは助けて下さいと訴えてきたのから追放処分だけで済んだのだぞ? 心優しいソネットに感謝することだな!」
勝ち誇ったように私を見おろすアシル。
確かに私はソネットに人を使って嫌がらせをしたが……そのどれもが、他愛無いものだった。
それに私ソネットを殺めようとしたことは断じて一度も無い。全くの濡れ衣だ。
けれどそんなことは、もうどうだっていい。
この時間、この場所に私は戻ってくることが出来たのだから。
嬉し過ぎて、断罪真っ最中だというのに顔が自然と笑顔になる。
「え……?」
アシルの顔に困惑の表情が浮かぶ。
「アシル様……」
笑顔のまま、アシルに話しかける。
「な、何だ?」
「はい! その断罪……承知いたしました!」
「はぁ!? 承知しただと!?」
「謹んで、『ルーズ』への追放処分をお受けいたします! 今まで大変申し訳ございませんでした。それでは皆様、ごきげんよう!」
身を翻し、私は出口に向かって駆けだした。
「え!? お、おい! オフィーリアッ!? 本当にお前はそれでいいのか!? 謝るなら今の内だぞ!」
アシルが何か喚いているが、そんなこともう知るものか。恐らく彼は私が無様に泣いて縋る姿を期待していたのだろう。
実際、前回の私は大勢の貴族たちがいる前で「どうか追放だけは許して下さい」と泣いて縋ったのだから。
けれどアシルは冷たい笑いを浮かべ、護衛兵士に命じて私をその場から無理やり追い出したのだ。
でも今の私は違う。
こんな貴族社会、こちらから願い下げだ。
今度こそ、私は追放先で幸せに暮らしていくのだから——!
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