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プロローグ 5
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『何故、彼女が伴侶になるのですか? アシル様には、私という婚約者がいるではありませんか! 大体陛下も婚約破棄など認めないのではありませんか!?』
私は将来王妃となるため、10年以上も血の滲むような努力をしてきたのだ。2年後にはアシルと結婚することになっていたのに、到底受け入れられるはずも無い。
するとアシルの口から衝撃的な話が飛び出した。
『お前は何も知らないのか? 彼女はこの国の聖女なのだ。父も俺とソネットの婚約を認めている。既に、お前の家にも婚約破棄の通達がいっているはずだぞ? 侯爵からも承諾を得ている』
『そ、そんな……』
父が婚約破棄を承諾した……? 私に一言も話をするまでもなく、勝手に話を進めるなんて……あり得ない!
唇を噛みしめたとき、アシルが不敵な笑みを浮かべた。
『おや、何だ? その顔は。もしかしてお前……本当に何も話を聞かされていなかったのか?』
『そう……です……』
嘘をついても仕方がない。俯きながら返事をすると、突然アシルが笑い出した。
『なるほど……ハッハッハッ! これは傑作だ! やはり、お前は所詮親にとってタダの道具だったというわけだな!』
『それは……一体、どういう意味でしょうか?』
馬鹿にしたような笑いをするアシルに対する怒りが込み上げてくる。
『決まっているだろう? お前は見捨てられたってことだよ』
『見捨てられた……?』
『ああ、そうだ。聖女とは、お前たち貴族よりもずっと尊い存在。王族が結婚するに最も相応しい相手なのだ。それが例えドヌーブ家のような名門であろうとな。だからこそ侯爵は反論することなく、婚約破棄をあっさり受け入れたのだ。お前に相談することも無く、それどころか事後報告すらせずにな。何しろお前と婚約破棄の手続きをしたのは10日も前のことなのだから』
その言葉に、自分の顔から血の気が引いていく。
10日も前に婚約破棄の手続きが完了していた? ああ……でも思い当たる節がある。考えてみれば、ここしばらく父の顔を見ていない。
これは……そういうことだったのだろうか?
『とにかく、お前との婚約は破棄された。分かったなら、さっさと帰れ。せいぜい、次の伴侶捜しでもすることだな』
アシルはシッシと手で追い払う素振りを見せた。
『!』
この私にそんな態度を取るなんて……しかも次の伴侶捜し? そんなこと出来るはずも無い。
私がいずれ王太子妃になることは、この国の貴族全員が知っていること。婚約破棄されたことで、私はキズ者になってしまった。誰が好き好んでそんな女を妻に娶る相手がいるだろう。
思わずアシルを睨みつけそうになり……グッと堪えた。
そうだ、私が憎むべき相手はアシルでは無い。何処の馬の骨とも分からないあの女のせいなのだ。
『分かりました……アシル様、それでは失礼いたします』
アシルに挨拶すると2人に背を向けて歩き始めると、背後で女性の声が聞こえてきた。
『アシル様……あんな言い方をしてよろしかったのですか? 仮にも婚約者だった方ですよね?』
『そうだよ? だが、ソネット。君が気にすることでは無い。俺はあの女との婚姻が気に入らなかったのだ。生意気な態度で、いつも人を見下しているような嫌な女だからな。それよりお茶の時間にしよう……』
超えは徐々に遠ざかっていき……やがて完全に聞こえなくなった。
足を止めて振り返ると、通路の奥にでも消えたのか、姿が見えない。
『何よ……あれ……私の前では一言も口を聞かなかったのに……人のことを馬鹿にして……!』
けれど陛下も父も婚約破棄を認めてしまったということは、もう覆すことなど出来ない。
酷い……酷すぎる。
婚約破棄ではなく、せめて婚約解消という形にしてくれればまだ救いはあったのに……。
『フフ……でも、それは難しい話よね。婚約解消を持ち掛けても、私が納得するはず無いと思ったから……勝手に婚約破棄という形を取ったのでしょうね』
けれど、これではプライドはズタズタだ。
侯爵令嬢であり、王太子妃になるはずだった私をこんな目に遭わせるなんて……。
憎むべき相手は、あのソネットという女だ。
彼女さえ現れなければ、私は婚約破棄という屈辱を味合わずに済んだのだから。
『許せない……このままでは絶対に済ませないわ……覚えていなさい……!』
決意を胸に、私は城を後にした——
私は将来王妃となるため、10年以上も血の滲むような努力をしてきたのだ。2年後にはアシルと結婚することになっていたのに、到底受け入れられるはずも無い。
するとアシルの口から衝撃的な話が飛び出した。
『お前は何も知らないのか? 彼女はこの国の聖女なのだ。父も俺とソネットの婚約を認めている。既に、お前の家にも婚約破棄の通達がいっているはずだぞ? 侯爵からも承諾を得ている』
『そ、そんな……』
父が婚約破棄を承諾した……? 私に一言も話をするまでもなく、勝手に話を進めるなんて……あり得ない!
唇を噛みしめたとき、アシルが不敵な笑みを浮かべた。
『おや、何だ? その顔は。もしかしてお前……本当に何も話を聞かされていなかったのか?』
『そう……です……』
嘘をついても仕方がない。俯きながら返事をすると、突然アシルが笑い出した。
『なるほど……ハッハッハッ! これは傑作だ! やはり、お前は所詮親にとってタダの道具だったというわけだな!』
『それは……一体、どういう意味でしょうか?』
馬鹿にしたような笑いをするアシルに対する怒りが込み上げてくる。
『決まっているだろう? お前は見捨てられたってことだよ』
『見捨てられた……?』
『ああ、そうだ。聖女とは、お前たち貴族よりもずっと尊い存在。王族が結婚するに最も相応しい相手なのだ。それが例えドヌーブ家のような名門であろうとな。だからこそ侯爵は反論することなく、婚約破棄をあっさり受け入れたのだ。お前に相談することも無く、それどころか事後報告すらせずにな。何しろお前と婚約破棄の手続きをしたのは10日も前のことなのだから』
その言葉に、自分の顔から血の気が引いていく。
10日も前に婚約破棄の手続きが完了していた? ああ……でも思い当たる節がある。考えてみれば、ここしばらく父の顔を見ていない。
これは……そういうことだったのだろうか?
『とにかく、お前との婚約は破棄された。分かったなら、さっさと帰れ。せいぜい、次の伴侶捜しでもすることだな』
アシルはシッシと手で追い払う素振りを見せた。
『!』
この私にそんな態度を取るなんて……しかも次の伴侶捜し? そんなこと出来るはずも無い。
私がいずれ王太子妃になることは、この国の貴族全員が知っていること。婚約破棄されたことで、私はキズ者になってしまった。誰が好き好んでそんな女を妻に娶る相手がいるだろう。
思わずアシルを睨みつけそうになり……グッと堪えた。
そうだ、私が憎むべき相手はアシルでは無い。何処の馬の骨とも分からないあの女のせいなのだ。
『分かりました……アシル様、それでは失礼いたします』
アシルに挨拶すると2人に背を向けて歩き始めると、背後で女性の声が聞こえてきた。
『アシル様……あんな言い方をしてよろしかったのですか? 仮にも婚約者だった方ですよね?』
『そうだよ? だが、ソネット。君が気にすることでは無い。俺はあの女との婚姻が気に入らなかったのだ。生意気な態度で、いつも人を見下しているような嫌な女だからな。それよりお茶の時間にしよう……』
超えは徐々に遠ざかっていき……やがて完全に聞こえなくなった。
足を止めて振り返ると、通路の奥にでも消えたのか、姿が見えない。
『何よ……あれ……私の前では一言も口を聞かなかったのに……人のことを馬鹿にして……!』
けれど陛下も父も婚約破棄を認めてしまったということは、もう覆すことなど出来ない。
酷い……酷すぎる。
婚約破棄ではなく、せめて婚約解消という形にしてくれればまだ救いはあったのに……。
『フフ……でも、それは難しい話よね。婚約解消を持ち掛けても、私が納得するはず無いと思ったから……勝手に婚約破棄という形を取ったのでしょうね』
けれど、これではプライドはズタズタだ。
侯爵令嬢であり、王太子妃になるはずだった私をこんな目に遭わせるなんて……。
憎むべき相手は、あのソネットという女だ。
彼女さえ現れなければ、私は婚約破棄という屈辱を味合わずに済んだのだから。
『許せない……このままでは絶対に済ませないわ……覚えていなさい……!』
決意を胸に、私は城を後にした——
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