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53話 姉と妹、そして彼
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馬車がフォード家に到着し、扉が開かれた。
「オリビエ様、到着いたしましたよ。どうです? 所要時間10分の短縮に成功しました……ええっ!? どうなさったのです!?」
オリビエの様子は酷い有様だった。髪は乱れ、疲れ切った様子で椅子に座っている姿に驚くテッド。
「オリビエ様! 大丈夫ですか!?」
「無事に着いたのね……よ、良かったわ……」
青ざめた顔でオリビエは返事をすると、テッドはぺこぺこと頭を下げて必死に謝罪する。
「申し訳ございません! つい、調子に乗ってスピードを出し過ぎてしまいました。本当に何とお詫びすれば良いか……!」
「い、いいのよ。元々スピードを上げてと言ったのは私の方だから……」
けれどオリビエの脳裏に先程の恐怖の時間が蘇る。
まるで舌を噛むのではないかと思われる勢いでガタガタと走る馬車。途中、何度も椅子から身体がフワリと浮き上がり、ドスンと落ちて身体に振動が響く。揺れが激し過ぎて身体が左右に揺さぶられ、何度か壁に頭を打ち付けてまったときもある。
「誠に申し訳ございません……」
テッドはすっかり落ち込んでいる。
「本当に私のことなら気にしないで大丈夫よ。だってあなたのおかげでギスランよりも早く屋敷に帰って来ることが出来たのだから」
「あ、そういえば来る途中に。 馬車を1台抜かしていきました。御者の男はギョッとした様子でこちらを見ていましたっけ。きっとあの馬車がそうだったのですよ! 恐らく俺の馬車テクニックに恐れおののいたのでしょうねぇ」
得意げに胸をそらせるテッド。
しかし、彼は知らない。御者が驚いたのは確かだが、馬車テクニックではなくテッドの発する奇声に恐れおののいていたと言う事実を。
「何はともあれギスランより早く着いたことはお礼を言うわ。ありがとう、テッド」
「お褒め頂き、ありがとうございます。ではまた同じような速度で今後も馬車を走らせても良いでしょうか?」
テッドはあの風を切って走る爽快感が病みつきになっていたのだ。
「それは却下よ!」
「はい……そうですよね」
シュンとするテッド。
「そういうことは、誰も乗せない馬車でやって頂戴ね」
「はい、オリビエ様!」
オリビエは馬車を降りると、テッドに見守られながら屋敷の中へ入っていった。
**
「はぁ~……それにしても怖かったわ。今も生きているのが不思議なくらいね」
馬車の中で足を踏ん張り、手すりに必死でしがみついて耐え忍んでいたせいで全身が疲れ切っていた。
膝は今もかくかく震えている。
「テッドが手綱を握りしめると別人に変わるとは思いもしなかったわ」
よろめきながら自室へ向かって廊下を歩いていると、突然背後から大きな声で怒鳴られた。
「ちょっと! オリビエッ!」
その声は……。
オリビエの口元に笑みが浮かぶ。
「あら、何かしら。シャロン?」
笑顔のまま振り向くと、怒りの形相のシャロンが睨みつけていた。
「何かしらじゃないわよ! 随分今日は帰りが遅かったじゃないの! 一体どこで何をしていたのさ! 大体何で笑ってるのよ!」
ビシッと指さすシャロン。
「大学へ行ってきたに決まっているでしょう? そんなことよりもシャロン。まずは姉である私に言うことは無いのかしら?」
「は? あんたに何を言うって?」
「まずは、『お姉様、お帰りなさいませ』と言うのが道理でしょう?」
「はぁ? 何であんたごときにそんなこと言わなくちゃならないのよ! この家のお荷物のくせに!」
「ふ~ん……まだそんなことを言うのね。本当に頭の弱い子ね」
ふてくされて部屋に籠っていたシャロンは今日で、オリビエの立場が大きく変わった事に何も気づいていない。
「な、何ですって! そんなことよりオリビエッ! あの男のことで話があるのよ! 今日私がどれだけ大変だったか分かる!?」
シャロンが叫んだそのとき。
「シャロン様っ! ギスラン様がお見舞いにいらっしゃいました!」
駆けつけてきたフットマンの声が廊下に響き渡った——
「オリビエ様、到着いたしましたよ。どうです? 所要時間10分の短縮に成功しました……ええっ!? どうなさったのです!?」
オリビエの様子は酷い有様だった。髪は乱れ、疲れ切った様子で椅子に座っている姿に驚くテッド。
「オリビエ様! 大丈夫ですか!?」
「無事に着いたのね……よ、良かったわ……」
青ざめた顔でオリビエは返事をすると、テッドはぺこぺこと頭を下げて必死に謝罪する。
「申し訳ございません! つい、調子に乗ってスピードを出し過ぎてしまいました。本当に何とお詫びすれば良いか……!」
「い、いいのよ。元々スピードを上げてと言ったのは私の方だから……」
けれどオリビエの脳裏に先程の恐怖の時間が蘇る。
まるで舌を噛むのではないかと思われる勢いでガタガタと走る馬車。途中、何度も椅子から身体がフワリと浮き上がり、ドスンと落ちて身体に振動が響く。揺れが激し過ぎて身体が左右に揺さぶられ、何度か壁に頭を打ち付けてまったときもある。
「誠に申し訳ございません……」
テッドはすっかり落ち込んでいる。
「本当に私のことなら気にしないで大丈夫よ。だってあなたのおかげでギスランよりも早く屋敷に帰って来ることが出来たのだから」
「あ、そういえば来る途中に。 馬車を1台抜かしていきました。御者の男はギョッとした様子でこちらを見ていましたっけ。きっとあの馬車がそうだったのですよ! 恐らく俺の馬車テクニックに恐れおののいたのでしょうねぇ」
得意げに胸をそらせるテッド。
しかし、彼は知らない。御者が驚いたのは確かだが、馬車テクニックではなくテッドの発する奇声に恐れおののいていたと言う事実を。
「何はともあれギスランより早く着いたことはお礼を言うわ。ありがとう、テッド」
「お褒め頂き、ありがとうございます。ではまた同じような速度で今後も馬車を走らせても良いでしょうか?」
テッドはあの風を切って走る爽快感が病みつきになっていたのだ。
「それは却下よ!」
「はい……そうですよね」
シュンとするテッド。
「そういうことは、誰も乗せない馬車でやって頂戴ね」
「はい、オリビエ様!」
オリビエは馬車を降りると、テッドに見守られながら屋敷の中へ入っていった。
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「はぁ~……それにしても怖かったわ。今も生きているのが不思議なくらいね」
馬車の中で足を踏ん張り、手すりに必死でしがみついて耐え忍んでいたせいで全身が疲れ切っていた。
膝は今もかくかく震えている。
「テッドが手綱を握りしめると別人に変わるとは思いもしなかったわ」
よろめきながら自室へ向かって廊下を歩いていると、突然背後から大きな声で怒鳴られた。
「ちょっと! オリビエッ!」
その声は……。
オリビエの口元に笑みが浮かぶ。
「あら、何かしら。シャロン?」
笑顔のまま振り向くと、怒りの形相のシャロンが睨みつけていた。
「何かしらじゃないわよ! 随分今日は帰りが遅かったじゃないの! 一体どこで何をしていたのさ! 大体何で笑ってるのよ!」
ビシッと指さすシャロン。
「大学へ行ってきたに決まっているでしょう? そんなことよりもシャロン。まずは姉である私に言うことは無いのかしら?」
「は? あんたに何を言うって?」
「まずは、『お姉様、お帰りなさいませ』と言うのが道理でしょう?」
「はぁ? 何であんたごときにそんなこと言わなくちゃならないのよ! この家のお荷物のくせに!」
「ふ~ん……まだそんなことを言うのね。本当に頭の弱い子ね」
ふてくされて部屋に籠っていたシャロンは今日で、オリビエの立場が大きく変わった事に何も気づいていない。
「な、何ですって! そんなことよりオリビエッ! あの男のことで話があるのよ! 今日私がどれだけ大変だったか分かる!?」
シャロンが叫んだそのとき。
「シャロン様っ! ギスラン様がお見舞いにいらっしゃいました!」
駆けつけてきたフットマンの声が廊下に響き渡った——
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