45 / 79
45話 悪女、アデリーナ
しおりを挟む
それは昼休みのことだった。
親友のエレナが今日は婚約者のカールと昼食をとるということで、オリビエは1人でカフェテリアへ向かうため、他の学生たちに混じって渡り廊下を歩いていた。
中庭近くに差し掛かったとき、大勢の学生たちが集まって何やら騒いでる様子に気付いた。
(一体何を騒いでいるのかしら)
少し気になったが、そのまま通り過ぎようとしたとき学生たちの会話が耳に入ってきた。
「またアデリーナ様とディートリッヒ様か」
「本当に騒ぎを起こすのが好きな方ね。さすがは悪女だわ」
「でも、あれじゃ文句の一つも言いたくなるだろう」
「え!? アデリーナ様!?」
オリビエが反応したのは言うまでもない。
「すみません! ちょっと通して下さい!」
群衆に駆け寄り、人混みをかき分け……目を見開いた。
そこには例の如く、ディートリッヒと対峙するアデリーナの姿だった。当然ディートリッヒの傍にはサンドラがいる。
そしてディートリッヒはいつものようにアデリーナを怒鳴りつけていた。
「いい加減にしろ! アデリーナッ! 毎回毎回、俺達の後を付回して! 言っておくが、今度の後夜祭のダンスパートナーの相手はお前じゃない! ここにいるサンドラと決めているからな! いくら頼んでも無駄だ! 覚えておけ!」
「は? 何を仰っているのですか? 私がディートリッヒ様の前に現れたのは、まさか後夜祭のパートナーになって欲しいと頼みに来たとでも思っていたのですか?」
両手で肘を抱えるアデリーナは鼻で笑う。
「何だよ。違うっていうのか?」
「ええ、違いますね。大体ディートリッヒ様が私のパートナーになるなんて冗談じゃありません。こちらから願い下げです」
「……はぁっ!? な、何だとっ! 今、お前俺に何て言った!?」
「もう一度言わなけれなりませんか? 仕方ありませんね……では、もう一度言って差し上げましょう。ディートリッヒ様と一緒に後夜祭に行くぐらいなら、カカシを連れて参加したほうがマシですわ」
すると周囲の学生たちが一斉にざわめく。
「おい、聞いたか?」
「まぁ、カカシですって?」
「よもや、人ではないじゃないか」
「お、おかしすぎる……」
「アデリーナ様……」
オリビエも驚きの眼差しでアデリーナを見つめていた。
「アデリーナッ! よりにもよってカカシの方がマシだと!? お前、一体なんてことを言うのだ! 冗談でも許さないぞ!」
ディートリッヒは怒りで体をブルブル震わせてアデリーナを指さした。
「別にこんなこと、冗談で言うと思っていますか? 本気ですけど?」
「そ、そうか。分かったぞ。アデリーナ、お前……俺に嫉妬させるつもりでそんなこと言ってるんだな? だが、そんな手にこの俺が乗ると思うなよ!? どうしても俺と後夜祭に参加したいと思うなら、『どうか私のパートナーになって下さい』とたのんでみたらどうだ? そうすれば場合によっては考え直してやらないこともないぞ? どうだ?」
勝ち誇ったかの様子を見せるディートリッヒだが、サンドラは驚きで目を見張る。
「え? ディートリッヒ様? 私がパートナーですよね?」
しかしディートリッヒはサンドラの言葉に耳を課さずに勝ち誇ったかの様子でアデリーナを見つめる。
「は? 先程から何を仰っているのですか? 冗談は顔だけにしていただけますか?」
「なんだと! さっきから下でにでていればいい気になりやがって!」
「私が会いたくもない、貴方の前に現れたのには理由があります!」
アデリーナはポケットに手を入れると、いきなりディートリッヒに向かって投げつけた。
パシッ!
ディートリッヒの身体にあたって、軽い音を立てて落ちたものは白い布のような物だった。
「おい! 一体俺に何を投げつけて……え?」
地面に落ちた物を拾い上げた、ディートリッヒの顔色が変わる。
「何あれ……?」
「い、一体何投げたんだよ」
「あれは……白い手袋だ!」
周囲のざわめきがより一層大きくなる。
そう、アデリーナが投げつけたのは白い手袋だったのだ。
「私が今日ディートリッヒ様の前に現れたのは、貴方に決闘を申し込むためです! ディートリッヒ様! 私と勝負しなさい!」
アデリーナの声が辺りに響き渡った――
親友のエレナが今日は婚約者のカールと昼食をとるということで、オリビエは1人でカフェテリアへ向かうため、他の学生たちに混じって渡り廊下を歩いていた。
中庭近くに差し掛かったとき、大勢の学生たちが集まって何やら騒いでる様子に気付いた。
(一体何を騒いでいるのかしら)
少し気になったが、そのまま通り過ぎようとしたとき学生たちの会話が耳に入ってきた。
「またアデリーナ様とディートリッヒ様か」
「本当に騒ぎを起こすのが好きな方ね。さすがは悪女だわ」
「でも、あれじゃ文句の一つも言いたくなるだろう」
「え!? アデリーナ様!?」
オリビエが反応したのは言うまでもない。
「すみません! ちょっと通して下さい!」
群衆に駆け寄り、人混みをかき分け……目を見開いた。
そこには例の如く、ディートリッヒと対峙するアデリーナの姿だった。当然ディートリッヒの傍にはサンドラがいる。
そしてディートリッヒはいつものようにアデリーナを怒鳴りつけていた。
「いい加減にしろ! アデリーナッ! 毎回毎回、俺達の後を付回して! 言っておくが、今度の後夜祭のダンスパートナーの相手はお前じゃない! ここにいるサンドラと決めているからな! いくら頼んでも無駄だ! 覚えておけ!」
「は? 何を仰っているのですか? 私がディートリッヒ様の前に現れたのは、まさか後夜祭のパートナーになって欲しいと頼みに来たとでも思っていたのですか?」
両手で肘を抱えるアデリーナは鼻で笑う。
「何だよ。違うっていうのか?」
「ええ、違いますね。大体ディートリッヒ様が私のパートナーになるなんて冗談じゃありません。こちらから願い下げです」
「……はぁっ!? な、何だとっ! 今、お前俺に何て言った!?」
「もう一度言わなけれなりませんか? 仕方ありませんね……では、もう一度言って差し上げましょう。ディートリッヒ様と一緒に後夜祭に行くぐらいなら、カカシを連れて参加したほうがマシですわ」
すると周囲の学生たちが一斉にざわめく。
「おい、聞いたか?」
「まぁ、カカシですって?」
「よもや、人ではないじゃないか」
「お、おかしすぎる……」
「アデリーナ様……」
オリビエも驚きの眼差しでアデリーナを見つめていた。
「アデリーナッ! よりにもよってカカシの方がマシだと!? お前、一体なんてことを言うのだ! 冗談でも許さないぞ!」
ディートリッヒは怒りで体をブルブル震わせてアデリーナを指さした。
「別にこんなこと、冗談で言うと思っていますか? 本気ですけど?」
「そ、そうか。分かったぞ。アデリーナ、お前……俺に嫉妬させるつもりでそんなこと言ってるんだな? だが、そんな手にこの俺が乗ると思うなよ!? どうしても俺と後夜祭に参加したいと思うなら、『どうか私のパートナーになって下さい』とたのんでみたらどうだ? そうすれば場合によっては考え直してやらないこともないぞ? どうだ?」
勝ち誇ったかの様子を見せるディートリッヒだが、サンドラは驚きで目を見張る。
「え? ディートリッヒ様? 私がパートナーですよね?」
しかしディートリッヒはサンドラの言葉に耳を課さずに勝ち誇ったかの様子でアデリーナを見つめる。
「は? 先程から何を仰っているのですか? 冗談は顔だけにしていただけますか?」
「なんだと! さっきから下でにでていればいい気になりやがって!」
「私が会いたくもない、貴方の前に現れたのには理由があります!」
アデリーナはポケットに手を入れると、いきなりディートリッヒに向かって投げつけた。
パシッ!
ディートリッヒの身体にあたって、軽い音を立てて落ちたものは白い布のような物だった。
「おい! 一体俺に何を投げつけて……え?」
地面に落ちた物を拾い上げた、ディートリッヒの顔色が変わる。
「何あれ……?」
「い、一体何投げたんだよ」
「あれは……白い手袋だ!」
周囲のざわめきがより一層大きくなる。
そう、アデリーナが投げつけたのは白い手袋だったのだ。
「私が今日ディートリッヒ様の前に現れたのは、貴方に決闘を申し込むためです! ディートリッヒ様! 私と勝負しなさい!」
アデリーナの声が辺りに響き渡った――
1,465
お気に入りに追加
3,569
あなたにおすすめの小説
今世は好きにできるんだ
朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。
鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!?
やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・
なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!!
ルイーズは微笑んだ。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
王妃はわたくしですよ
朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。
隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。
「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」
『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。
妹がいらないと言った婚約者は最高でした
朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。
息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。
わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる