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43話 頼んでも無駄
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—―翌朝
静かなダイニングルームに向かい合わせで座るランドルフとオリビエは無言で食事をしていた。
ランドルフは先ほどからチラチラとオリビエの様子を伺っている。娘に話しかけるタイミングを計っているのだが、オリビエは視線を合わせる事すらしない。何とか会話の糸口をつかみたいランドルフは、そこで咳払いした。
「ゴ、ゴホン!」
「……」
しかし、オリビエは気にする素振りも無く食事を続けている。ついに我慢できず、ランドルフは声をかけた。
「オ、オリビエッ!」
「……はい、何でしょう」
顔を上げるオリビエ。
「どうだ? オリビエ。今朝の朝食はお前の好きな料理を用意したのだが……美味しいかね?」
「はい、美味しいです。ですがこのボイルエッグも、ブルーベリーのマフィンにグリーンスープはシャロンの好きなメニューではありませんか?」
「何? そうだったか?」
「ええ、そうです。私は卵料理なら、オムレツ。ブルーベリーのスコーンに、オニオンスープが好きです。尤も、一度もお父様に自分の好きな料理を聞かれたことはありませんので、ご存じありませんよね?」
「そ、そうか……それはすまなかったな」
途端にしおらしくなるランドルフ。
「いえ、私は何も気にしておりませんので謝る必要はありません。それにどの料理も全て美味しいですから」
「本当か? なら良かった。だが、オリビエ。今回の件で私は良く分かった。この屋敷の中で、まともな家族はお前だけだということをな。今まで蔑ろにしてきた私を許してくれるか? これからは心を入れ替えて、お前を尊重すると約束しよう」
「はぁ……」
オリビエは呆れた様子で父親の話を聞いていた。
(一体今更何を言っているのかしら? 生まれてからずっと、私の存在を無視してきたくせに。もうこれ以上話を聞いていられないわ。丁度食事も終わった事だし、退席しましょう)
「お父様。食事もおわりましたし、これから大学へ行くのでお先に失礼します」
椅子を引いて席を立ったところで、ランドルフが呼び止める。
「ちょっと待ってくれ! オリビエッ!」
「何でしょうか? まだ何かありますか?」
内心辟易しながら返事をするオリビエ。
「ああ、ある。昨夜の件の続きだが……頼むオリビエ! この間お前が食事してきた店を教えてくれ! この通りだ! 最近新聞社から、催促されているのだ! 若い世代に人気の定番料理に関するコラムを書いて欲しいと! 取材に行き詰って困っていたのだ。私を助けると思って頼む!」
ランドルフはあろうことか、テーブルに頭をこすりつけて頼んできた。
そんな様子のランドルフを露骨に嫌そうな目で見つめた。
「お父様。どうか、顔を上げてください」
「それじゃ、教えてくれるのだな?」
顔を上げたランドルフは笑みを浮かべる。
「いいえ、お断りです」
「何故だ!?」
「ライバル店からお金を貰って、酷評した記事を書いて店を潰すようなお父様は信頼できません。何とお願いされようと教えません。無駄なことはもうおやめください。それでは失礼いたします」
オリビエはにっこり笑うと、呆然とするランドルフを残してダイニングルームを後にした……。
廊下を歩くオリビエは最高に気分が良かった。
「これでもうお父様は私から店を聞き出そうとするのはやめるはずだわ。いい加減な記事を書くような人に、マックスのお店を教えるわけにはいかないもの。早速、今日のことをアデリーナ様に報告しなくちゃ」
これで少しは憧れのアデリーナに一歩近付くことが出来たと、オリビエは思っていた。
しかしこの後。
オリビエは更なるアデリーナの凄さを目の当たりにするのだった――
静かなダイニングルームに向かい合わせで座るランドルフとオリビエは無言で食事をしていた。
ランドルフは先ほどからチラチラとオリビエの様子を伺っている。娘に話しかけるタイミングを計っているのだが、オリビエは視線を合わせる事すらしない。何とか会話の糸口をつかみたいランドルフは、そこで咳払いした。
「ゴ、ゴホン!」
「……」
しかし、オリビエは気にする素振りも無く食事を続けている。ついに我慢できず、ランドルフは声をかけた。
「オ、オリビエッ!」
「……はい、何でしょう」
顔を上げるオリビエ。
「どうだ? オリビエ。今朝の朝食はお前の好きな料理を用意したのだが……美味しいかね?」
「はい、美味しいです。ですがこのボイルエッグも、ブルーベリーのマフィンにグリーンスープはシャロンの好きなメニューではありませんか?」
「何? そうだったか?」
「ええ、そうです。私は卵料理なら、オムレツ。ブルーベリーのスコーンに、オニオンスープが好きです。尤も、一度もお父様に自分の好きな料理を聞かれたことはありませんので、ご存じありませんよね?」
「そ、そうか……それはすまなかったな」
途端にしおらしくなるランドルフ。
「いえ、私は何も気にしておりませんので謝る必要はありません。それにどの料理も全て美味しいですから」
「本当か? なら良かった。だが、オリビエ。今回の件で私は良く分かった。この屋敷の中で、まともな家族はお前だけだということをな。今まで蔑ろにしてきた私を許してくれるか? これからは心を入れ替えて、お前を尊重すると約束しよう」
「はぁ……」
オリビエは呆れた様子で父親の話を聞いていた。
(一体今更何を言っているのかしら? 生まれてからずっと、私の存在を無視してきたくせに。もうこれ以上話を聞いていられないわ。丁度食事も終わった事だし、退席しましょう)
「お父様。食事もおわりましたし、これから大学へ行くのでお先に失礼します」
椅子を引いて席を立ったところで、ランドルフが呼び止める。
「ちょっと待ってくれ! オリビエッ!」
「何でしょうか? まだ何かありますか?」
内心辟易しながら返事をするオリビエ。
「ああ、ある。昨夜の件の続きだが……頼むオリビエ! この間お前が食事してきた店を教えてくれ! この通りだ! 最近新聞社から、催促されているのだ! 若い世代に人気の定番料理に関するコラムを書いて欲しいと! 取材に行き詰って困っていたのだ。私を助けると思って頼む!」
ランドルフはあろうことか、テーブルに頭をこすりつけて頼んできた。
そんな様子のランドルフを露骨に嫌そうな目で見つめた。
「お父様。どうか、顔を上げてください」
「それじゃ、教えてくれるのだな?」
顔を上げたランドルフは笑みを浮かべる。
「いいえ、お断りです」
「何故だ!?」
「ライバル店からお金を貰って、酷評した記事を書いて店を潰すようなお父様は信頼できません。何とお願いされようと教えません。無駄なことはもうおやめください。それでは失礼いたします」
オリビエはにっこり笑うと、呆然とするランドルフを残してダイニングルームを後にした……。
廊下を歩くオリビエは最高に気分が良かった。
「これでもうお父様は私から店を聞き出そうとするのはやめるはずだわ。いい加減な記事を書くような人に、マックスのお店を教えるわけにはいかないもの。早速、今日のことをアデリーナ様に報告しなくちゃ」
これで少しは憧れのアデリーナに一歩近付くことが出来たと、オリビエは思っていた。
しかしこの後。
オリビエは更なるアデリーナの凄さを目の当たりにするのだった――
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