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36話 心配する人達
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午後の授業が行われる教室に行ってみると、既にエレナが待っていた。
「オリビエ! やっと戻って来たのね? とても心配したのだから!」
「ごめんなさい、エレナには迷惑をかけてしまったわね」
オリビエはエレナの隣の席に座った。
「迷惑かけられたなんて思ってはいないけど……怪我の具合は大丈夫なの? 痛む?」
包帯を巻いたオリビエの手を心配そうに見つめるエレナ。
「怪我した直後は痛かったけど、でももう平気よ。これはね、アデリーナ様が手当てしくれたのよ?」
「オリビエ……わざと怪我をしたのは、アデリーナ様を助ける為でしょう?」
「ええ、そうよ。名誉の負傷よ」
嬉しそうにオリビエは頷く。
「どうしてそこまでしてアデリーナ様を庇ったの? 傷跡が残ったらどうするつもりよ? ギスランと結婚するっていうのに」
貴族令嬢は結婚するにあたり、綺麗な手が好まれる。荒れた手や傷がある令嬢は敬遠されがちなのだ。
「エレナ、心配してくれてありがとう。でもギスランは私には何の興味も無いし、私も彼のことはもうどうでもいいのよ。結婚だけが全てじゃないと思っているし。職業婦人として、自立した女性を目指すのも素敵じゃない?」
「オリビエ……」
「そんなことよりも、あの後ディートリッヒ様とサンドラさんはどうなったのかしら?」
「あ、そのことだけどね。面白いことになってきたわ。今まではアデリーナ様は周囲から悪女のイメージとして見られていたけど、今回のことでディートリッヒ様が非難されはじめてきたのよ。やっぱり女性に手を上げようとしたことが問題だったのかもしれないわ。婚約者がいる男性と親しくしているサンドラさんもね。それだけじゃないわ。アデリーナ様が怪我したオリビエに真っ先に駆け寄ったのも好感度アップにつながったみたいよ
「そうだったのね……」
エレナの話を聞きながらオリビエは思った。
ひょっとすると、アデリーナはわざと大勢の人の目がある場所でディートリッヒを煽ったのではないだろうか——と。
****
本日全ての授業が終わり、エレナと別れたオリビエは馬繋場へ向かって歩いていた。
窓の外は、相変わらずの雨で一向に止む気配が無い。
「そう言えば、彼は大丈夫だったかしら……風邪引いていなければいいけど」
彼とは、勿論御者のことである。
口では色々脅したものの、やはりオリビエは心配していたのだ。土砂降りの雨の中、馬車を出させてしまい、申し訳ないと思っていた。
「帰りの迎えは断るべきだったかしら」
そのとき。
ドンッ!
余所見をしながら歩いていたオリビエは前方にいた人に気付かず、ぶつかってしまった。
「わ!」
「キャッ!」
同時に声をあげ、オリビエは慌てて頭を下げて謝った。
「す、すみません!」
すると……。
「あれ? 誰かと思えば……オリビエじゃないか」
「え?」
顔を上げると、驚いたことにぶつかった相手はマックスだった。
「マックス!?」
「今日は良く会う日だな……もしかして、オリビエも馬繋場へ行くところか?」
「ええ、今からよ」
「それは奇遇だ。だったら一緒に行こう」
「そうね、行きましょう」
特に断る理由も無いので、オリビエは頷いたそのとき。
「オリビエ、一体その手……一体どうしたんだ? 今朝会った時は怪我なんかしていなかったじゃないか!」
オリビエの手に巻かれた包帯を見て、目を見開くマックス。
「あ、これね……。ちょっと昼休みにカフェテリアでグラスを割って手を汚してしまったの」
「そう言えば、今日そんな話を聞いたな。カフェテリアで男女トラブルがあって女性が、平手打ちにされそうになったとき、女子学生が食器を割ったことで中断されたって……まさか、それってオリビエのことだったのか!?」
「ええ、そのまさかよ」
「何故、そんなことになったんだよ?」
マックスが眉そひそめる。
「実はね……」
オリビエは彼に理由を説明した――
「オリビエ! やっと戻って来たのね? とても心配したのだから!」
「ごめんなさい、エレナには迷惑をかけてしまったわね」
オリビエはエレナの隣の席に座った。
「迷惑かけられたなんて思ってはいないけど……怪我の具合は大丈夫なの? 痛む?」
包帯を巻いたオリビエの手を心配そうに見つめるエレナ。
「怪我した直後は痛かったけど、でももう平気よ。これはね、アデリーナ様が手当てしくれたのよ?」
「オリビエ……わざと怪我をしたのは、アデリーナ様を助ける為でしょう?」
「ええ、そうよ。名誉の負傷よ」
嬉しそうにオリビエは頷く。
「どうしてそこまでしてアデリーナ様を庇ったの? 傷跡が残ったらどうするつもりよ? ギスランと結婚するっていうのに」
貴族令嬢は結婚するにあたり、綺麗な手が好まれる。荒れた手や傷がある令嬢は敬遠されがちなのだ。
「エレナ、心配してくれてありがとう。でもギスランは私には何の興味も無いし、私も彼のことはもうどうでもいいのよ。結婚だけが全てじゃないと思っているし。職業婦人として、自立した女性を目指すのも素敵じゃない?」
「オリビエ……」
「そんなことよりも、あの後ディートリッヒ様とサンドラさんはどうなったのかしら?」
「あ、そのことだけどね。面白いことになってきたわ。今まではアデリーナ様は周囲から悪女のイメージとして見られていたけど、今回のことでディートリッヒ様が非難されはじめてきたのよ。やっぱり女性に手を上げようとしたことが問題だったのかもしれないわ。婚約者がいる男性と親しくしているサンドラさんもね。それだけじゃないわ。アデリーナ様が怪我したオリビエに真っ先に駆け寄ったのも好感度アップにつながったみたいよ
「そうだったのね……」
エレナの話を聞きながらオリビエは思った。
ひょっとすると、アデリーナはわざと大勢の人の目がある場所でディートリッヒを煽ったのではないだろうか——と。
****
本日全ての授業が終わり、エレナと別れたオリビエは馬繋場へ向かって歩いていた。
窓の外は、相変わらずの雨で一向に止む気配が無い。
「そう言えば、彼は大丈夫だったかしら……風邪引いていなければいいけど」
彼とは、勿論御者のことである。
口では色々脅したものの、やはりオリビエは心配していたのだ。土砂降りの雨の中、馬車を出させてしまい、申し訳ないと思っていた。
「帰りの迎えは断るべきだったかしら」
そのとき。
ドンッ!
余所見をしながら歩いていたオリビエは前方にいた人に気付かず、ぶつかってしまった。
「わ!」
「キャッ!」
同時に声をあげ、オリビエは慌てて頭を下げて謝った。
「す、すみません!」
すると……。
「あれ? 誰かと思えば……オリビエじゃないか」
「え?」
顔を上げると、驚いたことにぶつかった相手はマックスだった。
「マックス!?」
「今日は良く会う日だな……もしかして、オリビエも馬繋場へ行くところか?」
「ええ、今からよ」
「それは奇遇だ。だったら一緒に行こう」
「そうね、行きましょう」
特に断る理由も無いので、オリビエは頷いたそのとき。
「オリビエ、一体その手……一体どうしたんだ? 今朝会った時は怪我なんかしていなかったじゃないか!」
オリビエの手に巻かれた包帯を見て、目を見開くマックス。
「あ、これね……。ちょっと昼休みにカフェテリアでグラスを割って手を汚してしまったの」
「そう言えば、今日そんな話を聞いたな。カフェテリアで男女トラブルがあって女性が、平手打ちにされそうになったとき、女子学生が食器を割ったことで中断されたって……まさか、それってオリビエのことだったのか!?」
「ええ、そのまさかよ」
「何故、そんなことになったんだよ?」
マックスが眉そひそめる。
「実はね……」
オリビエは彼に理由を説明した――
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