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31話 偶然の再会
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「はぁ~それにしてもお腹が空いたわ……朝の騒ぎのせいで食事を取ることが出来なかったから」
廊下を歩きながら、オリビエはため息をついた。何げなく通路にかけてある時計を見れば、時刻は8時20分だった。1時限目が始まるまでにはまだ40分の余裕がある。
「あら、まだこんな時間だわ。雨が酷かったから早目に馬車を出して貰ったけど、こんなに早く着いたのね。そういえば、随分早く走っているようにも感じたけど……でも、これなら何処かで飲み物くらいなら飲める時間があるかも」
オリビエは知らない。土砂降りの中、一刻も早く到着しなければと必死に馬を走らせていたことを。……事故の危険も顧みず。
時間にまだ余裕があることを知ったオリビエは、早速購買部へ行ってみることにした。
「え!? 閉まってるわ!」
購買部へ行ってみると扉は閉ざされ、営業時間が記された札が吊り下げられていた。
「営業時間は……9時から18時? そ、そんな……」
大学に入学してから、ただの一度も購買部を利用したことが無かったオリビエは営業時間を知らなかったのだ。
「どうしよう……学生食堂やカフェテリアは、ここから遠いし、今から行けば授業が始まってしまうわ……もうお昼まで諦めるしかないわね。せめてミルクだけでも飲みたかったのに」
ため息をついて、踵を変えようとしたとき。
「あれ? もしかして……オリビエじゃないか?」
聞き覚えのある声に、振り返ってみると驚いたことにマックスの姿があった。彼は肩から大きな布袋をさげている。
「え? マックス? どうしてこんなところにいるの?」
まさかマックスに出会うとは思わず、オリビエは目を見開いた。
「それはこっちの台詞だよ。購買部はまだ開いていないんだぞ?」
「そうみたいね……私、購買部を一度も利用したことが無かったから営業時間を知らなかったのよ」
「そうだったのか。でも、何しに購買部へ来たんだ?」
「え、ええ。実は……今朝、ちょっとしたことがあって食事をする時間が無かったの。それで、何か買おうと思って購買部へ来たのだけど……あら、そういえばマックスは営業時間を知っているのに何故ここへ来たの?」
するとマックスは笑顔を見せた。
「俺は、品物を置きに来たのさ」
「え? 品物?」
「まぁいいや。まだ時間もあることだし、一緒に中へ入らないか? 実は鍵も持っているんだ」
マックスはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで扉を開けるとオリビエに手招きした。
「入れよ」
「え、ええ」
マックスに続いて中へ入ったオリビエは声を上げた。
「まぁ、中は意外と広いのね」
部屋の中にはカウンターと陳列棚が置かれている。棚の上には雑貨や、文房具。それに雑誌などが並べられている。
さらに窓側の壁にはカウンターテーブルと椅子が置かれていた。
「ひょっとして、購買部へ来るのは初めてなのか?」
カウンターに大きな布袋を置くマックス。
「ええ、そうなの。初めてくるけれど、色々な品物が売られていて面白いわ。それでマックスは何をし来たの? そろそろ教えてくれる?」
「ああ、俺はこれを売る為に来たのさ」
マックスは布袋に手を入れると、中からパラフィン紙に包まれた焼き菓子のようなものを取り出した。
「これは何?」
「姉の店で作ったスコーンさ。週に3回、大学の購買部に置かせて貰って売ってるのさ」
「まぁ、そうだったのね?」
「ほら、あげるよ」
マックスがスコーンを差し出してきた。
「え?」
「俺の口から言うのも何だが、うまいぜ。味は保証する」
「だったら、買わせてもらうわ。だって売り物でしょう? 貰うなんて悪いもの」
財布を出そうとしたところ、腕を掴んで止められた。
「いいんだって、俺はオリビエに食べて貰いたいんだよ」
「マックス……」
「オリビエは何と言っても、美食家として名高いフォード子爵家の娘だろう? 食べて貰って評価してもらいたいんだよ」
「評価……」
その言葉に、父が賄賂を受け取ってライバル店の料理を酷評記事を書いていたという話を思い出す。
「どうしたんだ?」
オリビエの顔が曇ったことに、マックスが気付いた。
「マックス、私の話……聞いてくれる?」
「? あ、ああ。いいぜ」
「実は……」
オリビエは今朝の出来事を話しはじめた——
廊下を歩きながら、オリビエはため息をついた。何げなく通路にかけてある時計を見れば、時刻は8時20分だった。1時限目が始まるまでにはまだ40分の余裕がある。
「あら、まだこんな時間だわ。雨が酷かったから早目に馬車を出して貰ったけど、こんなに早く着いたのね。そういえば、随分早く走っているようにも感じたけど……でも、これなら何処かで飲み物くらいなら飲める時間があるかも」
オリビエは知らない。土砂降りの中、一刻も早く到着しなければと必死に馬を走らせていたことを。……事故の危険も顧みず。
時間にまだ余裕があることを知ったオリビエは、早速購買部へ行ってみることにした。
「え!? 閉まってるわ!」
購買部へ行ってみると扉は閉ざされ、営業時間が記された札が吊り下げられていた。
「営業時間は……9時から18時? そ、そんな……」
大学に入学してから、ただの一度も購買部を利用したことが無かったオリビエは営業時間を知らなかったのだ。
「どうしよう……学生食堂やカフェテリアは、ここから遠いし、今から行けば授業が始まってしまうわ……もうお昼まで諦めるしかないわね。せめてミルクだけでも飲みたかったのに」
ため息をついて、踵を変えようとしたとき。
「あれ? もしかして……オリビエじゃないか?」
聞き覚えのある声に、振り返ってみると驚いたことにマックスの姿があった。彼は肩から大きな布袋をさげている。
「え? マックス? どうしてこんなところにいるの?」
まさかマックスに出会うとは思わず、オリビエは目を見開いた。
「それはこっちの台詞だよ。購買部はまだ開いていないんだぞ?」
「そうみたいね……私、購買部を一度も利用したことが無かったから営業時間を知らなかったのよ」
「そうだったのか。でも、何しに購買部へ来たんだ?」
「え、ええ。実は……今朝、ちょっとしたことがあって食事をする時間が無かったの。それで、何か買おうと思って購買部へ来たのだけど……あら、そういえばマックスは営業時間を知っているのに何故ここへ来たの?」
するとマックスは笑顔を見せた。
「俺は、品物を置きに来たのさ」
「え? 品物?」
「まぁいいや。まだ時間もあることだし、一緒に中へ入らないか? 実は鍵も持っているんだ」
マックスはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで扉を開けるとオリビエに手招きした。
「入れよ」
「え、ええ」
マックスに続いて中へ入ったオリビエは声を上げた。
「まぁ、中は意外と広いのね」
部屋の中にはカウンターと陳列棚が置かれている。棚の上には雑貨や、文房具。それに雑誌などが並べられている。
さらに窓側の壁にはカウンターテーブルと椅子が置かれていた。
「ひょっとして、購買部へ来るのは初めてなのか?」
カウンターに大きな布袋を置くマックス。
「ええ、そうなの。初めてくるけれど、色々な品物が売られていて面白いわ。それでマックスは何をし来たの? そろそろ教えてくれる?」
「ああ、俺はこれを売る為に来たのさ」
マックスは布袋に手を入れると、中からパラフィン紙に包まれた焼き菓子のようなものを取り出した。
「これは何?」
「姉の店で作ったスコーンさ。週に3回、大学の購買部に置かせて貰って売ってるのさ」
「まぁ、そうだったのね?」
「ほら、あげるよ」
マックスがスコーンを差し出してきた。
「え?」
「俺の口から言うのも何だが、うまいぜ。味は保証する」
「だったら、買わせてもらうわ。だって売り物でしょう? 貰うなんて悪いもの」
財布を出そうとしたところ、腕を掴んで止められた。
「いいんだって、俺はオリビエに食べて貰いたいんだよ」
「マックス……」
「オリビエは何と言っても、美食家として名高いフォード子爵家の娘だろう? 食べて貰って評価してもらいたいんだよ」
「評価……」
その言葉に、父が賄賂を受け取ってライバル店の料理を酷評記事を書いていたという話を思い出す。
「どうしたんだ?」
オリビエの顔が曇ったことに、マックスが気付いた。
「マックス、私の話……聞いてくれる?」
「? あ、ああ。いいぜ」
「実は……」
オリビエは今朝の出来事を話しはじめた——
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