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29話 オリビエの反撃 5
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オリビエは使用人達と共に、エントランス前でニールが戻って来るのを談笑しながら待っていた。
「いや~それにしてもオリビエ様、お見事でした。あいつは前から態度がでかくて、気に入らなかったんです」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
フットマンの言葉に、オリビエはまんざらでもない笑みを浮かべる。
「あいつ、いつも偉ぶっていたんですよ。オリビエ様にやりこめられたときのニールの顔ったらないですよ」
「本当に爽快でした!」
「私もすっきりしました。ニールは本当に嫌な男でしたから」
今や、すっかりオリビエに対する使用人達の態度は変わっていた。
「オリビエ様、ミハエル様への報告は俺たちに任せて下さい!」
万年筆を奪った大柄な男が自分の胸をドンと叩く。
「確か、あなたはトビーだったわよね?」
「え? 俺の名前も御存知だったのですか?」
トビーは首を傾げる。
「ええ、この屋敷で働く使用人の名前を家人が覚えるのは当然のことでしょう?」
何しろオリビエは抜群の記憶力を持っており、人の顔と名前を覚えるのは得意だったのだ。
「すごいです! オリビエ様!」
「こんなに優秀な方だったなんて……!」
使用人達は感動の目をオリビエに向けてくる。
「トビー。私は兄の次の専属フットマンとして、あなたが適任だと思うわ」
「ええ!? お、俺がですか!?」
「ええ。だって真っ先に動いてニールから万年筆を奪ったでしょう? だからよ」
「オリビエ様……」
トビーがオリビエに感動の目を向けた時。
――バンッ!
目の前の扉が突然開かれ、雨具を身に着けたニールがエントランスの中に飛び込んできた。彼の背後には不満げな顔つきの御者もいる。
「オリビエ様! どうですか!? ちゃんと御者を連れてきましたよ! これでミハエル様へ告げ口はしないでもらえますよね!?」
ポタポタ雫を垂らしながら、訴えるニール。
「ええ、そうね。私からは告げ口しないから安心してちょうだい?」
そしてニコリと笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます……! オリビエ様には感謝いたします! 今後は心を入れ替えると誓います!!」
すると、背後にいた男性御者が不満そうに口を開いた。
「全く……勘弁してくださいよ。こんな土砂降りの日に馬車を出せなんて。少しは遠慮ってものを知らないんですかね」
するとその場に居合わせた使用人達が一斉に御者を責め始めた。
「何だとぉっ! 貴様! オリビエ様に何て口を叩くんだよ!」
「そうだそうだ!! 黙って言うことを聞けよ!」
「あなたの役目は馬車を出す事でしょう!!」
「な、何なんだよ! お前たち! 一体どうしちまったんだよ!? だってオリビエ様だぜ!? この屋敷の厄介者の!」
あろうことか、御者はオリビエを指さすと、トビーが怒鳴りつけた。
「馬鹿野郎! オリビエ様を指さすな! お前は黙って馬車を出せばいいんだよ!」
「な、何なんだよ! 大体なぁ、馬車を出して欲しければ旦那様から許可を貰ってきたらどうなんです? まあ、もっともオリビエ様が許可を貰えるとは思いませんけどね」
腕を組んでふんぞり返る御者。
「ええ、そう言われると思って許可ならもう頂いているわ」
オリビエが御者の前に進み出て来た。
「……え? 嘘ですよね?」
「ほら、これでいいかしら?」
オリビエは先ほど父から貰った名刺を御者の眼前につきつけた。彼は少しの間、食い入るように名刺を見つめていたが……。
「ほ、本当だ……しかも、これは旦那様の筆跡……」
御者はランドルフの筆跡を見慣れている。
「これで分かったでしょう? 早速馬車を出して貰おうかしら?」
オリビエは名刺を引っこめると、ニコリと笑った――
「いや~それにしてもオリビエ様、お見事でした。あいつは前から態度がでかくて、気に入らなかったんです」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
フットマンの言葉に、オリビエはまんざらでもない笑みを浮かべる。
「あいつ、いつも偉ぶっていたんですよ。オリビエ様にやりこめられたときのニールの顔ったらないですよ」
「本当に爽快でした!」
「私もすっきりしました。ニールは本当に嫌な男でしたから」
今や、すっかりオリビエに対する使用人達の態度は変わっていた。
「オリビエ様、ミハエル様への報告は俺たちに任せて下さい!」
万年筆を奪った大柄な男が自分の胸をドンと叩く。
「確か、あなたはトビーだったわよね?」
「え? 俺の名前も御存知だったのですか?」
トビーは首を傾げる。
「ええ、この屋敷で働く使用人の名前を家人が覚えるのは当然のことでしょう?」
何しろオリビエは抜群の記憶力を持っており、人の顔と名前を覚えるのは得意だったのだ。
「すごいです! オリビエ様!」
「こんなに優秀な方だったなんて……!」
使用人達は感動の目をオリビエに向けてくる。
「トビー。私は兄の次の専属フットマンとして、あなたが適任だと思うわ」
「ええ!? お、俺がですか!?」
「ええ。だって真っ先に動いてニールから万年筆を奪ったでしょう? だからよ」
「オリビエ様……」
トビーがオリビエに感動の目を向けた時。
――バンッ!
目の前の扉が突然開かれ、雨具を身に着けたニールがエントランスの中に飛び込んできた。彼の背後には不満げな顔つきの御者もいる。
「オリビエ様! どうですか!? ちゃんと御者を連れてきましたよ! これでミハエル様へ告げ口はしないでもらえますよね!?」
ポタポタ雫を垂らしながら、訴えるニール。
「ええ、そうね。私からは告げ口しないから安心してちょうだい?」
そしてニコリと笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます……! オリビエ様には感謝いたします! 今後は心を入れ替えると誓います!!」
すると、背後にいた男性御者が不満そうに口を開いた。
「全く……勘弁してくださいよ。こんな土砂降りの日に馬車を出せなんて。少しは遠慮ってものを知らないんですかね」
するとその場に居合わせた使用人達が一斉に御者を責め始めた。
「何だとぉっ! 貴様! オリビエ様に何て口を叩くんだよ!」
「そうだそうだ!! 黙って言うことを聞けよ!」
「あなたの役目は馬車を出す事でしょう!!」
「な、何なんだよ! お前たち! 一体どうしちまったんだよ!? だってオリビエ様だぜ!? この屋敷の厄介者の!」
あろうことか、御者はオリビエを指さすと、トビーが怒鳴りつけた。
「馬鹿野郎! オリビエ様を指さすな! お前は黙って馬車を出せばいいんだよ!」
「な、何なんだよ! 大体なぁ、馬車を出して欲しければ旦那様から許可を貰ってきたらどうなんです? まあ、もっともオリビエ様が許可を貰えるとは思いませんけどね」
腕を組んでふんぞり返る御者。
「ええ、そう言われると思って許可ならもう頂いているわ」
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「……え? 嘘ですよね?」
「ほら、これでいいかしら?」
オリビエは先ほど父から貰った名刺を御者の眼前につきつけた。彼は少しの間、食い入るように名刺を見つめていたが……。
「ほ、本当だ……しかも、これは旦那様の筆跡……」
御者はランドルフの筆跡を見慣れている。
「これで分かったでしょう? 早速馬車を出して貰おうかしら?」
オリビエは名刺を引っこめると、ニコリと笑った――
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