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26話 父と娘の心変わり その1
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廊下に2人きりになると、ランドルフがオリビエに笑顔を向けてきた。
当然、オリビエの身体に鳥肌が立つ。
「オリビエ……」
「はい、何でしょうか。お父様」
背中に悪寒を感じながら返事をする。
「他の家族は皆、行ってしまったが2人だけで朝食に行こうか。丁度お前に話したいことがあるしな」
「いいえ、結構です」
「そうか、結構か……何っ!? け、結構だと!? 今、結構だと言ったのか!? 何故だ!?」
「そんなに身体をよろめかせて大袈裟に驚かないで下さい。今の騒ぎで朝食を取る時間が無くなってしまったのです。大学に遅刻する訳にはいきませんし、それに今日は馬車をお願いしないとなりませんので」
「そうか……確かに大学に遅刻するわけにはいかんな。何しろ、お前は子供たちの仲で一番優秀な存在だからな」
どの口が言うのか、ランドルフは頷きながら納得した素振りを見せる。
(全く、どの口が言うのかしら。いきなり豹変して呆れて物も言えないわ)
「よし、では大学へ行ってしっかり学んでおいで。お前には期待しているからな」
「はい。では馬車を出す許可証を下さい」
オリビエは右手を差し出した。
「許可証? そんなもの、別に必要無いだろう?」
首を傾げるランドルフに、オリビエは大げさにため息をついた。
「お父様は、本当に私に無関心なのですね。この屋敷の人達が今まで私にどんな仕打ちをしてきたか御存知無いのですか?」
「そ、それは……」
心当たりがあるランドルフは俯く。
「皆私を馬鹿にしてきたし、御者も馬車を出してはくれないのですよ?」
「何と! 馬車すら出してはもらえなかったのか!?」
余程驚いたのか、ランドルフは身体をのけぞらせる。
「はい、そうです。だから私は自転車通学をしていました。ですが、本日は御覧の通り、雨です。自転車では行けません。という訳で許可証を下さい」
「よし分かった、許可証と言わず、オリビエには私の名刺を授ける。さらにサインをしておこう。お前を必ず馬車に乗せるようにとな!」
ランドルフはポケットから名詞と万年筆を取り出すと、サラサラとサインをしてメモ書きした。
「さぁオリビエ! ありがたく受け取るが良い! これで今日からお前は自由自在に馬車に乗れるぞ!」
妙に恩着せがましい態度で名刺を差し出してくる父、ランドルフ。
「はい、ありがとうございます」
オリビエは無表情で名刺を受け取る。
以前のオリビエなら感動して名刺を受け取っていたが、今は違う。何しろ、家族全員の失態を目の当たりにしてしまったのだ。
今となってはオリビエにとって家族は媚を売る存在では無く、軽蔑する存在に成り下がっていた。
……むろん、満足げにオリビエを見つめるランドルフは娘の心変わりに気付くはずも無い。
「それではお父様、大学に行って参ります」
「うむ、頑張って勉学に励んでくるのだ。お前はフォード家の期待の星だからな」
こうしてオリビエは父の熱い視線を背中に受けながら、その場を後にした。
自分を今迄散々馬鹿にしてきた使用人達と対決する為に——
当然、オリビエの身体に鳥肌が立つ。
「オリビエ……」
「はい、何でしょうか。お父様」
背中に悪寒を感じながら返事をする。
「他の家族は皆、行ってしまったが2人だけで朝食に行こうか。丁度お前に話したいことがあるしな」
「いいえ、結構です」
「そうか、結構か……何っ!? け、結構だと!? 今、結構だと言ったのか!? 何故だ!?」
「そんなに身体をよろめかせて大袈裟に驚かないで下さい。今の騒ぎで朝食を取る時間が無くなってしまったのです。大学に遅刻する訳にはいきませんし、それに今日は馬車をお願いしないとなりませんので」
「そうか……確かに大学に遅刻するわけにはいかんな。何しろ、お前は子供たちの仲で一番優秀な存在だからな」
どの口が言うのか、ランドルフは頷きながら納得した素振りを見せる。
(全く、どの口が言うのかしら。いきなり豹変して呆れて物も言えないわ)
「よし、では大学へ行ってしっかり学んでおいで。お前には期待しているからな」
「はい。では馬車を出す許可証を下さい」
オリビエは右手を差し出した。
「許可証? そんなもの、別に必要無いだろう?」
首を傾げるランドルフに、オリビエは大げさにため息をついた。
「お父様は、本当に私に無関心なのですね。この屋敷の人達が今まで私にどんな仕打ちをしてきたか御存知無いのですか?」
「そ、それは……」
心当たりがあるランドルフは俯く。
「皆私を馬鹿にしてきたし、御者も馬車を出してはくれないのですよ?」
「何と! 馬車すら出してはもらえなかったのか!?」
余程驚いたのか、ランドルフは身体をのけぞらせる。
「はい、そうです。だから私は自転車通学をしていました。ですが、本日は御覧の通り、雨です。自転車では行けません。という訳で許可証を下さい」
「よし分かった、許可証と言わず、オリビエには私の名刺を授ける。さらにサインをしておこう。お前を必ず馬車に乗せるようにとな!」
ランドルフはポケットから名詞と万年筆を取り出すと、サラサラとサインをしてメモ書きした。
「さぁオリビエ! ありがたく受け取るが良い! これで今日からお前は自由自在に馬車に乗れるぞ!」
妙に恩着せがましい態度で名刺を差し出してくる父、ランドルフ。
「はい、ありがとうございます」
オリビエは無表情で名刺を受け取る。
以前のオリビエなら感動して名刺を受け取っていたが、今は違う。何しろ、家族全員の失態を目の当たりにしてしまったのだ。
今となってはオリビエにとって家族は媚を売る存在では無く、軽蔑する存在に成り下がっていた。
……むろん、満足げにオリビエを見つめるランドルフは娘の心変わりに気付くはずも無い。
「それではお父様、大学に行って参ります」
「うむ、頑張って勉学に励んでくるのだ。お前はフォード家の期待の星だからな」
こうしてオリビエは父の熱い視線を背中に受けながら、その場を後にした。
自分を今迄散々馬鹿にしてきた使用人達と対決する為に——
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