12 / 57
12話 意地悪メイドの企み
しおりを挟む
18時半を少し過ぎた頃のこと。
ゾフィー付きのメイドが厨房で、料理長と話をしていた。
「え? 今、何と言ったんだ?」
料理長が怪訝そうな表情を浮かべる。
「だから今夜の食事、オリビエにはスープとパンだけを出すようにって言ってるのよ」
仮にも子爵令嬢であるオリビエを呼び捨てにするこのメイドはゾフィーから格別に可愛がられている。
先程オリビエを睨みつけていたのも、このメイドだ。彼女はゾフィーに気に入られているのをいいことに、使用人の中で尤もオリビエを軽視していたのだ。
「これでも俺は、この屋敷の厨房を任されているんだぞ? その俺に使用人以下の料理をオリビエ様に出せって言うのか?」
料理長としてプライドが高い彼は、この提案が面白くないので不満げな顔を浮かべる。
「そうよ、これは奥様からの命令なの。今日、オリビエは生意気な態度を奥様にとったのよ。その罰として、今夜の料理はスープとパンだけにするようにって命じられのよ」
本当はそんなことは言われてなどいない。けれど、このメイドは点数稼ぎの為に嘘をついた。
1人だけ貧しい食事を与えて、身の程を分からせようと企んだのだ。
「奥様の命令なら仕方ないか。分かった、スープとパンだけをオリビエ様に提供すればいいんだな?」
「ええ、そうよ。分かった?」
「何処までも横柄な態度を取るメイドに、料理長は素直に従うことにしたのだった。
そして、その様子を物陰で見つめていたのは専属メイドのトレーシー。
(た、大変だわ……! オリビエ様のお食事が……!)
トレーシーはメイドと料理長が交わしたやりとりの一部始終を目撃すると、踵を返してのオリビエの元へ向かった――
****
「大変です! オリビエ様!」
トレーシーはオリビエの部屋へ駈け込んで来た。
「トレーシー、そんなに慌ててどうしたの?」
「それが……」
トレーシーは自分が厨房で見てきたこと全てを説明した。
「ふ~ん……そう。義母は、自分のお気に入りのメイドを使ってそんな真似をしたのね?」
「どうなさるおつもりですか? オリビエ様」
まだ年若いトレーシーはオロオロしている。
「そうね……」
今迄のオルガなら家族に嫌われたくない為に、どんな処遇も受け入れただろう。けれど、憧れのアデリーナに指摘されて目が覚めたのだ。
『何故、我慢しなければならないの? 家族に媚を売って生きるのはもう、おやめなさいよ』
アデリーナの言葉が耳に蘇ってくる。
「そんな嫌がらせをされるなら、今夜の食事は家で食べないわ」
「え!? オリビエ様!?」
「今夜は外食をしてくるわ。屋敷の鍵だって持っているし、閉め出される心配もないもの」
「で、ですがどうやって町まで行くのですか? 歩いていくには遅くなるし、馬車を出して貰えるはずも……あ!」
そこでトレーシーは気付いた。
「そうよ。私には自転車があるから町までなんて、5分もあれば行けるわ。それに普段から自転車で走っているから、色々なお店も知ってるしね」
「でも、お一人で大丈夫ですか? かと言って、私は自転車に乗れないのでご一緒出来ませんし……」
「大丈夫よ。トレーシーは心配性ね。それに、あなたには頼みたいことがあるのよ」
「お願い? 私にですか?」
「ええ、そうよ。それはね……」
トレーシーはオリビエの頼みに目を見開いた――
ゾフィー付きのメイドが厨房で、料理長と話をしていた。
「え? 今、何と言ったんだ?」
料理長が怪訝そうな表情を浮かべる。
「だから今夜の食事、オリビエにはスープとパンだけを出すようにって言ってるのよ」
仮にも子爵令嬢であるオリビエを呼び捨てにするこのメイドはゾフィーから格別に可愛がられている。
先程オリビエを睨みつけていたのも、このメイドだ。彼女はゾフィーに気に入られているのをいいことに、使用人の中で尤もオリビエを軽視していたのだ。
「これでも俺は、この屋敷の厨房を任されているんだぞ? その俺に使用人以下の料理をオリビエ様に出せって言うのか?」
料理長としてプライドが高い彼は、この提案が面白くないので不満げな顔を浮かべる。
「そうよ、これは奥様からの命令なの。今日、オリビエは生意気な態度を奥様にとったのよ。その罰として、今夜の料理はスープとパンだけにするようにって命じられのよ」
本当はそんなことは言われてなどいない。けれど、このメイドは点数稼ぎの為に嘘をついた。
1人だけ貧しい食事を与えて、身の程を分からせようと企んだのだ。
「奥様の命令なら仕方ないか。分かった、スープとパンだけをオリビエ様に提供すればいいんだな?」
「ええ、そうよ。分かった?」
「何処までも横柄な態度を取るメイドに、料理長は素直に従うことにしたのだった。
そして、その様子を物陰で見つめていたのは専属メイドのトレーシー。
(た、大変だわ……! オリビエ様のお食事が……!)
トレーシーはメイドと料理長が交わしたやりとりの一部始終を目撃すると、踵を返してのオリビエの元へ向かった――
****
「大変です! オリビエ様!」
トレーシーはオリビエの部屋へ駈け込んで来た。
「トレーシー、そんなに慌ててどうしたの?」
「それが……」
トレーシーは自分が厨房で見てきたこと全てを説明した。
「ふ~ん……そう。義母は、自分のお気に入りのメイドを使ってそんな真似をしたのね?」
「どうなさるおつもりですか? オリビエ様」
まだ年若いトレーシーはオロオロしている。
「そうね……」
今迄のオルガなら家族に嫌われたくない為に、どんな処遇も受け入れただろう。けれど、憧れのアデリーナに指摘されて目が覚めたのだ。
『何故、我慢しなければならないの? 家族に媚を売って生きるのはもう、おやめなさいよ』
アデリーナの言葉が耳に蘇ってくる。
「そんな嫌がらせをされるなら、今夜の食事は家で食べないわ」
「え!? オリビエ様!?」
「今夜は外食をしてくるわ。屋敷の鍵だって持っているし、閉め出される心配もないもの」
「で、ですがどうやって町まで行くのですか? 歩いていくには遅くなるし、馬車を出して貰えるはずも……あ!」
そこでトレーシーは気付いた。
「そうよ。私には自転車があるから町までなんて、5分もあれば行けるわ。それに普段から自転車で走っているから、色々なお店も知ってるしね」
「でも、お一人で大丈夫ですか? かと言って、私は自転車に乗れないのでご一緒出来ませんし……」
「大丈夫よ。トレーシーは心配性ね。それに、あなたには頼みたいことがあるのよ」
「お願い? 私にですか?」
「ええ、そうよ。それはね……」
トレーシーはオリビエの頼みに目を見開いた――
1,126
お気に入りに追加
3,966
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる